第百四十七話 【蒼の宝玉】


 その異様な空間に俺が息を呑んでいると、部屋に入ってきたことに気が付いた三人の男性の内の一人が話しかけてきた。


「おーう? レイラ、戻って来たかぁ。一人ってことは……。ケッケッケ、またダミアンの奴は負けたのかよぉ」


 妙に甲高い声を発した、色白でひょろ長い男性。

 座っているから分かりづらいが、さっきレイラさんにやられた大柄の男性よりも、背だけでいうならば高いと思う。

 そして、背以上に目に止まるのはその長い手足で、バランスが一切取れておらず……ソファに座っているのにも関わらずガニ股となっている。


「そんなことより後ろのガキはなんだよ。この部屋にはパーティメンバー以外入れるなって、てめぇが口酸っぱく言ってたんじゃねぇのか」


 ひょろ長い男性の言葉を遮って、俺の話を持ち出したのは隻腕の男。

 身長は俺よりも少し高いくらいだと思うのだが、ガタイの良さはさっきやられていた大柄の男よりもいい。

 片腕しかないからなのか、俺の胴体よりも太い左腕が生き物のようにピクピクと動いていた。

 

「パーティメンバー以外立ち入り禁止ってよりも、グラウスが女を連れ込んでくるから禁止って言ってただけだと思うよ」


 隻腕の男に口を挟んだのは、全身に縫われたような跡がある男性。

 縫い跡以外にも、片目には宝石のようなものが埋め込まれており、その宝石は奇妙に光り輝いている。

 どの人物も一癖あるのだが……話している様子を見る限り、この縫い跡のある男性が一番良識人の印象を受けた。


「いいからまずは私の話から聞けや。……この小僧はルイン。以前、コルネロ山でアーメッドの後片付けをさせられた時のガキだ」


 俺を親指で指しながら、俺をそう説明したレイラさん。

 アーメッドさんの名前が出た瞬間にまだ緩かった空気が一気にピリつき、説明を終えてからは、三人とも俺を睨むように見ている。


 反応や会話内容的に、レイラさんと先ほどやられていた大柄の男性。

 それと、この三人の計五人が【蒼の宝玉】なのだろう。

 ここにアーメッドさんが加わっていたのだとしたら……さぞ、地獄絵図だったと思う。


 それにしてもアーメッドさんは、この【蒼の宝玉】の面々と大揉めして脱退したとは聞いているが……一体何をしたんだろうな。

 居場所の心当たりと共に、何を揉めたのかも聞ければいいなぁと思っていたのだが、この雰囲気では恐ろしくて聞けない。


「あのアーメッドが、コルネロ山まで一人で探しに行ったっつう奴が……そのガキなんだな」

「……ケッケッケ。それは確かに興味深いねぇ」

「冒険者ギルドに詰めても、正確な情報は教えて貰えなかったのに……レイラはよく見つけ出したね」

「へへっ、嗅覚が反応してね。本能がこいつだっ! ……って感じ取った訳なんだよ」


 みんなの興味津々な反応を見て、嬉しそうにしているレイラさん。

 反応的に途中までは絶対に気づいていなかったし、俺が名前を告げたことでようやく気づいたのだと思うんだけどな。


 ……というか、俺ってそんなに探されていたのか。

 月に数回しか冒険者ギルドに行かない上に、基本的にボロ宿前で剣を振っているか、【エルフの涙】でポーションの製法を習っているかのどちらかしかなかったから、見つけられなかったのだと思う。

 このまま見つからずにグレゼスタを発ててたらと、反射的に声を掛けたのを本気で後悔してしまうな。


「んじゃ、早速聞かせてもらうが……お前とアーメッドはどんな関係なんだ? 肉親って訳じゃねぇよな?」

「違います。そんなに深い関係ではないですね。護衛依頼を一度、引き受けてもらったってだけです」

「あ? 嘘吐くな。何か隠そうとしてんなら……体に聞くからな。ここは声も通らなければ、私達以外誰も来ない。その意味が分かってるよな?」


 隻腕の男性の質問に素直に答えたのだが、即座にレイラさんが俺の言葉に否定を入れ、脅してきた。

 俺はレイラさんへの質問の答えを聞きに来たのだが……いつの間にか、俺が情報を吐かされる側へと回っている。


「い、いえっ! 嘘ではなく本当です! これは冒険者ギルドに聞いて貰えれば分かると思うのですが、【青の同盟】さんはギルドからの紹介で依頼をお願いし、その一回しか依頼は受けてもらってません。……先ほど話題に出ていた、コルネロ山で遭難したときは助けて貰いましたが」


 俺が四人の目を順繰りに見て、必死にそう訴えるとひょろ長の男性が頷いた。


「ケッケ。どうやら嘘は吐いてないみたいだなぁ。だけど、嘘じゃないのが分かっても納得いかないねぇ」

「……確かにそうだね。あのアーメッドが一度の依頼で一緒になっただけで、人を助けに行くとは到底思えないよ」


 ひょろ長の男性のそんな言葉に、縫い跡の男性が即座に同意した。

 俺目線からしたら、アーメッドさんは優しい人なのだが、揉めただけあってすこぶる印象が悪いみたいだ。

 ……確かにアーメッドさんは、個性の強そうな人とは馬が合わなそうだもんな。


「とりあえず色々と聞いてみよう。何かしら分かるかもしれないしね」

「そうだな。折角、俺達が探していた人物がいる訳だしな。どんどん聞いていくか」


 それからは俺は、【蒼の宝玉】の面々に囲まれながら、様々な質問に答えていった。

 質問の内容は基本的にアーメッドさん関連で、所々恨み節が混ざっていたのだが、なんとなく四人はアーメッドさんを完全に嫌っている訳ではない。


 【青の同盟】さん達の話や【蒼の宝玉】さん達の態度を見た時は、アーメッドさんが一方的に嫌われていて追い出されたのかと思っていたが、どうやら違う感じがする。

 俺は四人からの質問に答えながら、そう感じたのだった。


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