第百八十一話 逃亡の原因

 

 俺が茫然と去っていくアーメッドさんを見送る横で、スマッシュさんとディオンさんも驚いた表情で口をぽかーんとさせていた。

 久しぶりの再会で何故逃げられるのだろう……。

 色々と思い返すが、最後に会話をした別れ際も良好だったと記憶しているし、思い当たる節が一つもない。


「…………あの、アーメッドさんは何故逃げたんでしょうか?」

「すいません。私達にも詳しい理由は分からないですね……。まさか逃げると思っていませんでしたので」

「久しぶりの再会で、恥ずかしいってのがあるのかもしれやせんが……エリザに限っては考え難いでやすからなぁ」


 ずっと一緒にいた二人でも分からないのでは、俺が分かる訳もないな。

 何か明確な理由があれば、謝罪するなりの対処の方法もあるのだけど。

 必死に色々と考えるが結局何も分からず仕舞いのまま、しばらく沈黙の間が流れた後、スマッシュさんがこの気まずい空気を嫌った様子で無理やり話を始めた。


「とりあえず一度場所を変えやしょうか。ご飯でも食べれるところでゆっくり話をしやしょう」

「そうですね。久しぶりの再会ですし、ルイン君とは落ち着いた場所でゆっくりお話を伺いたいので私も賛成です。ルイン君はこの後大丈夫ですか?」

「……ああ、はい。もちろん大丈夫です」


 二人にそう返事をし、俺はスマッシュさんの後をついていくように冒険者ギルドを出た。



 それから俺達は、メインストリートにある小さなバーのようなお店へとやってきた。

 スマッシュさんの口ぶり的に、三人はよくこのお店に通っているようだ。


「スマッシュさんにディオンさん、いらっしゃい!」

「どうも、リリアンさん。今日も使わせて頂きます」

「気にしなくていいわよ。こちらとしてはお客さんが来るのは大助かりだからね。……あら。珍しいわね。今日はアーメッドさんじゃなく、他の人を連れてきたの?」

「こいつぁ、ルインって言いやして……昔拠点にしてたグレゼスタで仲良くしてた奴なんでさぁ」

「へー、そうなのね! てっきり三人には親しい知り合いなんていないと思ってたわ」


 楽しそうに笑いながら、三人に対して軽い毒を吐いているリリアンと呼ばれた女性。

 口ぶり的に、三人はここのお店の常連さんのようだ。


「はじめまして。ルインと申します。よろしくお願い致します」

「あらあら、そんなに畏まらなくても大丈夫よ。お客さんな訳だし、ゆっくりしていってちょうだい。それじゃ、いつもの個室に案内するわね」


 リリアンさんに案内されるがまま、一番奥の個室へと通された。

 そのまま個室に入ると、慣れた手つきで席へと着くディオンさんとスマッシュさん。

 俺はそんな二人と向かい合うように席に座った。


「ルイン、悪いでやすね。あっしらダンジョンから帰還したばかりだから、色々と臭うでさぁ」

「……いや、そんなことないですよ?」

「確かにそうですね。一度宿へ戻って、準備を整えてからの方が良かったかもしれませんね」

「そうでやすが、宿には恐らくエリザがいやすから。なるだけ顔は会わせたくないですぜ」


 もじゃもじゃで表情が分かりづらいのだが、酷く嫌そうな顔をしたのが分かった。

 アーメッドさんが、逃げ出した理由が分からないからなぁ。

 何か些細な心当たりがあるのであれば聞いてみたい。


「本当にお二人は、アーメッドさんが逃げ出した理由については何も分からないんでしょうか?」

「そうですね。一年程前にルイン君と別れた時は何も問題はありませんでしたし、むしろかなり好意的に思ってるように感じましたから。さっきもダンジョンを帰還するまでは上機嫌でしたし、機嫌が悪かった訳ではなかったので……。――あっ、ただ……」

「……ただ?」

「実は何度かグレゼスタへ戻ろうって話を出したんですけど、アーメッドさんが全力で渋ってたんですよね」

「あー、そうだったでさぁね。エリザの奴、何かにつけて拒否してきたんですぜ」


 そうだったのか……。

 二人は心当たりがないと言うが、やはり何か俺が気づかない内にしてしまった可能性が高い。

 この件については、本人に直接聞くしかなさそうだ。


「とりあえずアーメッドさんに直接聞かないと分からなそうですね。明日にでも探して直接聞きに行きます」

「それならあっしらも協力しやすぜ。明日の正午にダンジョン前に居てくれれば、あっしらがエリザを連れていきやすので」

「ありがたいですけど、そんなことして大丈夫なんですか?」

「そりゃバレればゲンコツが飛んでくると思いやすが……十中八九ダンジョンへ潜ることの提案は、エリザからしてきやすいので大丈夫ですぜ」

「そうですね。私もアーメッドさんからダンジョン攻略の提案は来ると思いますので、大丈夫だと思いますよ。あとは私達が時間を誘導すればいいだけですので」


 そう言って親指を立ててくれたスマッシュさん。

 俺のせいでゲンコツを食らわないかの心配はあるが、ここは素直に協力をお願いした方がいいよな。


「それじゃ……すいませんが、よろしくお願いします」

「ええ、任せてくだせぇ。それじゃ、今日は気を取り直して楽しく飲みやしょう! 久しぶりの再会ですし、あっしらも聞きたいことが山ほどありやすから!」

「私達の近況についてもお話したいですし、スマッシュさんの言う通り楽しくお話しましょう」

「そうですね。それじゃ、まずは俺から【青の同盟】さん達が去ってからのお話をしますね!」


 アーメッドさんのことは気がかりだが、二人の言う通り気を取り直して、スマッシュさんとディオンさんとの話に明け暮れたのだった。

 

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