第百五十四話 山道での戦闘
翌日の早朝。
村長にお礼と宿泊代を支払って、俺とエドワードさんは早々に村を後にした。
次の宿泊地点と決めている場所までかなりの距離があるようで、一山越えると伝えられている。
「それじゃ行くかのう。ここから先は整備されていない道も通ることになる。魔物も出現する可能性が大幅に上がるから、決して気を抜くんじゃないぞ」
「はい。いつ魔物が現れてもいいように、戦闘準備だけは整えておきます」
村を出発する際にそんな注意を受けたが、その言葉通りにすぐ整備された道は終わり、歩きづらい山道へと突入した。
最初はまだ山道も、人の通れる‟道”となっていたのだが、次第に獣道へと変わっていき、今では道なき道を掻き分けて進んでいる。
もしかしたら迷っているのではと不安になるが、先頭を突き進むエドワードさんの足は迷いなく進んでいて、恐らくこの道がエドワードさんの頭の中では正規の道なのだと思う。
「おっ! やっと魔物が顔を見せたようじゃ。指導するに当たって、ルインの今の実力が見たいから戦ってみてくれんか?」
道なき道を突き進んでいたエドワードさんが、急に立ち止まってそんなことを言ってきた。
俺はまだエドワードさんが言う魔物の存在を視認出来ておらず、キョロキョロと探していると、俺も右斜め前方から何かの気配を感じ取る。
すぐに鋼の剣を引き抜き構えると、草木を掻き分けて飛び出してきたのは四足で鋭い牙の生えた魔物だった。
「ランペイジボアじゃな。この個体の後ろにも数匹の気配があるから、もたもたと倒している時間はないぞい」
「……はい。すぐに倒しにかかります!」
ランペイジボア。
肉が食用として市場に流通しているため、名前は聞いたことはあったのだが、生きているのを見るのは初めてだな。
四足獣のような姿をしているから、アングリーウルフと同じ要領で立ち回れば上手く戦えるはず。
何も考えていない様子で、一直線に俺へと突っ込んでくるランペイジボアに対し、ギリギリまで引き付けてから、動きに合わせるように体を斬り裂く。
ランペイジボアの勢いを利用して斬ったため、俺自身の力はそこまで入れていないのだが、致命傷を与えることに成功。
ランペイジボアは深く斬られたことで上手く踏ん張れず、自身の勢いを殺せずに地面をそのまま転がっていった。
ただ、まだ絶命とまではいっておらず、ランペイジボアは震える体を起き上がらせる姿勢を見せ、鋭い視線を向けて俺を睨みつけている。
エドワードさんが言っていた、このランペイジボアとは別の個体に注意を向けたいところだが、魔物相手には瀕死だろうが油断をしてはいけない。
俺は起き上がろうとしているランペイジボアの下に即座に駆け寄り、心臓部目掛けてトドメの一撃を決める。
起き上がろうとしていたランペイジボアだったが、心臓を突いたことでようやく動きを止めて、ゆっくりと地面へ伏せた。
俺は剣に付いた血を払ってから、絶命したランペイジボアが飛び出てきた場所に意識を向けた——のだが。
「ルイン。今の一連の動きで大体分かったわい。ちと後ろに下がっててくれるか?」
少し離れて見ていたエドワードさんが、俺に対してそんなことを言ってきた。
残りのランペイジボアも倒したかったが……エドワードさんの指示に素直に従う。
飛び出してきた場所に鋼の剣を向けたまま、俺はゆっくりとエドワードさんの位置まで下がる。
「面白いことをやってみせるからの。よく見ておくんじゃぞ」
「はい。学ばせて頂きます」
エドワードさんと位置を変えてからすぐに、先ほどランペイジボアが飛び出してきた場所から三匹のランペイジボアが姿を現した。
三匹の様子は俺の倒したランペイジボアとは違い、落ち着いた様子で前方にいるエドワードさんを囲むようにゆっくりと動く。
囲まれたのを見て、流石にまずいと思った俺は助太刀に入ろうと動いたのだが、エドワードさんは片手を上げて俺に制止の合図を送ると、ゆっくりと細身の剣を引き抜いた。
エドワードさんの剣は細い上に、先端が丸くなっている。
刃の部分もなく丸みを帯びているため、剣なのに斬れる武器ではないのだが、一体どうやって戦うのだろうか。
「さて、ちょいと頑張ろうかのう」
体を一瞬脱力させたように見せてから、丸みを帯びた細身の鉄の棒を構えた。
半身の状態にし、酷く窮屈そうな構えだ。
あの体勢からでは剣を振るうことは出来ないだろうから、恐らく‟突き”が主体なのだろう。
エドワードさんは、囲んできたランペイジボアの中から一匹に絞り、独特な構えのまま近づいて行った。
対するランペイジボアたちは、囲まれているエドワードさんの方から動いてくると思わなかったのか一瞬固まっていたが、すぐにエドワードさんを三方向から突進攻撃するように動き出した。
逃げ場のない三方向からの突進攻撃なのだが、エドワードさんの表情や動きに焦りは一切見えない。
最初に狙いを定めたランペイジボアにそのまま近づいていくと、突進してくるランペイジボアの頭蓋目掛けて突きを放った。
動きは最小限だし、傍目からでは軽く小突いたようにしか見えなかったのだが、突進してきていたランペイジボアの勢いは急停止したかのように完璧に止まり、そのままドサリと地面に倒れた。
エドワードさんは倒れたランペイジボアには一切目を向けず、背後から迫ってきている二匹のランペイジボアに向き直すと、攻撃を捌くといった動作は一切せずに、二匹とも最初のランペイジボア同様に頭を軽く小突いて気絶させていったのだった。
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