第百六十五話 入場手続き
ダンジョン攻略用の荷物は、コルネロ山に行く時と同じでいいだろう。
採取した植物を入れる用の鞄だけは置いていき、身軽さを重視する。
ホルダーに回復ポーションとエンジェル草スライム瓶をセット。
鞘には鋼の剣とアングリーウルフの短剣。
そして、おばあさんから借りた装備を身に纏って準備完了。
フル装備となった俺は、受付で店主さんに朝ご飯の感想と共に部屋の鍵を預け、『ぽんぽこ亭』を後にした。
そのままの足でダンジョン前まで向かい、大きな画面の前で【青の同盟】の三人の姿を探す。
30階層のセーフエリアを見てみるが、既に姿は見えず、31階層付近を探してみると、昨日に引き続き攻略している様子の三人の姿が見えた。
やはり帰還は目指さずに備品がなくなるまで、ダンジョン攻略を続けるようだな。
『一冊で分かるランダウストのダンジョン』にも書かれていた通り、10階層を超える階層の攻略には数日をかけて行うそうで、なるべく大量の備品を持ち込み、一々帰還しなくてもいいようにしているらしい。
【青の同盟】さん達が、どれくらいの備品を持ち込んでいるのかは分からないが、30階層で寝泊りしている間は帰還する気はないと見ていいと思う。
そのことを確認出来た俺は、大きな画面の前から離れて、ダンジョン近くにある冒険者ギルドへと歩を進める。
ダンジョンに潜るには、冒険者ギルドで手続きが必要らしいため、まずはその手続きを行わなくてはいけないのだ。
この情報も初心者講座に書かれていたことで、『一冊で分かるランダウストのダンジョン』が非常に役立っている。
ダンジョン前のギルドの中は、昨日行ったギルドと全く同じ作りをしていて、唯一違う点はくり抜かれたような部分があるところ。
そこからはダンジョンへと繋がっているようで、ギルド職員によってダンジョンの入口は完璧に塞がれている。
やはり本に書いてあった通り手続きを踏まないと、ダンジョンには入れないようになっていた。
「いらっしゃいませ。ダンジョンの攻略でしょうか? 冒険者カードをお持ちでしたら、ご提出お願い致します」
「すいません。ダンジョン自体初めてでして、冒険者登録もしていないのですが……」
俺がそう伝えると、受付嬢さんは少し顔を歪めた。
僅かな変化だがいつも張り付けたような笑顔だから、こういった微妙な変化も分かりやすいんだよなぁ。
そんなことを思っていると、受付嬢さんは右手の受付を指し、俺に説明をし始める。
「それでしたら、あちらの受付で冒険者登録を済ませてきてください。ランダウストのダンジョンでは、冒険者ギルドで手続きした者でないと入場禁止としておりますので」
「あれ……? ダンジョンって冒険者ではないと入れないんでしたっけ? 読んだ本では、入場手続きさえすればダンジョンに入れると書いてあったのですが」
俺のそんな返答に、更に表情を歪めた受付嬢さん。
そんな態度の悪さに目がいってしまうが、受付嬢さんからしたら、俺はかなり面倒くさい客なのだろう。
……ただ、『一冊で分かるランダウストのダンジョン』にはそう書いてあったし、アーメッドさんに認めてもらうまでは、俺は冒険者登録をしたくない思いがある。
これは自分でもしょうもないこだわりだとは思うのだが、譲りたくないこだわりなのだ。
面倒くさい客かもしれないが、こればかりは仕事として割り切ってもらうしかない。
「……はい。大丈夫ですが、ダンジョンに潜る度に書類の記入と、ダンジョン管理費として銀貨5枚を頂きますが大丈夫でしょうか?」
「もちろんです。よろしくお願い致します」
こうして、心底面倒くさそうに対応している受付嬢さんの指示に従い、俺は書類の記入と銀貨5枚を手渡し、ようやくダンジョンへと入れるようになった。
ダンジョンに入る度に銀貨5枚は懐へのダメージも大きいが、【プラントマスター】によって生成した植物を売れば元は取れる。
唯一の懸念点は、この書類申請を毎回受付嬢さんに強いることだが、銀貨5枚を渡しているのだし、やってもらうしかないな。
「……確認が取れました。これが仮のダンジョン管理用のカードです。1ヵ月間ダンジョンの映像に写らず、帰還もされなかった場合は死亡者扱いとなりますのでそれだけは頭に入れておいてください。それではご武運を」
小さな管理カードと呼ばれるカードを受け取ってから、俺はギルド職員が塞いでいた入口を通してもらい、ようやくダンジョンの中へと入れるようになった。
映像では既に見ているが、ダンジョンの中にはかなりの冒険者がいるのにも関わらず、魔物の量も尋常ではない。
ダンジョンに入ってすぐの1階層から、気合いを入れていかないといけないため、一つ頬を叩いてからダンジョンへと踏み出す。
ダンジョンの中は映像で見るよりも薄暗く、緊張感がある。
当たり前のことだが、映像では俯瞰で見れたけど今は主観でしか見れない。
この当たり前の事実に、少し体が強張っていくのが分かる。
魔物が跋扈する視界の悪い空間という事実が、自身の中で恐怖の感情を高めているのだ。
もしソロではなくパーティで潜れていたなら、全方位警戒しなくて済むのになぁ。
ダンジョンに入ってすぐにそんなことを思いながら、ゆっくりとダンジョンの中を進んで行ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます