第百八十七話 アーメッドの思い
※【青の同盟】アーメッド視点となります。
「それでしたら良かったです。アーメッドさんの元気な姿を見れただけでも、こうしてランダウストに来た甲斐がありました!」
「……む、むむ。まあ、ルインも元気そうで良かったぞ」
「そうですね! アーメッドさんと別れてから色々とありましたが、俺も元気にやってましたよ!」
「……なんか随分と嬉しそうだな」
「そりゃあ、アーメッドさんは命の恩人で大事な人ですから! 久しぶりにこうして会話出来て嬉しいですよ! それに昨日はすぐに何処かへ行ってしまったので、もしかしたら嫌われているのかとも――」
「嫌っては!!……ぃないぞ。決してな。……そこは心配しなくていい」
嫌ってなんかいない。
心配そうな表情を見せたルインに、この部分だけはしっかりと否定しておく。
自分でも理解できない心境のため詳しくは説明できないのだが、嫌っている訳ではないことは心から言える。
「それなら本当に良かったです! 嫌われていないのであれば、アーメッドさんとは色々と話したいことがありましたので!」
「……そうか」
一瞬見せた心配そうな表情を明るくし、そう告げてきたルイン。
そんな表情を見て俺もホッとするが……俺と話したいことか。
また訳の分からない情緒に陥るのではと少し嫌な予感がし、つい視線を逸らしてしまう。
「それと……俺は話がしたいがためだけに、このランダウストに来た訳じゃないんです」
「話がしたいためだけじゃない? ルイン、それはどういう意味なんだ?」
その気になる一言に思わず視線を戻し、俺は反射的に尋ねた。
俺に何かを伝えに来たのか、それとも何か渡したい物でもあるのか。
一瞬で様々な思考が俺の頭を巡るが、答えには辿り着かない。
「実は俺……。【青の同盟】に入れてもらうために、このランダウストまで来たんです! アーメッドさんと別れ際にした、あの約束を果たしに来ました!」
絞り出すように、ただ元気よく発したルインの言葉。
その言葉に、俺は体の底から湧き立つような喜びが溢れ、そしてその喜びは一瞬にして露散した。
確かにルインとパーティを組むのは……この一年間、常に頭の片隅で考えていたことだ。
一緒にダンジョンに潜ったりクエストを行ったりするのも、確実に楽しく充実した日々を送れると断言できる。
ただ、ルインが別れ際に宣言した――‟強くなって恩を返す”。
今のルインを俺は知らないが、どうしてもこの言葉を俺は安く感じてしまった。
グレゼスタで離れてから約1年。ルインが強くなったことは、その立ち振る舞いを見れば一発で分かる。
ただ、俺に恩を返せるほど強くなったのかと問われれば疑問が浮かび、そのせいで喜びは一瞬で霧散したのだ。
「すまないな、ルイン。それはまだ出来ないことだ」
「………………え?」
俺の言葉に反応したルインは、驚きの表情を浮かべたまま固まってしまった。
恐らくだが、二つ返事で許可を貰えると思っていたのだろう。
俺も数秒前まではそのつもりでいたしな。
「えっ!? なんででやしょうか? エリザはあれだけルインと一緒に冒険したが——」
「スマッシュ、うるせぇぞ。俺は俺達に恩を返せるくらい強くなったら、【青の同盟】に入れると約束したんだ。今のルインがそこまで強くなっているとは、俺は思わない」
「いや……それは実際に見て、確認しなければ分からないじゃないですか。私は一緒にパーティを組みたいですし、実力を見るという意味でも一度、一緒にダンジョンに潜りましょうよ」
固まっているルインの代わりに、スマッシュとディオンが話に割り込んできた。
この様子だと昨日の食事会で、スマッシュとディオンで太鼓判を押したのだろう。
……俺を差し置いて食事会。何度思い出してもむしゃくしゃしてくるな。
「なんで俺がそんなことをやらなきゃいけねぇんだ。ルインが自分で実力を示せるまでは俺は入れるつもりはない」
食い下がってくる2人にも、俺はきっぱりとそう告げる。
こいつらもルインのことは可愛がっているからな。
断言しておかないと、また何か画策しかねない。
「スマッシュさん、ディオンさん。擁護してくれてありがとうございます。……ただ、恩を返せるほどの力がついたら加入させてくださいと約束したのは俺ですし、アーメッドさんの言っていることの方が正しいと自分でも理解出来ました」
スマッシュとディオンは納得のいっていない表情だったが、逆に驚いて固まっていたはずのルインは、すっきりとした表情になっていた。
……やはりルインはこいつら2人と違って、俺の言わんとすることを即座に理解してくれる。
だったらすぐにでも、この有能なルインをパーティに加入させろって話なのだが。
それはもう――俺の気持ちが許さないのだから仕方ねぇ。
「ですが、【青の同盟】への加入を諦めた訳ではないです。俺が今よりも強くなるには、【青の同盟】に入れてもらうことが一番だと思っていますので。……ですから、アーメッドさん。どうすれば、俺の実力がパーティ加入に足りえると思って頂けますか?」
「…………そうだな。ダンジョンでの到達階層がもし追いつけたのなら、加入を認めてやってもいい」
自分の中で決めていた条件をルインに提示する。
この1年間。ダンジョンを潜っていた俺だから分かる厳しい条件だが、‟俺に恩返しをする”。
その口約をしたからには、それぐらいの力を見せてくれなければ納得は出来ない。
ただ条件が厳しいことには変わりないため、もしかしたらルインでも躊躇するかもしれない、そう思ったのだが……。
「アーメッドさん。その条件で間違いはないですか? 俺が【青の同盟】さん達の到達階層に追いつければ、加入を認めて貰いますよ?」
そう迷いなく言葉を発したルインに、俺は思わずにやけてしまう。
……やはりルインはルインだな。
1年前と何も変わっていないし、俺との約束も大事にしていてくれたのだと、この即答ぶりから理解できた。
「ああ。追いつければ加入を認める。ただ、パーティ上限は俺達と同じ3人までだ。キャリーできないようにするためにも、そこはしっかりと制限をつけさせてもらう」
「分かりました。全力で追いつきますので……待っていてください!」
俺はワクワクした表情を浮かべているルインに一度笑いかけてから、踵を返しダンジョンへと向かう。
ずっとかかっていた心の靄のようなものもスッキリと消え、青空がやけに綺麗に見える。
ルインの到達階層が追いついたら、今度こそ大手を振るって歓迎しよう。
あの態度から見てもう既に、‟強くなって恩を返す”。
ルインは本当に、この約束を実現できる強さを既に身に付けてきたのかもしれないが……。
パーティに加わりたいために全力を尽くすと言ってくれるのなら、それを単純に見てみたい。
俺は自分が一国の姫になったような気分になったが、すぐにそんな自分が気持ちが悪くなり、頭を横に振って思考を振り払うと、上機嫌でダンジョンへと向かったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます