第百六十話 ぽんぽこ亭
さて、これからどう動こうか。
久しぶりに孤独となって、少し不安を感じている。
まずは【青の同盟】さん達と再会したいところだけど……。
冒険者ギルドにいないとなると、ダンジョンぐらいしか心当たりがないが、一人で行く訳にもいかないしな。
とりあえず泊まれる場所を探しながら、ついでに【青の同盟】さん達も探そうか。
そうと決まれば一度、冒険者ギルドを離れてメインストリートへと戻ろう。
さっき宿屋らしき建物が何軒か見えたから、そこに行ってみて宿泊できるかを聞いてみようか。
俺は独特なお店が立ち並ぶメインストリートへと戻ってきた。
明らかに宿屋ではないお店にもつい目がいってしまうが、とりあえずの目的は宿屋。
ランダウストは治安が良さそうだし、最悪宿が見つからなかったとしても、なんとかなりそうな感じもするのだが野宿は避けたいし、宿を見つけるに越したことはないからな。
お金に関してはかなり余裕があるし、少し値段が張ったとしても宿泊を決めていいかもしれない。
そんなことを考えながら、最初に目星を付けていた宿屋へと辿り着いた。
このお店は入口にベッド型の看板が置いてあったため、遠目から見た時に宿屋だろうと思っていたのだが……良かった。
看板にもしっかりと、宿屋『ぽんぽこ亭』と書かれている。
宿屋っぽい建物の中で一番庶民的な感じがしたため、最初にこのお店にやってきたのだが、外装からしてかなり良さそうだし、やはり正解だったかもしれない。
あとは部屋が空いているかどうかだが……そればかりは運だから考えていても仕方ないな。
自分の中でそう結論付けて、早速宿屋の中へと入る。
宿屋は外観同様、木材を活かした暖かみのある作りとなっており、俺は一目見て気に入った。
『エルフの涙』がこういった雰囲気のお店だったため、こういった自然を感じる雰囲気のお店が好きになっているのかもしれない。
中に入ってすぐの場所にカウンターがあるのだが、店主は見当たらないな。
その代わりに客が鳴らせるベルが置いてあるため、俺はそのベルを軽く鳴らす。
すると、ベルを鳴らしてすぐに、カウンターの奥からこっちへと向かってくる足音が聞こえてきた。
走っているようなその足音は、音の軽さからして子供のように感じる。
こっちへと向かってくる足音からそう考察していると、カウンターの奥の部屋から飛び出て来た。
「いらっしゃいませ!!」
部屋から飛び出てきたのは、満面の笑みを浮かべた少女。
お店の制服らしきものを身に着け、笑顔で接してくれているのを見ているだけで微笑ましくなるが、一つだけ気になる箇所がある。
もふもふとした耳が頭のてっぺん付近にあり、さらにふわふわの尻尾もついているのだ。
ここランダウストではちらほらと見かけたが、これが亜人と呼ばれる人なのだろうか。
「……? どうしたんでしょうか?」
ぼーっと少女の耳と尻尾を見ていると、心配そうな声で俺に問いかけてきた。
俺は慌てて少女に言葉を返す。
「あっ、すいません。ここは宿屋で大丈夫でしょうか?」
「はい! お食事だけのご提供もしていますが、宿屋ですよ! 宿泊をご希望でしょうか?」
「部屋が空いているなら泊まりたいです。大丈夫でしょうか?」
「空いていると思うのですが…… ちょっとお母さん呼んできます!」
少女はそう言うと、再びカウンター裏の部屋へと駆けていった。
部屋の奥へと駆けて行って、すぐに戻ってきた少女。
その手に引っ張られて、困惑気味のお姉さんが連れて来られている。
このお姉さんにも、特徴的な耳と尻尾が少女と同じ位置についていて、亜人というのが分かるな。
……お母さんを呼んでくると言っていたから、このお姉さんがこの少女のお母さんなのだろうか。
「ルース、そんなに引っ張らないで! ……あっ、すみません。見苦しいところをお見せして」
「いえ。全然大丈夫ですよ」
「お母さん!この人が新規のお客さんだよ! 泊まりたいみたいなんだけど、部屋って空いてる?」
「ええ、もちろん空いているわよ。……えーっと、何泊の宿泊をご希望でしょうか?」
「とりあえず一週間くらいの宿泊をお願いしたいのですが、大丈夫そうですかね?」
俺に向き直して聞いて来た、少女のお母さんである店主さんにそう問い返す。
【青の同盟】さん達を見つけるまでと考えているが、どうなるかは分からないからな。
【青の同盟】さん達と再会した後も、宿屋にはお世話になるかもしれないし、日数は多めに伝えた。
「そんな日数を泊ってくださるんですか! もちろん大丈夫ですよ」
「でしたら、是非泊めて頂けたらありがたいです」
笑顔の親子に俺はそう伝える。
宿の内装も良いし、店主である親子の雰囲気も良い。
泊めて頂けるなら嬉しい限りだ。
「やった! 久しぶりの長く泊まってくれるお客さんだね!」
「こらっ! お客様の前ではしゃがないの!」
こういった親子のやり取りにも口元がつい緩む。
二人の微笑ましいやり取りも見て、小さい時に死んでしまったお母さんを思い出しながら、俺は宿泊させてもらう部屋へと案内してもらったのだった。
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