第百四十一話 約束と宣言


「い、いや。決して……そんなことはないと……思うぞ? 成長速度は他の人と比べても確実に高いと思うからな。たった一年じゃ、普通の人はここまで成長できない……と思うぞ!」


 目を逸らしながら、俺にそう力説しているキルティさん。

 確かに普通の人は、一年で俺ほど伸びることはないと思う。

 ……ただそれは、俺と同じ条件だったら話は変わってくる。


 今の俺と同じように、キルティさんに朝と夜の指導をしてもらい、月に一度の採取以外は全ての時間をトレーニングに当てる。

 普通の人はこんな生活が出来ないだけで、この生活を行ったとしたら俺と同じだけ成長出来ると思う。

 

 人脈や時間を確保できることも才能の一つと言われればそうなのだが、それが剣術の才能があるという訳ではないのは事実。

 キルティさんが一向に目を合わせてくれないところからも、俺の感じていたことが正しいという証明だと思う。


「キルティさん、気遣いとかは大丈夫ですよ。俺自身で気づいていることですので」

「……い、いや、私は本当にルインに才能がないとは思わないのだが……。ま、まあ、確かにルインがいう……突出した才能があるかと問われたら答えが難しいが、少なくとも才能がないと卑下するほどではないだろう」

「いや、最近は明らかに成長曲線が緩やかになっていましたから。剣術の才能があるとは言い難いと俺は思います」

「……まあ、確かに……そうなのか。……とはいえ敵の指揮官を倒せていたし、その一戦で何か掴めていたのだと、私は思ったのだが……」 

「申し訳ないのですが、俺が感じたのは全くの逆でしたね。なにかを掴むどころか、自分の不甲斐なさを痛感することしかできなかったです」


 そんな俺の言葉に、キルティさんはなんともいえない表情で頭を掻いた。

 キルティさんが変な態度を取るから、なにやら重苦しい空気が流れてしまっている。

 今日キルティさんから話が聞けて、このままではいけないと確信が持てたし、一切落ち込んではいない。


 俺に飛びぬけた剣術の才能がなかったとしても、それを補って余る才能を俺は持っていると断言できるから。

 キルティさんに人並み以上に鍛えてもらったことで、俺の【プラントマスター】の幅が大きく広がった。


「そうだったんだな。……でもさっきも言ったが、ルインはまだ幼い。このまま成長していけば——」

「このままで、俺はキルティさんを倒せるようになりますでしょうか?」

「………………………………。」


 俺が食い気味でそう質問を投げかけると、キルティさんは口籠った。

 キルティさんが俺に指導をし始めてくれた理由は、俺がキルティさんを倒せる剣士になると見込んだから。


 それなのに、俺はこのままグレゼスタで残ったとしても、俺がキルティさんを超すことは一生ないと断言できる。

 キルティさんの期待に応えるためにも、そしてキルティさんを越して恩返しするためにも……やはり俺はグレゼスタを出るのが一番良い選択肢なのだろう。

 

「キルティさんが思っている通り、俺には足らないものが多すぎるんです。キルティさんを越せるだけの剣の才能があれば……グレゼスタに残るという選択肢も取れたのですが、そこは本当に申し訳ないです」

「謝らないでくれ。私こそ、もっとちゃんと指導してあげることができれば……」

「いえ、キルティさんからは完璧な指導を受けました。何度も言ったように俺自身の問題です」


 俺がスッパリとそう告げると、また俯いてしまったキルティさん。


「……ただ、安心してください。俺は決して、自暴自棄になってグレゼスタを出ると言っている訳ではないので。俺は必ず、キルティさんよりも強くなります!」


 俯いているキルティさんに、俺は力強くそう宣言する。

 俺をここまで鍛えてくれたキルティさんへの恩返しである、キルティさんを打ち負かすこと。


 正攻法では駄目だったけど、約束を果たすためにも俺は必ずキルティさんを超える。

 キルティさんはゆっくりと顔を上げると、俺の瞳を見てからゆっくりとほほ笑んだ。

 

「…………そうか。ルインにも考えがあって決めたことだったんだな。……なら、私は応援する。寂しくなるが、ルインが私を超えてまた会う日まで——私は期待して待っているぞ」

「はいっ! この約束だけは死んでも守りますので」

「ふふっ、死んだら駄目だろ。必ず生きて約束を果たしにきてくれ」


 ようやくしっかりとした笑顔になったキルティさんと握手を交わし、俺はもう一度キルティさんを追い越す約束をした。

 ……この約束は、絶対に果たさないといけなくなったな。


 なにがなんでも強くなる。

 心でそう誓いながら、俺はキルティさんの手を強く握り返したのだった。


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