第百五十九話 依頼完了
そんな俺の心境など知らないエドワードさんは、すいすいと冒険者ギルドへと入っていった。
一度立ち止まり覚悟を決めてから、俺もエドワードさんの後に続いてギルド内へと入る。
ギルドに入って目についたのが、フロントに備え付けられている大きなシャンデリア。
ギルド内全体が煌びやかに輝いていていて、グレゼスタの冒険者ギルドでは考えられないくらい建物自体が綺麗。
グレゼスタではよく目にした、荒くれ者のような風貌の冒険者もちらほらと見えるのだが、暴れる気配もなく大人しくしている。
「冒険者ギルドも治安が良いんですね」
「そうらしいのう。儂がいた頃はグレゼスタの冒険者ギルドよりも荒れていたから、ここに関しては儂も少し驚いておる」
俺のそんな感想に、エドワードさんがそう返してきた。
グレゼスタの冒険者ギルドよりも荒れていた……想像したくもないな。
俺は【蒼の宝玉】の一件で治安の悪さに対して、少し過敏になっている部分がある。
あの部屋に連れていかれた時のことを思い出すと、今でも鳥肌が立つ。
「ん? 体を縮こませてどうしたんじゃ? 知り合いでもおったか?」
「い、いえ。なんでもないです! 受付に行きましょう」
「……? 変な奴じゃのう」
ギルドを入って、そのまままっすぐと進み、受付へと目指す。
ちなみにギルド内の構造に関しては、グレゼスタと変わらず、受付やクエスト掲示板の配置も似通っている。
グレゼスタでは酒場のあった場所が、ランダウストでは飲食の出来る共有スペースに変わっているぐらいだな。
「いらっしゃいませ。こちらはクエスト達成報告の専用受付なのですが、よろしいでしょうか?」
受付前で並んで順番が回ってくると、すぐに受付嬢さんがそう声を掛けてきた。
グレゼスタにいた受付嬢さんと同様に、マニュアル全開の受け答えだな。
張り付けたような笑顔も合わさって、グレゼスタに戻ってきたのではと錯覚してしまう。
「ああ、大丈夫じゃ。護衛依頼の報告をしたいのじゃが良いかの?」
「護衛依頼の報告ですね。他の街から、このランダウストまで護衛した——ということでよろしいでしょうか?」
「そうじゃな。グレゼスタからの護衛で、依頼番号は……」
慣れた手つきでテキパキと依頼報告のやり取りを済ませていく、エドワードさんと受付嬢さん。
エドワードさんが手続きの内容を完璧に理解しているようで、受付嬢さんも非常にやりやすそうにしている。
俺はそんな二人のやり取りをボーッと眺めていると、唐突に俺にも話が振られた。
「ご依頼人のジェイド様。クエスト内容にお間違えないでしょうか?」
「あっ、はい! 間違いないです」
「ありがとうございます。それではこちらが依頼完了の書類ですので、サインをお願い致します」
話半分で聞いていたため、いまいち話は理解出来ていないのだが、俺は受付嬢さんから手渡された書類にサインする。
「ありがとうございます。ご依頼人様の確認も取れましたので、こちらで依頼完了です。報酬はここでお受け取りになられますか?」
「いいや。グレゼスタに戻ってから、受け取らせてもらうので大丈夫じゃ」
「分かりました。それではクエストのご依頼、そしてクエストの受注ありがとうございました」
深々と頭を下げる受付嬢さんにこちらもお礼をしてから、俺とエドワードさんは受付を後にした。
エドワードさんと受付嬢さんが話している最中、ギルド内を見渡してアーメッドさんを探していたのだが、見当たらなかったな。
アーメッドさんがギルド内にいたならすぐに分かるだろうし、今はこのギルドにはいないのだろう。
心臓がバクンバクンと高鳴るほど緊張していため、ギルド内にいなかったことにホッとしている自分がいる。
アーメッドさんに会いたいのか会いたくないのか、自分でも自分の心境が分からない。
「……さてと、依頼はこれで完了じゃな。それじゃ、儂は帰るとしようかのう。また、グレゼスタに来たときは顔を見せに来るんじゃぞ」
「えっ……? もう帰っちゃうんですか?」
「儂はランダウストに用はないからの。それにさっきも言ったと思うが、この街にいると色々と昔を思い出してしまうから、一秒でも早く去りたいんじゃよ」
初めての街で不安が勝っているため、エドワードさんに案内してもらいたかったのだが……。
流石にそう言われてしまったら、俺に引き止めることは出来ない。
「こんな儂を雇ってくれてありがとのう。実に楽しい旅じゃったわい」
「こちらの方こそ本当にありがとうございました! 護衛だけでなく指導までして頂き、本当に自分のタメになった旅でした! エドワードさんに教わったことを活かしてダンジョン攻略に励みます」
「ふぉっふぉっふぉ。護衛といっても魔物の殆どはルインが倒したからのう。……それと、何度も言うがダンジョンでは決して無茶はするでないぞ。これが老いぼれからの最後の忠告じゃ」
楽しそうな笑顔から一転、真剣な表情でそう忠告してきたエドワードさん。
この忠告は自身の体験からのものだろう。
エドワードさんの最後の忠告。
しっかりと胸に刻み込んでおこう。
「……はい。無茶な攻略だけは絶対にしないようにします」
俺がそう告げると真剣な表情から再び楽しそうな笑顔へと戻ると、エドワードさんは片手を上げて街の入口へと去って行った。
俺はそんな後ろ姿に深く頭を下げて見送ったのだった。
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