第百八十四話 加入の条件

 

 てっきり了承の言葉を貰えると信じ切っていたため、アーメッドさんへの返事の言葉が浮かばずに放心状態となる。


「えっ!? なんででやしょうか? エリザはあれだけルインと一緒に冒険したが——」

「スマッシュ、うるせぇぞ。俺は俺達に恩を返せるくらい強くなったら、【青の同盟】に入れると約束したんだ。今のルインが、そこまで強くなっているとは俺は思わない」

「いや、それは実際に見て確認しなければ分からないじゃないですか。私は一緒にパーティを組みたいですし、実力を見るという意味でも一度、一緒にダンジョンに潜ってみるのが手っ取り早いです」

「なんで俺がそんなことまでしてやらなきゃいけねぇんだ。ルインが自分で実力を示せるまでは俺は入れるつもりはない。これは決定事項だ」

 

 放心状態となった俺に代わって、スマッシュさんとディオンさんが食い下がってくれたみたいだが、アーメッドさんの意思は変わりそうにない。

 ……ただ2人のお陰で、アーメッドさんが俺のパーティ加入を断った意図が伝わった。


 俺を嫌ってとかではなく、単純に実力不足だと思っているからなら、いくらでも加入できるチャンスはあるはず。

 そう思考が纏まると、テンパっていたのも大分落ち着き、冷静さを取り戻すことが出来た。


「スマッシュさん、ディオンさん。擁護してくれてありがとうございます。……ただ、恩を返せるほどの力がついたら加入させてくださいと約束したのは俺ですし、アーメッドさんの言っていることの方が正しいと自分でも理解出来ました」

 

 俺がそう伝えると、スマッシュさんとディオンさんは納得のいっていない様子で頭を掻き、アーメッドさんも何故か渋い表情へと変わった。

 

「ですが、【青の同盟】への加入を諦めた訳ではないです。俺が今よりも更に強くなるためには、【青の同盟】に入れてもらうことが一番だと思っていますので。……ですから、アーメッドさん。どうすれば、俺の実力がパーティ加入するに足りえると思って頂けますか?」


 アーメッドさんにそう尋ねると、先ほど渋くさせた表情をさらに渋くさせて、必死に条件を考えている様子。

 ここで無理難題を言われたら流石に諦めなければならないが、アーメッドさんの態度からして、無茶なことは言わない……はずだ。


「…………そうだな。ダンジョンでの到達階層が俺達に追いつけたのなら、加入を認めてやってもいい」

「エリザ! それは無茶な話で——」

「アーメッドさん。その条件で間違いはないですか? 俺が【青の同盟】さん達の到達階層に追いつければ、加入を認めて貰いますよ?」


 スマッシュさんが反論してくれそうだったが、俺は話に割り込んで念押しする。

 確かに厳しい条件ではあるが、決して無理な条件ではない。

 曖昧なものではない分、しっかりと強くなったことを分かって貰えるのは俺としても助かる。

 

「ああ。追いつければ加入を認める。ただ、パーティ上限は俺達と同じ3人までだ。キャリーできないようにするためにも、そこはしっかりと制限をつけさせてもらうぜ」

「分かりました。全力で追いつきますので……待っていてください!」


 俺がそう宣言すると、アーメッドさんは渋そうな表情を和らげてから一度微笑み、そして踵を返してダンジョンの方へと一人歩いて行った。

 今日にでもパーティが組めると思っていた俺に取っては、少し残念な結果だったが……これからを考えるのであれば、この結果で良かったのかもしれない。


「ルイン君、申し訳ありません。アーメッドさんなら、即決でパーティ加入を許可すると思っていたのですが……」

「本当でさぁ。エリザも意固地なところがありやすから。本当なら、すぐにでもパーティに入れたいと思っているはずなんですがねぇ」

「俺は大丈夫ですよ。それに2人が謝ることではないですから! ……何なら俺は、これで良かったと思ってるぐらいです。実力を見せるには分かりやすい形ですし、ダンジョンに慣れていない俺が、いきなり加入しても足を引っ張ることは確実でしたから」


 申し訳なさそうにしている2人に、俺は笑顔でそう伝える。

 

「だとしても、やはり私は今すぐにでも一緒にパーティを組みたかったですね」

「ディオンさんから、そう言って貰えるだけで満足です。すぐに皆さんの到達階層まで追いつきますから! 待っていてください!」

「……ルイン。頑張るんですぜ! あっしらは応援してやすから、何か相談があればいつでも相談しに来てくだせえ」

「スマッシュさんもありがとうございます! ……それよりお二人共、アーメッドさんの後を追わなくていいんですか? またドヤされてしまいますよ」

「……そうですね。もうゲンコツは懲り懲りですので、後を追いたいと思います。ルイン君、先で待ってますから」

「ディオンの言う通り、あっしらは待っていやすから。いつでもルインの味方ですぜ!」


 俺に励ましの言葉を掛けてくれた後、2人は手を上げながらアーメッドさんの後を追って行った。

 見た目は少し怖いけど……やはり優しい人達だな。


 グレゼスタで俺に手助けしてくれたことを鮮明に思い出す。

 アーメッドさんも厳しいことを言っているようだが、言動と行動の節々からは気を遣ってくれていた様子が伺えたし、根本は何も変わっていないことはしっかり伝わった。


 【青の同盟】の3人と一緒に冒険するためにも、一刻も早く追いつかねば。

 そう決意を固めた俺は、まずはダンジョン攻略のアドバイスを求めるために、ラウダンジョン社のトビアスさんの元へ向かうことを決めたのだった。


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