第百七十六話 シャーロット製の醸造台
二階を一通り回り、醸造台が置かれている場所を見つけた。
他の商品同様に乱雑な置かれ方をしているが、俺が見る限りどれも質の高い醸造台のように思える。
複数台並んで置かれている醸造台をじっくりと眺めていると、一つの醸造台に気になる部分を見つけた。
見た目は他の醸造台と変わらぬ形をしているのだが、横の部分に小さく‟シャーロット”と彫られているのだ。
この‟シャーロット”という文字は、『エルフの涙』に置かれていた醸造台にも彫られていたため、俺の中で強く印象に残っている。
詳しくは教えて貰えなかったのだが、確かおばあさんの知り合いが作った醸造台のようで、特に珍しい機能が備え付けられている訳でもないけど、シンプルに質の高い醸造台なのだと、おばあさんが嬉しそうに語っていたのを思い出した。
あのおばあさんの知り合いの方が作った醸造台で、尚且つおばあさんからのお墨付きがある代物。
うーん……。欲しい。めちゃくちゃ欲しい。
物欲に体がソワソワとし出すが、冷静に考えてこのサイズの物は現状買うことが出来ないと頭を振って思い直す。
……ただ、どうしても欲しいんだよなぁ。
しばらくの間、植物を鑑定していた時よりもじっくりと醸造台を観察するが、いくら観察したところで現状が好転する訳はない。
それでもなんとか購入できないかとチラッと値札を見たのだが、値段がなんと――白金貨50枚。
仮に配置場所の問題が解決したとしても、この金額ではどう足掻いても購入出来ないし、【プラントマスター】を駆使しても購入の目途が立たないくらいの破格の値段。
隣の醸造台の値段も確認してみるが、値段は白金貨10枚と高いものの手が出せそうだが、このシャーロット製の醸造台は5倍も違う。
グレゼスタで家一軒建てるのにかかる費用が、白金貨100枚と聞いたことがあるから、この醸造台二台で家が一軒建てられる計算になる。
あまりの金額に茫然と立ちつくし、冷や水をかけられたように俺の購買意欲も一気に冷めた。
流石に値段が高すぎる。
シャーロット製の醸造台だから高いのか、それともこの醸造台だけが特別高いのか。
おばあさんの友人だし、恐らく前者なのだろうな。
……とりあえず今後の目標として、この醸造台を置ける家に住むこと。
それからこの醸造台を買えるぐらいのお金を稼ぐこと。
このグレゼスタで強くなること以外に新たな目標を作れた俺は、いつかこの醸造台を買えるようになることを夢見ながら、『グリーンフォミュ』を後にした。
『グリーンフォミュ』を出ると、外はすっかり日が落ちていて橙色となっていた。
『まんまる印の雑貨店』を出たのが、お昼前だったからかなりの時間を過ごしてしまったようだ。
レベルにばらつきのある植物。様々な効能のポーション。見ているだけでワクワクするような一風変わった代物。
『グリーンフォミュ』は俺にとっては、楽園のようなお店だったからな。
長い時間居てしまったのも仕方がないし、後悔も一切ない。
植物のレベルにマイナスがあるのも新たな発見だったし、俺が想像している以上の効能が付与されることも分かった。
購入した新種の植物の鑑定も楽しみだし、高レベル植物の確認も楽しみ。
一早く『ぽんぽこ亭』に帰って、今日の買い物の成果の確認をしたいところだが、帰宅する前に一応【青の同盟】の動向の確認をしに行こう。
俺は先ほど買った植物とポーションを片手に、ルンルン歩きでダンジョンモニターへと向かう。
夕方となり、大多数の人の仕事も終わりとなるからなのか、朝の閑散とした状況は嘘のように、ダンジョンモニター前は昨日ほどではないが人だかりが出来ている。
平日の場合だけだと思うが、ダンジョンモニター前のピークは夕方から夜のようだな。
俺は慣れた手つきで人混みを掻き分けながら、20階層~30階層までのモニター前へと向かい、【青の同盟】さん達の姿を探す。
えーっと……朝は26階層だったから……。いたっ!
20階層のセーフエリアで、テントを張って休んでいる三人を見つけた。
相変わらずディオンさんとスマッシュさんが準備を行っていて、アーメッドさんはひたすらにご飯を食べている様子だけど、三人共元気そうな様子が映し出されている。
怪我も特になさそうだし何よりだ。
そんな三人の様子を頬を緩ませながらしばらく観察し、俺はダンジョンモニター前から離れた。
帰還のペースが想定よりもかなり速いようだな。
階層が深くなるにつれて魔物の強さが強くなるのと反対に、地上に近くなるにつれて魔物が弱くなる影響で、進行ペースが右肩上がりで速くなるのかもしれない。
恐らくこのペースだと、確実に明後日には帰還出来ていると思う。
もう全滅のリスクもほぼゼロだと思うし、後は本当に何の心配もせずにただ待つだけ。
久しぶりの【青の同盟】さん達との再会までの日数も現実味を帯び、醸造台を見た時以上に体がソワソワとし出す。
今すぐ俺もダンジョンに潜って出くわしに行きたい欲求をなんとか抑え、このやるせない気持ちを発散すべく、俺は全力ダッシュで『ぽんぽこ亭』へと帰宅したのだった。
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