第百四十話 キルティへの相談
それから三日間。
俺はヴェノムトロールとの激闘の疲れを癒すために、回復ポーションを使いながら安静にしていた。
三日間、しっかりと休養していたお陰もあって、もう体の方は何の影響も残っていない。
俺は久しぶりに素振りの準備を整えてから、軽く体を動かすために外へと出た。
外には一歩も出ず、ボロ宿に籠っていたため、空気が美味しく感じる。
俺はなまった体を動かそうと何の気なしに外に出たのだが……ボロ宿の前で立っているキルティさんが見えた。
……もしかしてだけど、キルティさん。俺が寝込んでいたこの三日間、ずっと来てくれていたのか?
そう考えつき、俺は慌ててキルティさんの下へと走る。
「キルティさん、おはようございます!」
「あっ、ルインじゃないか! こんなところで会うとは奇遇だな。もう体の方は良くなったのか?」
俺が声を掛けると、わざとらしくそう反応したキルティさん。
三日間来てくれていたのですかと、問おうとしたのだが……この反応をされるとなんて返したらいいのか分からない。
キルティさんは宿前で仁王立ちしていたし、確実に‟奇遇”ではないと思うんだけど。
「……え、えーっと、そうですね。体の方はもう完全に回復しました。お見舞いもそうでしたが、本当にご心配お掛けいたしました」
「ふふっ、気にするな。ということは、今日から指導の方は再開できるのか? 木剣も持っているようだし……」
「そうですね。とりあえず今日は、軽く素振りだけしようと思っていたんですが、指導して頂けるならお願いしたいです」
「分かった。久しぶりにルインの素振りをみてあげよう」
こうしてキルティさんに素振りを見てもらいながら、俺はなまった体をほぐすように素振りを開始した。
★ ★ ★
「――よしっ。少し早いが、今日はここまでにしよう」
手を鳴らしながらそう言ってきたキルティさんの指示に従い、素振りの手を止める。
三日ぶりということもあって、最初はぎこちなさがあったのだが、休んだ影響か途中からはかなりいい感じで剣を振ることが出来た。
軽く汗も流せて、気分もスッキリ爽快。
「キルティさん、指導ありがとうございました」
「いや、私はなにもしてないよ。剣の振り方もしっかりしているし、私からの細かい指導はもういらないかもしれないな」
「いえ、まだまだですよ。キルティさんと比べたら動きに無駄が多いですから」
素振りについてを軽く振り返ったところで、俺はこの三日間考えていたことをキルティさんに相談することに決める。
病み上がりということもあって、いつもよりも短い時間で終わったため、時間には余裕があるからな。
「あの、キルティさん。一つ相談があるのですが、いいでしょうか?」
「相談? 珍しいな。ルインが私に相談なんて」
「ええ。……実はこの三日間、体を休めながら自分の中で考えていたことがありまして、そのことについてを相談させて頂ければなと」
「もちろん、構わないぞ。弟子の相談に乗るのは、師として当然の役目みたいなものがあるからな! なんでも相談するといい」
俺がそう話を切り出すと、何故か嬉しそうな表情を浮かべたキルティさん。
剣術や戦闘以外での相談は初めてだから、もしかしたら頼られて嬉しい……みたいな感情があるのかもしれない。
ただ相談の内容が内容なだけに、嬉しそうにされると少し心苦しいな。
「ありがとうございます。それで、相談の内容なのですが……実は俺、グレゼスタを発とうかと考えているんです」
俺がウキウキなキルティさんにそう告げると、笑顔を張りつけたまま固まってしまったキルティさん。
……相談内容が、決して良い内容ではないのが本当に申し訳なくなるな。
「…………ん? あれ……おかしいな。もしかしたら、私が疲れているのかもしれない。――グレゼスタを発つ。……なんて言ってないよな?」
表情を歪めて苦笑いで、そう俺に聞き返してきたキルティさん。
俺は一度俯き、キルティさんの顔を見ないように言葉を返す。
「……いえ、言いました。もう一度言いますが、実はグレゼスタを出ようと考えているんです」
「――なんでだっ!? 誰かに意地悪をされている? それとも体が本当は良くないとかか? ……それとも、私が嫌いになったとかか?」
キルティさんは酷く慌てながら俺を問い詰めてきた。
もっと冷静な話し合いができると思っていただけに……キルティさんの反応に俺も動揺してしまう。
でも、仮にキルティさんやおばあさん、【鉄の歯車】さん達がグレゼスタを発つと聞かされたら……俺も同じ反応を取ってしまうか。
「いえ、今キルティさんが仰ったどれも違いまして……三日前のセイコルの街での戦いで、今のままでは駄目だと気づいてしまったんです」
「い、いや。そ、そんなことはないだろう。ルインが敵の指揮官を倒し、私は順調に成長してくれて嬉しく思っていたんだぞ? まだ幼いのに着実に力をつけてきていると、私は自信を持って言える!」
「ありがとうございます。キルティさんから直々に評価を頂けたのは、素直に嬉しいです。……ですが、キルティさんも薄々は感じていなかったでしょうか?」
「――えっ? な、なにをだ?」
確信を突かれたように、体をビクリと反応させたキルティさん。
……やはりと言うべきか。キルティさんも俺と同じようなことを感じていたのだろう。
「俺の成長が徐々に緩くなっていっていること……ですかね? 俺には剣術に関して突出した才能がないと思っています。これは、キルティさんに指導してもらったからこそ、気づけた事実ですので……恐らくキルティさんも気づいているのではないでしょうか?」
俺がキルティさんにそう告げると焦った表情のまま、あわあわしながら俯いてしまったキルティさん。
この反応から見て、やはり——俺が感じていた通りだったということか。
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