第四章~ダンジョン都市~編
第百五十三話 長旅の始まり
グレゼスタを発ってから、約2時間程が経過した。
涙は完全に止まり、気分はかなりスッキリとしていて、景色を楽しめるぐらいの余裕を持てている。
歩いている方向がコルネロ山方面でもなければ、ナバの森方面でもないため、既に俺にとっては見知らぬ場所。
一応、地図は買っておいてはいるが、大きすぎるのと細かすぎるのとで、道案内はエドワードさんに任せっきりで全く使用していない。
「……どうじゃ? 少しは気分が落ち着いたかのう?」
「はい。思いっきり泣いたお陰で、気分はかなりスッキリしてます」
「そうかそうか。それは良かったのう。儂も初々しい出発に立ち会えたお陰で、昔を思い出せて良かったわい」
ほっこりしたような笑顔を見せ、そう言ってきたエドワードさん。
そんなエドワードさんの表情に少し恥ずかしくなる。
「え、えーっと、その……道案内までお願いして良かったんですかね?」
そんな恥ずかしさから、俺は無理やり話題を逸らした。
「ん? もちろんじゃよ。依頼として引き受けてる以上、しっかりとランダウストまで送り届るぞい」
「ありがとうございます。護衛をエドワードさんに頼んで良かったです」
「ふぉっふぉっふぉ。儂は経験だけは豊富じゃからな。ルインにとっては初の長旅だろうが安心して大丈夫じゃぞ」
本当に頼もしい人だ。
性格も温厚だし、経験豊富で実力もあるからな。
まだ旅が始まってから2時間程だが、色々な人から慕われる理由がよく分かる。
そんなこんなエドワードさんと話しながら公道を歩き、日が落ち始めたときに、一つの村のような場所が見えた。
日が暮れ始めた辺りから、俺の頭の中で野宿もチラついたのだが、村が見えて一安心。
長旅の二人旅だし、テントなんて持って来ていないからな。
野宿は出来るだけしたくないと思っていたから、村に辿り着けて本当に良かった。
「予定よりも少し到着が遅れてしまったが、あの村が今日の宿泊する場所じゃ」
「口には出していませんでしたが、野宿かなぁとも内心考えていたんで、村に着けて本当に良かったです」
「ふぉっふぉっふぉ。野宿は何か大きなトラブルに巻き込まれるとかではない限り、絶対にないから安心してよいぞ」
「本当ですか? それは良いことを聞けました。その情報だけでかなり安心できます!」
エドワードさんとそんなことを話しながら村に近づくと、村の入口にはくたびれた門兵が一人だけ立っている。
装備も布の服に使い込まれた木製の槍と、門兵としてはかなり心元ないな。
「すまんのう、少しいいかな? 儂ら旅の途中でな、この村で一泊させて貰いたいんじゃが……村に入れて貰ってもよいかな?」
「あんれ、こんな村に旅人とは珍しい。……害はなさそうだし大丈夫そうだなあ。何もない村だが、ゆっくりしていってくれなあ」
かなり訛った口調でそう許可をくれた門兵さん。
てっきり身分確認くらいはされると思っていたのだが、そんな様子は一切なく村の中へと通してくれた。
グレゼスタと比べてガードがあまりにも緩すぎて心配になるが、思えば故郷であるドノの村は門兵すらいなかったことを思い出す。
「あっさり通してくれましたね」
「二人だけで老人と子供じゃからな。そんな二人に警戒しろという方が無理ってもんじゃろう。それよりも泊めてくれる場所を探そうかの。宿屋なんてないじゃろうからな」
そんなエドワードさんの言葉通り村には宿屋はなく、村の人達との交渉の結果、村長の家に泊めてもらえることとなった。
村長さんはとてもやさしく、部屋を貸してくれただけでなく、夕ご飯もご馳走してくれ、更にはお風呂までも貸してくれた。
「村長さんがとても優しい人で良かったですね。初日から身も綺麗に出来ましたし、お腹も満たされたまま就寝できそうです」
「そうじゃな。ただ、ここの村の村長さんが特別優しかったというだけで、普通は部屋を貸してもらえるのが精一杯ってところじゃから、あまり期待はしすぎてはいかんぞ」
「はい。当たり前とは思わずに、貸して頂いたことを感謝したいと思います」
俺がそう告げると、エドワードさんは笑顔で頷いた。
それから明日の身支度を終えたところで、寝る前に今後の方針を決めたいというエドワードさんと、寝る前にテーブルを挟んで座る。
「早く休みたいと思うのじゃが、ちと時間を貰うぞ」
「ええ、全然大丈夫ですよ。今後の方針と言いますと、ルートとかの確認でしょうか?」
「いいや、ランダウストまでのルートは既に決めてある。ペースも上げるつもりはないから、そういった類の話ではないな」
「……? それですと何の話でしょうか?」
「端的に言えば、ルインが儂からの指導を受けるかどうか——じゃな。護衛なんだし、儂が全ての魔物を倒すのが普通だと思うのじゃが、ルインが望むのであれば儂が指導するという方針でいきたいと思っておる」
エドワードさんからのそんな提案。
実は魔物が出たときに、俺から指導のお願いしようかと思っていたため、エドワードさんから提案してもらったのはありがたい。
考えるまでもなく、お願いさせてもらおう。
「是非、お願いしたいです! 実は俺からも指導お願いしようと思っていましたので、エドワードさんのご迷惑でないならよろしくおねがいします!」
「ふぉっふぉっふぉ。そうかそうか、それなら良かったわい。……久しぶりに腕がなりそうじゃのう」
そう笑うエドワードさんの笑顔に少し寒気が走ったのだが……俺の気のせいだろう。
若い冒険者を育てると有名なエドワードさんの指導を、護衛ついでに受けられるとは本当に幸運だ。
明日からの旅で、魔物に襲われるのが楽しみになったな。
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