第百三十九話 これからの動き
キルティさんからセイコルの街の話を一通り聞いた後、今日は夜も遅いということで、話の続きは後日に回されることとなった。
キルティさんも俺以上に大変な一日だったようだからな。
本当は、俺の‟これから”についての相談もしたかったのだが、別日に俺自身の考えをまとめてから相談しようと思う。
「キルティさん、わざわざお見舞いまで来てくださってありがとうございました。それに最上級ポーションまで持ってきてくださって……お陰さまで体も大分楽になりました!」
「ふふっ、気にするな。ルインが元気な姿を見れて、私は満足できたからな。……それに聞いた話によると、ルインは無償でセイコルの街の制圧に協力してくれたみたいじゃないか。ポーションについては、協力してくれた報酬だと思ってくれ」
俺の報酬をキルティさんが出してしまったら、逆にキルティさんが無償で働いてしまうことになってしまうと思うんだけどな……。
というか、王国騎士の隊長さんの一日のお給料は分からないけど、確実に最上級ポーションよりも低いことは断言できる。
身銭を切ってまで持ってきてくれたポーションのお礼は、また違う日に俺からお礼の品を渡そう。
「今度、このポーションのお礼は返させて頂きますね」
「気にしないでいいが……まあ、少しだけ楽しみに待っているよ」
そう言って、部屋を出て行ったキルティさんを俺は見送った。
正直、起きた瞬間はかなり焦ったけど、お見舞いに来てくれたのは嬉しかったな。
キルティさんが帰宅したのを確認してから、俺は再びベッドへと戻る。
最上級ポーションのお陰か、痛かった体もこの数分でかなり解消されていて、気持ち良く眠ることが出来そうだと思ったのだが……。
俺の頭では、様々な思考がぐるぐると駆け巡っている。
もちろん巡っている思考は、俺は今後どうするべきなのかについて。
このままグレゼスタに残って、朝と夜はキルティさんに剣術の指導を受け、昼間は『エルフの涙』でおばあさんからポーションの製法を習う。
そして一ヵ月に一回、【鉄の歯車】さん達と一緒に採取しながら模擬戦大会を高め合っていく。
この一年間過ごしてきた生活を続けるのは決して悪くはない。
周りの人に恵まれているし、この一年はみんなに支えられて、俺自身考えられないほど成長することが出来た。
……ただ、それと同時に、俺は自分自身の限界が見えてしまっているのも事実。
この生活を始めたばかりの頃に比べて、成長線が徐々に緩やかになっていっているのが分かるし……キルティさんにはこの一年間、毎日のように挑み続けたのだが一度たりとも、俺がキルティさんに勝てる想像すらも出来たことがない。
‟才能”というものは確実に存在し、剣術を人並み程度には嗜んだことでその才能の差というものを、俺は明確に感じ取ることが出来た。
そして、極めつきは今日のヴェノムトロールとの一戦。
キルティさんほどではないが、一対一での戦いでは全く勝ち目が見えなかった。
俺の精一杯の駆け引きも通用しなければ、身体能力でも劣っているため、一方的に攻撃されるだけ。
ライラとバーンのサポートに、ニーナの【アンチヒール】。
更にはポルタの【ブレイブ】に、様々なポーション攻勢を行って……ようやく対等まで持っていくことが出来たのだ。
それだけでなく魔王軍は、俺が苦戦に苦戦を強いられたあのヴェノムトロールを、人為的に作り出していると噂されているらしい。
恐らく、俺がこのままの生活を送っていても、俺一人でヴェノムトロールに勝てるようになるのは、最低でも10年はかかると思う。
それが世間一般的に見て、遅いのか早いのかは分からないけど……俺は遅いと思ってしまっているのだ。
この辺りについては、いずれ詳しくキルティさんに相談するべき話だとは思うけど……俺が他の人とは、一線を画して突出していると言える才能は【プラントマスター】のみ。
今回のヴェノムトロールとの一戦でも、それは強く感じることができた。
状態異常を与える植物だったり、身体能力を上げる植物だったり。
そういった俺の知らない植物は、まだまだこの世界に存在していると俺は思う。
だから俺が考えているのは……このグレゼスタを出ること。
グレゼスタ近郊に留まらず、世界中を旅して植物の採取や様々な魔物との戦闘経験を積む。
更には、おばあさんやキルティさんから聞いた‟ダンジョン”にも行って、ダンジョンにしか存在しない植物や宝箱なんかも手に入れたい。
現状の俺はダンベル草だけで満足してしまっているが、この世にはダンベル草に匹敵、いやそれ以上の効果を持つ植物がある可能性の方が高いと俺は考えている。
それは、ダンベル草の効能である筋力上昇が‟小”であることからも、指し示していると俺は思う。
【エルフの涙】で売られているイミュニティ草だって、恐らくそういった部類の植物だろうしね。
これは俺の中で漠然と決めたことだから、決して決定事項ではないのだが、キルティさんも後押ししてくれたのなら、俺はグレゼスタを発とうと思う。
……この一年間、結局一度も顔を見せに来てくれなかったアーメッドさんに会いたいと言うのもあるからな。
自分の中で一つ考えを整理したら、ぐるぐると頭を駆け巡っていたものをようやくスッキリさせることが出来た。
とりあえず今俺がやるべきことは、体を休めて疲労を抜くこと。
そう行きついた俺は、静かに眠りに就いたのだった。
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