第百七十三話 帰還の様子


 翌日。

 今日でランダウストに来てから三日目となる。

 旅行気分で何処かふわふわとしていたが、昨日の【銀の風鈴】の一戦で身が引き締まった。

 頬を叩いて気合いを入れてから準備を整え、俺は部屋を退出する。


 部屋を出てからは、そのまま食堂へと向かい朝食を頂く。

 まだ朝早いということもあってか、ルースは食堂にはおらず、ルースのお母さんである店主さんがキッチンで調理を行っている。

 昨日、夜遅くまで待たせてしまったことを申し訳なく思いつつも、夜ご飯の感想とお礼を伝えてから朝食を受け取った。


 今日の朝食は、焼いたパンにスクランブルエッグとハム。そして野菜の味が染みたスープのようだ。

 朝食らしい朝食なのだが、一つ一つの質が高いため非常に美味しい。

 昨日の夜飯同様にあっという間に平らげてから、店主さんに再び感想とお礼を伝え、俺は『ぽんぽこ亭』を後にした。


 今日のこれからの予定は、昨日確認し忘れた【青の同盟】さん達の動向を確認してから、ダンジョンへは潜らずにランダウストのお店巡りを行う。

 昨日考えていた通り、道具屋や薬屋で有用な植物を見つけられるかもしれないし、植物でないにしろスライム瓶のような有用なアイテムが見つかる可能性がある。


 初日に【青の同盟】さん達を見て、気が逸りすぐに攻略へと移してしまったが、アーメッドさんのように‟まだ”強くない俺は、地に足つけて出来る限りの安全な方法を模索するべき。

 今日の行動をそうこう考えている内に、俺はダンジョンモニター前へと辿り着いた。

 

 昨日のお祭り騒ぎが嘘のように閑散としている。

 朝ということもあるだろうが、昨日の朝はもっと人がいたと思うんだけどな。

 とりあえず人がいないのは、映像が見やすいし好都合。


 すぐに30階層~40階層のモニター前に陣取り、【青の同盟】さん達の姿を探す。

 えーっと……30階層のセーフエリアには見当たらないな。どうやらもう攻略を再開しているようだ。

 俺はすぐにセーフエリアから目を切り、31階層以降を見て行くが……【青の同盟】さん達の姿は見当たらない。


 映像に映る人物を一人一人確認していくが、結局40階層まで【青の同盟】さん達の姿は見つけることが出来なかった。

 だとすれば、帰還している可能性が高くなるのだが……俺の頭には昨日の【銀の風鈴】が過ぎる。


 このダンジョンで命を落とせば、跡形もなく消え去ってしまう。

 その光景を見てしまっただけに、姿が見えない恐怖が俺を襲ってくるのだ。

 俺は一度大きく深呼吸を行い、焦る気持ちを落ち着かせてから、場所を移動して20階層~30階層の映像が映し出されているモニター前へと移動する。


 【青の同盟】さん達なら大丈夫。アーメッドさんなら大丈夫。と、呪文のように心の中で唱えながら見て行くと、26階層の映像で三人が映し出されているのを発見した。

 良かった……。大丈夫と言い聞かせても、姿を確認出来た安堵は大きい。

 

 ……今26階層にいるってことは、ダンジョンから脱出を図っているんだよな?

 これは【青の同盟】さん達に、数日後には会えるかもしれない。

 不安から一転、良い情報が手に入ってテンションが上がる。


 この進行ペースから考えると早くて3日後、遅くて5日後にはダンジョンから出てくると思う。

 俺の目標は【青の同盟】さん達が脱出する前に、6階層まで降りることなのだが……これは少し厳しいかもしれないな。


 【銀の風鈴】さん達を見ていなければ、今日もダンジョン攻略に勤しんでいたかもしれないが、目的に目を取られて焦っては大きなミスに繋がる。

 今日は当初の予定通り、ランダウストのお店を回って、有用な植物とアイテム散策を行おう。


 目標であった第6階層までのソロ攻略は、別にやらなくてはいけないものでもないからな。

 俺は【青の同盟】さん達が帰還しているという情報を手に入れ、ルンルン気分でダンジョンモニター前を離れると、そのままの足でランダウストのメインストリートへと戻った。



 メインストリートには何度も通ってはいたが、初めてお店目的でメインストリートを通る。

 初めてここを通った時や、【青の同盟】さん達の情報を集めようとしたときに、ある程度の気になるお店の目星はついている。

 俺がまず最初に向かうのは、スマッシュさんの通いそうなお店として目星をつけていた『まんまる印の雑貨店』。

 

 聞いた話によると、外観がオシャレな雑貨屋で一風変わった商品が置かれているらしいのだ。

 更にここのお店の商品には‟まんまる印”がついているようで、なんでも偽物まで流通しているほどらしい。

 実物はまだ見たことないが、偽物まで流通するほどのものならば、質という部分に関してはかなりの期待が持てる。


 聞いた情報を思い出しながら歩いていると、行列を作っている小洒落た雑貨店が目に入った。

 恐らくあのお店が、『まんまる印の雑貨店』だろう。

 お店自体は『エルフの涙』と同じくらいの大きさで、お世辞にも大きいとは言えないのだが、お店の規模に対して並んでいるお客さんの数がおかしい。


 まだ朝だというのにこの行列。

 俺はワクワクしながら、行列の最後尾へと並んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る