第百八十二話 男だけの食事会


「なるほど。あっしらがグレゼスタを発ってから、ルインはそんなことをやってたんですかい。いい師にも巡り合えたようですし、もしかしたら相当強くなってるかもしれやせんね」

「確かにそうですね。王国騎士団のキルティは私でも知っていますからね。やること成すことが偉業ばかりだったようで、グレゼスタにいた頃は勝手に情報が耳に入ってきていたぐらいです」

「キルティさんは、やっぱり有名な人なんですね」

「そりゃそうですぜ。グレゼスタじゃ、S級冒険者の次くらいには有名な人物でさぁ」


 俺がこの1年間の話をする中で2人が一番食いついてきた話題は、キルティさんに剣の指導をしてもらったということについてだった。

 てっきり紫トロールこと、ヴェノムトロールについての方が食いついて来ると思ったが、キルティさんは俺の想像以上に有名人だったようだな。


 確かに【鉄の歯車】の面々もキルティさんについては詳しく知っていたし、女性初の王国騎士であり王国騎士団の隊長。

 剣の腕も達人級で、王都からも名指しで招集が掛かっているほどの人。


 本来ならば俺なんかの指導をしてくれる人物ではないことを、第三者からの評価で再確認させられる。

 改めてキルティさんには感謝しかないし、指導してもらった恩を忘れずに約束を果たすという形でしっかりと恩返ししなければいけない。


「それで【青の同盟】さん達は、グレゼスタを発った後はすぐにランダウストに来たんですか?」

「厳密に言えば一度王都に行ったのですが……王都には1週間程しか滞在していませんので、グレゼスタを発った後は殆どランダウストにいましたね」

「そうですぜ。本当は王都で冒険者をやろうと思ってたんでやすが、エリザが気に食わないって言いだして……。折角借りた借家も1週間で契約解除。違約金も支払って本当に散々だったでさぁ」


 相変わらずアーメッドさんらしいことをしているなぁ。

 二人の表情から苦労が伝わってくるが、アーメッドさん全開のエピソードについ頬が緩んでしまう。


「本当にスマッシュさんの言う通りですね。アーメッドさんには貯金という概念がないので、その違約金は私とスマッシュさんで支払ったんです。……まあ、ランダウストのダンジョンのお陰で、その時の違約金ぐらいの額は2ヵ月程で稼げましたが」

「へー! ダンジョンってそんなに儲かるんですね」

「そうですぜ! あっしらも驚いたんでやすが、3人パーティというだけでかなり需要があるらしいんでさぁ」

「少数パーティのお陰で、ダンジョン攻略以外でもかなりの収益が得られてるんですよ。私はここまでダンジョン攻略が娯楽化しているとは思っていませんでしたので、王都を発つと聞いた時は落胆しましたが嬉しい誤算でしたね」


 あー、俺が初日の攻略を終えた際に囲まれた奴のことだろうか。

 ダンジョン新聞や、『一冊で分かるランダウストのダンジョン』のような本の取材を受けることで金銭が得られるのだろう。

 てっきりそういうことはアーメッドさんが嫌がると思っていたが、この二人が主で行っているようだ。


「そう言えば俺も、一昨日初めてダンジョンに潜った際に、記者さんらしき人に囲まれましたよ」

「おお! それはお金を稼げるチャンスですぜ。……というか、ルインも早速ダンジョンに潜ったんですかい! 一体誰と潜ったんですぜ?」

「あー。知り合いとかもいませんでしたので、ダンジョンには一人で潜りました」


 俺がそう伝えると、2人は目をまんまるくさせて驚いた表情をした。

 次第に顔色が青くなり始めていっているのが分かる。


「ダンジョンに一人でですか!? 流石に危ないですよ!! 低階層と言えど危険な魔物が多く出現するんですから!!」

 

 血相を変えて大声を上げたディオンさん。

 俺はそんな急な表情の変化と大声にびっくりしたが、思えばディオンさんとスマッシュさんは俺の成長した姿を知らない。

 口ではキルティさんに指導してもらったと教えていても、ゴブリン相手に逃げ回っていた頃から1年しか経過していないんだもんな。


「ディオンさん、スマッシュさん。大丈夫ですよ。俺、みなさんと一緒に冒険するために強くなりましたので」


 心の底から心配してくれていたことが伝わり、嬉しくなった俺は笑顔で二人にそう告げる。

 そんな俺の発言を聞いた2人は、顔を互いの顔を見合わせた。


「……そういえば私達がグレゼスタを発つときに、そんな約束をアーメッドさんとしてましたね」

「その約束を果たすための王国騎士団の隊長と特訓ですかい……。エリザが聞いたら泣いて喜びやしょうよ」

「恥ずかしいですけど必死で特訓した理由は、仰る通りにその約束を果たすためですね。その努力の結果、オーガ複数匹くらいならば1人でも余裕で倒せるくらいには強くなりました。ですから俺は……アーメッドさんに【青の同盟】に入れてもらうため、このランダウストを訪ねてきたんです」


 改めて伝えると非常に照れ臭いが、これが事実だからな。

 その過程で更に約束が色々と増えたのはあるが、俺が強くなろうと思った切っ掛けはアーメッドさんとの約束。

 【青の同盟】さん達と肩を並べて冒険する姿を夢見たお陰で、グレゼスタでの1年間の猛特訓を負の感情を持つことなく、やり遂げれたといっても過言ではない。


「複数匹のオーガを余裕で……ですかい。あっしらの背後で草葉をむしってた少年が随分と強くなったんでさぁ」

「本当ですね。私でも嬉しくなったのですから、アーメッドさんは本当に嬉しがると思います」

「そうだといいんですが……」

「明日、エリザを呼び出した時に思いの丈をぶつければイチコロですぜ。エリザはルインに甘々でやすから」

「こうなると、ルイン君と一緒にパーティを組むことになるんですね。――私は非常に楽しみですし、大歓迎ですね!」

 

 こうしてスマッシュさんとディオンさんとの食事会は、和やかな空気で会話も進み、2人からの歓迎ムードを受けながら夜遅くまで続いた。

 アーメッドさんも2人のように歓迎してくれればいいのだが、はたしてどうなのだろう。

 とりあえず、明日久しぶりにしっかりと話せるのが非常に楽しみだ。

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