第百五十一話 装備品の効果


 箱の中には煌びやかな服と靴。

 その横にはこれまた凄そうな短剣が置かれていて、畳まれた煌びやかな服の上に、少し汚い錆びたシルバーリングが置かれている。


「おばあさん。これ……全部借りてもいいんでしょうか?」

「もちろんだよ。ワタシはもう使わないからね。ルインが使ってくれるならワタシとしても嬉しい」

「本当にありがとうございます。大事に使わせて頂きます!」


 感謝の気持ちを伝えてから、早速おばあさんが持ってきたくれた装備品を手に取り、身につけて行く。

 俺の装備は未だに、布の服の上にライトメタルのプレートだけだったからな。

 

 ボロボロの布の服と靴を煌びやかな服と靴に着替え、凄そうな短剣をアングリーウルフのダガーの横に身に着ける。

 まだ何も変化は感じられないが、この装備品には一体どんな効果があるのだろうか。

 【攻撃軽減】とか【魔法軽減】とか……おばあさんの装備品ということで、俺は凄い効果を期待してしまうな。


「お、サイズは丁度良いみたいだね」

「そうですね。ピッタリで動きやすいです! ……それで、この装備ってどんな効果があるんでしょうか?」


 俺は一番気になっていたことをおばあさんに尋ねる。

 すると、おばあさんは悪い笑みを見せたあと、装備の説明をし始めた。


「その上下の派手な服と靴は耐熱と耐冷に優れている逸品で、熱い場所でも寒い場所でも着ることが出来る優れものなんだ。そっちの短剣は有名な神職が作った短剣みたいでね。アンデッドの魔物に有効な短剣だよ」

「へー……! どちらも優れた効果が付与されているんですね!」

「ワタシが旅して回っていたときの思い出の品だから、大事に使っておくれよ」

「もちろんです! 汚さないように大切に使わせて頂きます!」


 おばあさんの説明を聞く限り、やはり凄い装備の数々だったようだ。

 耐熱と耐冷については、俺的には着こんだりすればいいだけだから、あまり重要ではないのではとも思っているが……俺の浅い知識よりもおばあさんの言葉の方が重い。

 素直に借りて、大事に使用させてもらおう。


 それと……錆びたシルバーリングについては特に説明がなかったな。

 他の装備と見比べても地味だし、凄い効果があるとかではなく、ただ単におばあさんの思い出の品なのかもしれない。


「おばあさん、このシルバーリングは効果なしなのでしょうか?」

「くっくっく。よく聞いてくれたね! これは【ウォッシュ】の永続魔法が込められた指輪なんだ。いつでもどこでも体を綺麗に出来る優れものなんだよ」


 そんなおばあさんの説明を受けて、俺は口をポカーンと開けてしまう。

 体を綺麗に出来る……?

 確かに便利そうではあるけど……永続魔法が込められているから価値があるってことなのだろうか。


「どうやら【ウォッシュ】のありがたさを分かっていないようだね。まあ、旅に出ればすぐに有難さに気づくだろうさ」

「旅の経験自体少なくて、俺の想像力が足らないだけなんですね。おばあさんの言葉を信じてありがたく使わせて頂きます」

「装備についてはそんなもんかね。…………それじゃ、そろそろ出発の時間かい?」


 おばあさんにそう言われ、時計に目を向けると、待ち合わせの時間が迫ってきていた。

 かなりの余裕を持って【エルフの涙】にやってきたのだが、あっという間に時が流れる。


「そう……みたいですね。もう行かないといけない時間です」

「そうかい。……もう、ルインと長らく会えないと思うと、やっぱり寂しくなるね」

「そうですね。俺もおばあさんと会えなくなるのは……寂しいです」


 悲しそうに笑ったおばあさんに、俺も無理やり笑顔を作ってそう告げる。

 おばあさんにはずっとお世話になった。

 何も知らない俺に色々なことを教えてくれ……おばあさんがいなかったら、俺は死んでいてもおかしくはなかった。


 どんな時でも優しい笑顔で迎え入れてくれ、俺はこのお店に来る度に、安らいだ気分になれた。

 そんな優しくしてくれるおばあさんに、俺は勝手に死んでしまったお母さんを重ね合わせていた部分がある。


 だからこそ死んでしまったお母さんの分まで、おばあさんを大事にしようと思っていたんだけど……。

 俺はグレゼスタを発つ決断をしてしまった。


「おばあさん。無理はせずに健康に気をつけて、元気に過ごしてくださいね。俺はまた絶対に戻ってきますので、その時はまた元気な姿を見せてください」

「……ルインの方こそ、健康には気をつけるんだよ? 旅が嫌になったらいつでもグレゼスタに戻っておいで。全てなくなっても『エルフの涙』で働かせてあげるし、ワタシはいつだってルインの味方だからね」


 優しい笑顔でそう言ってくれたおばあさんに、俺は昨日に引き続き泣きそうになる。

 そんな俺の様子を見てか、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきてくれたおばあさんは、俺を軽くハグすると優しく頭をポンッと撫でてくれた。


 駄目でもおばあさんが受け入れてくれる。

 そう分かっただけで、気持ちがグッと楽になった。

 俺からも軽く抱き返し、そっと離れて心配をさせないように力強く宣言する。


「おばあさん、ありがとうございます。気持ちが楽になりました。いつでも逃げても大丈夫って気持ちで全力で頑張ってきますので、応援してください!」

「ああ、もちろんだよ。陰ながら応援しているからね。悔いは残さないように、頑張ってくるんだよ!」

「はいっ!」


 こうしておばあさんとの別れの挨拶を済ませた。

 本当に俺は色々な人に恵まれ支えられていたんだなと、別れるとなって再認識する。


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