第百六十三話 ダンジョン観戦


 大剣をぶん回しているアーメッドさんと、その後ろに控えている二人の姿も確認できた。

 映し出されている映像部分が小さいため、確証は持てないのだが、スマッシュさんとディオンさんだと思う。


 金髪の長身の男性と、髭がもじゃもじゃで頭がツルツルな男性なところを見る限り、間違いないはず。

 滅茶苦茶に日が空いたという訳ではないのだが、懐かしさから涙が目に溜まってくる。


 三人が変わっていたらどうしようとか、俺を受け入れてくれなかったらどうしようとか……。

 一年もの間グレゼスタに顔を見せに来てくれなかったため、負の感情がどうしても頭を過ぎってしまっていたが、こうして三人の姿を見たらそんな感情はどこかへと吹っ飛んだ。

 

 今はただ、三人と顔を合わせて話がしたい。

 そんな一心で俺は、モニターに映されている【青の同盟】の三人を追い続けた。



 俺が見始めたときに31階層にいた【青の同盟】さん達は、32階層まで進んでから引き返し、現在は30階層まで戻ってきていた。

 どうやらこのダンジョンは、10階層ごとがセーフエリアなのか、様々な冒険者パーティ達が30階層に簡易テントを張っている。

 

 そこに【青の同盟】さん達も混じってテントを建てているため、今日はダンジョンの外に帰還しないのかもしれない。

 他の映像も見て分かったのだが、このダンジョンは1階層ごとが随分と広いようで、どんなにサクサクと進んでも1階層降りるのに30分はかかる広さ。

 

 更に階層を進むごとに魔物の強さも上がっているようで、【青の同盟】さん達は31階層から32階層まで進むのに約3時間くらいは掛かっていた。

 仮に30分で1階層降りれたとしても、30階層から1階層まで戻るのに15時間はかかる計算だからな。


 三人の姿も見れたし、すぐに会えると思ったのだが、まだしばらくは会えそうにない。

 テント付近でなにかしている三人を見ながら、俺もふと映像から視線を外すと、辺りはいつの間にか日が落ちていた。


 もう6時間くらい映像を見ていたのか……。

 実際に危険がないのにも関わらず、魔物との戦闘は見ているこっちもひやひやするし、何処から魔物が出てくるか分からない恐怖も映像越しから鮮明に伝わってくるため、俺は体感時間が1時間にも満たないぐらいに感じている。

 このランダウストが、ダンジョン都市として大成功した理由を肌で感じながら、俺は一度大きな画面の前から離れることに決めた。


 24時間リアルタイムで映像が流れているようだし、ここに居続けてもいいのだが、【青の同盟】さん達はもうダンジョン攻略には挑まなそうだしな。

 俺も一度『ぽんぽこ亭』に戻って、体を休めたいと思う。


 長旅の疲れもあるし、一度情報を整理したいのもある。

 ダンジョンについても、この映像だけでめちゃくちゃに興味が湧いたため、記者のおじさんが言っていた『ラウダンジョン新聞』とやらを買って帰ろうか。

 

 食堂で聞いている時はそうでもなかったのだが、今になって企業秘密の部分が気になり始めているからな。

 あの様子を見るに、【青の同盟】さん達はしばらく帰還しなさそうだし、明日にでも一人で軽くダンジョンに潜ってみたいとすら思っている。


 そんなことを考えながら、俺はギルド付近にあった露店でダンジョン関連の様々な新聞と、ラウダンジョン社の出しているダンジョンに関する本を買ったあと、『ぽんぽこ亭』へと戻ってきた。

 

「ジェイドさん、おかえりなさい!」


 『ぽんぽこ亭』の扉を開けるなり、受付越しから獣人の少女が笑顔で出迎えてくれていた。

 宿泊のお金を渡した時にフルネームを伝えたため、早速名前で呼んでくれたみたいだ。

 

「ただいま……でいいのかな? お出迎えありがとうね」

「もちろんです! お家だと思ってゆっくりしてくださいね!」


 笑顔を向けてそう言ってくれる少女に、つい表情が緩んでしまう。

 グレゼスタのボロ宿も居心地は良かったが、こうして温かく出迎えて貰えるのは単純に嬉しいな。

 

「うん。いつまでお世話になるか分からないけど、ゆっくりさせてもらうよ」


 俺がそう伝えると、笑顔のまま何度も頷いた。

 頷くのとシンクロするように、耳がパタパタ尻尾がブンブンと激しく振られているのが分かり、あのもふもふに触ってみたい衝動に駆られる。

 

「あっ、そうだ! 夜ご飯ももうすぐできるみたいなので、お部屋に届けさせてもらいますね!」

「そういえば二食付きなんだっけ。料理、楽しみに待ってるね」

「はい! 一階の食堂スペースでも食べれるので、部屋が汚れるのが嫌なら気にせず言ってください!」


 受付で少女とそんな会話をした後、部屋の鍵を受け取ってから部屋へと向かう。

 部屋で荷物の整理をしていると、程なくしてお母さんの方が料理を持って、俺の部屋へと訪ねてきた。


 運び込まれた料理は、魚がメインの色鮮やかな定食。 

 驚くことに魚は焼かれていなかったのだが、お米と絶妙にマッチし、非常に美味しかった。

 定食をあっという間に平らげてから、この旅の途中で作ったダンベル草カレーも軽く食べる。


 二食付きは非常にありがたいのだが、一つ問題点があるとすれば、このダンベル草カレーなんだよな。

 店主さんにダンベル草カレーを作ってもらうようにお願いするか……そろそろカレー以外での摂取の方法を探さないといけない時が来たのかもしれない。


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