第百六十六話 ダンジョンでの初戦
暗く狭いダンジョンを進んで行くと、なにかの気配を感じ、俺は咄嗟に剣を抜く。
気配のする方向を注視していると、そこから現れたのは冒険者パーティだった。
俺を一瞥すると、そのまま何処かへと歩き去る冒険者パーティ。
それから三度。同じような感じで冒険者パーティとすれ違った。
映像で見ていたから分かったが、やはり一階層は魔物よりも冒険者と出会う確率の方が高い。
まだ朝の早い時間だというのに、既に三組の冒険者パーティとすれ違っている。
初心者講座にも書かれていた通り、序盤の注意すべき点は冒険者か魔物かの判別を行うことのようだ。
次も冒険者だろうと考え、気を抜いたら最後。
魔物に襲われて、あっさりと命を落とすことになる。
毎度毎度、絶対に気を抜かずに剣を握りしめがら歩いていると、また前方から何かの気配を感じた。
足を止めてジッと待っていると、そこから現れたのは鉄の棍棒を持った……俺も見知った赤い巨体。
そう、オーガだ。
ランダウストのダンジョンは低確率でありながら、このオーガが一階層から出現する。
多くの冒険者が低層で留まる理由の一つはこのオーガで、人外離れしたその肉体から放たれる強烈な一撃と、ダンジョン特有の武器を装備したオーガに、大抵の冒険者パーティは苦戦を強いられるようだ。
今回は鉄の棍棒という戦いやすい武器の一つだとは思うが、致命傷だけには気をつけないといけない。
映像で見た限りは、セイコルの街で戦ったオーガと遜色なかったため大丈夫だとは思うが、油断はせずに気合いを入れて殺しにかかる。
キルティさんに指導を受けた構えから、エドワードさんから指導を受けた振り方で、準備の整っていないオーガに対し俺の方から斬りかかった。
左右の力の入れ具合、そして武器の持っている手から見て、このオーガは左手が利き手。
それが分かっているのなら……先手必勝。
鋭く小さな振りを意識し、オーガの左手の二の腕を狙って斬りかかる。
「――シィッ!」
フェイントは入れずに最速の動きで振り抜いた俺の鋼の剣は、狙い通りにオーガの二の腕を深く斬り裂く。
流石に両断とまではいかなかったが、唐突な俺の一撃に仰け反ったオーガは数歩後ろへと下がった。
鉄の棍棒に血が伝り、鉄の棍棒から更に地面へと血が垂れるのを見ながら、オーガは俺に視線を向けて握りの確認を行っている。
ただ、左手の力が入らないことが分かったのか、棍棒を右手に持ち変えると、一つ唸り声のような大きな奇声を上げてから、次はオーガの方から襲い掛かってきた。
‟赤い巨体が奇声を上げながら襲い掛かってくる”。
一瞬、逃げたくなるぐらいに見た目のインパクトは強いが……片手での振り上げ且つ、利き腕ではない右手。
動作もぎこちなく、左がだらりと垂れているため、バランスも上手く取れていない。
一撃で決めようとしているのか、振りかぶりも無駄に大きく隙だらけだ。
ここはエドワードさんに習った振りではなく、キルティさんに仕込まれた振り方で……オーガの動きに合わせて鋼の剣を振り抜く。
俺の剣はオーガの力を利用して、左肩から右の腰辺りまで斬り裂き、その一撃によって絶命したオーガはそのまま前のめりに地面に伏せた。
よし。初戦は上々。
少し緊張はあったが、思い通りに戦闘を進めることが出来た。
一息吐いてから振り返ると、オーガの死体は徐々に灰のようになり、あっという間にまるで存在していなかったかのように消えた。
これはダンジョン特有の現象で、ダンジョン内で絶命するとこのように灰のようになって消えてしまうのだ。
冒険者である人間も同じのようで、先ほど受付嬢さんに問われた『1ヵ月間ダンジョンの映像に写らず、帰還もされなかった場合は死亡者扱い』。
人間も関係なく、このように灰のようになってしまうため、上記の確認をされたのだ。
本で読んだときは言い難い恐怖でゾっとしたが、こうして実際に目の当たりにすると、死体が残るよりも全然良い。
それに灰のようになった魔物から採取できるアイテムもあるらしく、それらは通称”ドロップ品”と呼ばれている。
今回はドロップ品はないようだが、ドロップ品がある場合はこの灰となった残骸の中に残っているらしく、中には有用なドロップ品や通常のドロップ品とは違う‟レアドロップ”なんてものもあるらしい。
宝箱だけでなく、このドロップ品目当てでダンジョンを攻略するパーティもあるほどに、ダンジョンの名物の一つと本には書かれていた。
俺は一通り思考を巡らせたあと、倒したオーガの残骸を尻目に先を目指して歩を進める。
今日の目標はダンジョン限定の植物の採取とドロップ品の採取。
それから二階層へ進み……出来れば宝箱も見つけたいな。
魅力の塊である宝箱に夢を見ながら、俺はオーガの残骸を乗り越えて、二階層を目指して進んで行った。
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