第百九十話 有益な情報
それから、俺は約2時間程に渡って、トビアスさんからダンジョンについての情報を教えてもらった。
‟隠し事なしで全て話す”の言葉通り、以前に喫茶店で話したときよりも実用的且つ、一般では流出していないような情報まで教えて頂けた。
特殊な冒険者のパーティ斡旋を行っている人物の情報に、冒険者ギルドに関しての一般的に知られてない得する情報。
ダンジョンモニターには映らない、現在の最高到達階層である60階層までの、魔物とフロアボスの情報及び、階層ごとの採取物とセーフエリアの情報。
そして、60階層までの情報をトビアスさんに提供したであろう、現在のランダウストダンジョン最高到達階層パーティである【エクリプス】の連絡先。
教えて貰った全ての情報が有用的なのは間違いないが……。
俺が一番有用的だと思えたのは、60階層までの採取できる植物の情報。
トビアスさんから採取できる植物として上げられた植物の名前は、基本的には一般的に普及している植物の名前ばかりだったのだが、22階層で採取できる植物に俺は強い違和感を覚えた。
その違和感とは、現状22階層でしか採取出来ないという‟魔潤草”の存在と、‟オール草”と‟レジスト草”が同フロアに生息しているという二点。
トビアスさんの話によると、魔潤草はいわゆる魔力草の上位互換のような植物らしい。
俺は『エルフの涙』のおばあさんが言っていた、‟魔星草”=魔潤草ではないのかとも考えたのだが、どうやら最上級品質ポーションの材料にはなり得ないとのことなので、別種の植物といえるだろう。
まあ、トビアスさんは最上級品質ポーションなんか聞いたことがないと言っていたから、詳しい真偽については不明だけどね。
……っと話が逸れたけど、俺がもう一つの引っかかった点である、オール草とレジスト草の同フロアでの生息について。
この現象なのだが、普通ならばあり得ないことが起きているのだ。
レジスト草というのは、オール草と並ぶくらい治療師ギルドでは重宝されていた植物。
ただ、極めて気温の低い地域でしか生息することができず、王国では採取することが困難な植物でもあった。
現に何度も行ったコルネロ山での植物採取でも、レジスト草は採取出来ていないしね。
そして、対するオール草はというと、レジスト草とは逆で比較的温かい地域にしか生息できない。
このことから考えると、同じフロアにこの二種類の植物が生息しているというのは、普通では考えられない現象が起こっていることが分かる。
まあ、単純に同じ階層で寒いエリアと暑いエリアが混在している可能性もあるが、ダンジョンモニターの映像を見る限りは、他の階層と大きな違いが見られなかったし……。
もう一つの引っかかった点でもある魔潤草が、22階層にのみ生息していることからも、俺はこの22階層は植物に関しての何かがあるのではないかと考えついた。
この俺の考察が正しいのであれば、22階層には未知の植物が多く生息している可能性も高い。
本格的なダンジョン攻略をしたことのない俺からしてみれば、22階層はまだまだ先の話ではあるのだが……。
【青の同盟】さん達に‟追いつかなければいけない”ことを考えれば、俺にとっては絶対に鍵となる情報と確信している。
「トビアスさん。色々な情報を教えて頂き、本当にありがとうございました」
「いいって、気にするな。俺も取材を受けてもらうんだしな。これからも何か知りたくなったら、遠慮なく聞きにこいよ。有益な情報を手に入れたら、ルインに回すからよ」
「ありがとうございます! それでは遠慮なく聞きに来させて頂きます!」
俺がそう伝えると、トビアスさんは笑顔を見せてくれた。
本当に偶然の出会いだったが、トビアスさんと知り合えて良かった。
「あっ、そうだ。これも持っていっていいぞ。30階層までだが、階層ごとの特徴と出現する魔物の細かな情報が記載してある俺の手帳だ」
「えっ……。この手帳って、トビアスさんにとっても大事な物なんじゃ……」
「いや、これは記者として作ったものじゃねぇから大丈夫だ。まあ、『一冊で分かるランダウストのダンジョン』みたいな本にしようと画策はしていたけどな」
「本にするんだったら、尚更貰っては駄目なんじゃないんですか?」
「画策したってだけで、上から情報量が多すぎると却下されちまったから……もう関係ない話だ。無駄な情報も多いだろうが使える情報もたくさんあるから、ルインが有効活用してくれ」
「そういうことでしたら……。遠慮なく使わせて頂きます! ありがとうございます!」
「おう! 良い記事になるような、有意義な攻略をしてくれ。頼んだぜ」
こうして、トビアスさんに情報と手帳のお礼を言った俺は、ラウダンジョン社を後にした。
まさか、ここまで良くしてくれるとは思っていなかった。
浅い思いつきで押しかけた訳だし、追い返されても仕方ないと思っていたが……トビアスさんには本当に感謝しかない。
よしっ! さて、これからなのだが……。
まずはトビアスさんの言葉通り、パーティメンバー集めから始めようと思う。
俺の求める条件が特殊すぎる故にメンバー集めは難航しそうだが、トビアスさんから貰った情報を活用すれば、割となんとかなりそうな気がしている。
まずは、パーティ斡旋を行っている人の下へ向かおうか。
トビアスさんの話では、この廃れた飲み屋街にある『亜楽郷』という酒場のマスターが、冒険者パーティの斡旋を行っていると言っていた。
聞いた話によると、ここで斡旋して貰える冒険者は普通の冒険者ではなく、冒険者ギルドを追い出された訳あり冒険者達らしく、性格や素行に問題がある者が多い代わりに融通の利きやすいパーティを組めるとトビアスさんに紹介してもらったのだ。
【白のフェイラー】の一件があるから、素行に問題がある冒険者とは一緒に組みたくはないが……。
もしかしたら、何かしらの事情があって追い出されてしまった、普通の冒険者もいるかもしれないからな。
ここが駄目でもまだ宛てはあるため、気持ち的にはかなり気楽な状態でいられている。
そんなこんな考えながら、ラウダンジョンから近い距離にある『亜楽郷』へと辿り着いた俺は、早速階段を降りてお店の中へと入ったのだった。
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