第百六十七話 ソロ攻略の少年

※『ラウダンジョン者』の記者のおじさん視点です。



 俺の名前はトビアス。

 ダンジョンに関する情報を売っている会社の一つである、『ラウダンジョン社』で記者をやっている。

 

 元はというと俺もダンジョンに潜る冒険者だったのだが、攻略途中にとある魔物によって、まともに動けなくなるほどの致命的な傷を受け、冒険者を引退。

 それ以降は冒険者だった時の知識や伝手を使って、『ラウダンジョン社』の記者として働いているという訳だな。


 それにしても昨日は、久しぶりに面白い少年に出会った。

 少年の口ぶりでは【青の同盟】が知り合いで、少年もダンジョンに潜るような話だったが……少し心配だな。

 

 ダンジョンについての知識がからっきしなのか、俺の話す基礎的な情報にも食い入るように聞いていたからな。

 反応が一々大きいためこっちの気分も良くなり、俺もつい色々と話してしまった。 

 ただ、俺の話した情報だけでは確実に情報不足だろうし、死なない為にも紹介した本を読んでから攻略してくれていればいいんだがな。


 そんなこんな、昨日食堂で出会った少年についてを考えながら、俺は情報を入手するために、早朝だがダンジョンモニターの前へと向かう。

 俺達ダンジョン記者は、少しでも競合他社より良い情報を得るために、こうして早い時間からモニター前に張り付かないといけない。


 ダンジョンの中は昼夜が分からないということもあり、深夜であろうと攻略を開始することが多々ある。

 そのために『ラウダンジョン社』では、全ての時間に対応できるように、24時間当番制で張り付けるようにシフトが組まれているのだ。


 今日は俺が早朝から昼前までの担当。

 深夜から早朝にかけて張り付いていた奴と代わり、映し出される最深階である40階~50階にかけてを見ていたのだが、なにやら低層階層のモニター前が騒がしいことに目がいく。

 低層階が話題になるなんて、最近だと【青の同盟】以来のこと。


 3人というフルパーティの半分の人数でダンジョンに挑みながら、あっという間に中級冒険者パーティの壁である20階層を突破した時は、ランダウストで一つの大きな事件になったほどだからな。

 俺はかなり早い段階で【青の同盟】に目をつけ、独占取材権を手に入れようとしたのだが……。


 面倒くさいという理由であっさりと断られた上に、【青の同盟】のパーティリーダーであるアーメッドに、ゲンコツを食らわせられたのは今となっても苦い思い出。

 今じゃBクラスとなって、人気冒険者パーティの仲間入りを果たしたが、あの時交渉が上手くいってたらと思うと、今でも後悔の波が押し寄せてくる。


 低階層で賑わいを見せている様子を見て、俺はそんな過去を思い出しながら、そんな人だかりに割って入っていく。

 両手にはしっかりと仕事道具である手帳とペンを持ち、一瞬たりとも見逃さずに書き記す準備は万端。


 気合を入れて視線を向けた画面の先には、驚愕の映像が写し出されていて……俺は驚きのあまり、大事な仕事道具であるペンを落とした。


「少年がソロでダンジョンに潜ってらぁ!」

「ぎゃははは! おい!見てみろよ! 冒険者パーティとすれ違う度に肩がはね上がってるぞ!」

「可哀想に。体もガッチガチに固まってるし、これは早々におっ死んぢまうぞ」


 低層階層に人が集まっていたのは、ソロで攻略している少年がいたからだったようなのだが……俺はこの少年に見覚えがあった。

 そうだ。昨日、俺が情報を教えた反応の面白い少年。


 落としたペンをすぐさま拾い、手帳と一緒に鞄に押し込むと、俺は面白半分でモニターを見ている人だかりを押しのけて、画面前を無理やり占領する。

 後ろではそんな俺に対する文句が飛び交っているが、俺の頭はそんなことに返答する余裕はない。


 あの少年……! 俺が紹介した本を読まずにダンジョンに潜ったのか!!

 こんなことなら情報を惜しまずに情報提供するべきだったという後悔と、どうすればこの少年を助けられるかという思考で頭がいっぱいになる。

 

 すれ違う冒険者パーティ達が助けてくれることを願うしかないのだが、一階層で停滞しているパーティは他人のことを気にする余裕なんてない。

 俺が今からダンジョンに潜って少年を助けに行くか……?

 そんな思考へと辿り着いた時、少年の歩く方向にオーガが現れたのが映像から分かった。


「うわっ。オーガじゃねぇか。こりゃあ本気でついてねぇな」

「まだ幼い子供だし可哀想だけど……こりゃ助からねぇぞ」

「ゴブリンくらいならいい試合が見れただろうし、少年が逃げ帰る様も見れたんだがなぁ……」


 そんな声が背後から聞こえ、俺の心臓は一つ跳ねあがった。

 少年とは特になんでもない――偶然同席したという仲なのだが、それでも見知った人が死ぬというのは気分が良いものではない。

 それも、俺が情報を出し惜しみしていなければ救えた命となると……心臓がズキリと痛くなる。


 この状況になってしまえば、今からダンジョンに潜ってもどうしようもない。

 俺はこぶしを強く握り、誰か他のパーティが助けてくれることを祈りながら、ただ数秒後にオーガと鉢合せる少年を見守ることしか出来なかった。


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