第百三十八話 お見舞い品
懐かしい感じがするキルティさんのこのもじもじ感。
初対面の時は出会い方が出会い方だっただけに、ずっとこんな感じだったもんな。
「キルティさんはお見舞いに来てくれたんですね。ありがとうございます。俺は怪我とかはなかったので大丈夫です」
俺がそう無事を告げると、少しホッとした様子を見せた。
もしかしたら……俺の返事がなかったから、一大事があったと思って仕方なく中に踏み込んだのかもしれないな。
「……そうか。それなら良かったよ。セイコルの街では満身創痍な様子だったから、大怪我しているのかと心配してしまった」
「ご心配おかけしてすいません。あの時、ちゃんと無事を伝えるべきでしたね」
「いいや、気にするな。ルインの心配をして、私に迷惑が掛かったなんてことはないからな」
そう笑顔で話してくれたキルティさん。
俺の周りの人は、本当に優しい人ばかりだ。
「一応、回復ポーションを持ってきたんだが、その様子じゃいらなかったか?」
「怪我がないので大丈夫ですが……あの、折角ですので頂いてもいいですか?」
「ああ、勿論構わないぞ。ほら、これが回復ポーションだ。実はこの回復ポーションはな、【エルフの涙】というお店の腕利きの薬師が作った質の高い回復ポーションなんだ」
おおっ! キルティさんの口からも出てきた【エルフの涙】。
やはりおばあさんのお店は、知る人ぞ知る名店なんだな。
効能も高ければ味もピカイチ。当たり前と言えば当たり前か。
俺はその場で感想と感謝の気持ちを伝えるために、キルティさんからもらった回復ポーションを即座に口にした。
キルティさんの優しさが籠っているから――という理由もあるとは思うけど、単純に普段俺が愛飲しているポーションよりも遥かに味が良い。
というか、俺は【エルフの涙】でお手伝いしているから分かるが、この回復ポーション。
……恐らく、最上級品質の回復ポーションだと思う。
俺のために持ってきてくれたのが嬉しいからっていう理由だけで頂いたのだが、飲んだ瞬間に普通の回復ポーションではないことに気がつき、途中からは冷や汗を流しながら飲んでいた。
「……あのとても美味しかったのですが、これって最上級品質の回復ポーションじゃないですか?」
俺がそう告げると、驚いた表情を見せたキルティさん。
この反応からして、やっぱり最上級品質の回復ポーションだったか。
これは怪我もないのに、個人的な理由で受け取ってしまったのが申し訳なくなる。
「ルイン、よく分かったな! もしかして飲んだことがあったのか?」
「いえ、初めて飲みましたよ。ですが、【エルフの涙】でお手伝いしているので、ポーションには詳しいんです」
「えっ!? ルイン、あそこのお店で働いていたのか!?」
「あれ……? 言ってませんでしたっけ。昼の空いている時間に【エルフの涙】でお手伝いしているんです。前職が治療師ギルドだったので、そこの繋がりで働かせてもらってまして」
「いやいや、私は初めて聞いたぞ!? むむむ。……そのことについて、色々と問い詰めたいところだが……それは別日か。今はセイコルの街のその後についてを報告するべきだからな」
キルティさんと会っている時は、基本的に剣術や戦闘に関してしか話さないため、どうやら【エルフの涙】でお手伝いをしていることを伝えていなかったみたいだ。
隠し事をされていたと思っているのか……ジト目で俺を見ながら、若干納得のいっていない様子で、キルティさんは俺達が街を離れてからのことを話し始めた。
「あの後、ルインが助けた少女とその母親はしっかりと保護したよ。それからセイコルの街を襲った魔物達を全て倒して無事に奪還し、街外の魔物も全て屠ることに成功した」
「そうですか。あの子をしっかり保護してくださり、ありがとうございました。無事に街も奪還できたみたいで一安心です。……それで、あれから強敵はいたのでしょうか?」
「いいや。強敵らしい強敵は、ルインが倒した紫色のトロールぐらいだったな。飛来している魔物には若干苦戦していたのだが、ルインと仲の良い冒険者パーティの子が半数以上を倒してくれたお陰で、被害はかなり抑えることが出来た」
ニーナのことか。
飛んでいる魔物は、【アンチヒール】で殆ど叩き落していたもんな。
被害は少しでも抑えられたのなら、戦いにいった甲斐はあったと思う。
「そうですか。……でも、やはり被害は出てしまっていたんですね」
「それは……そうだな。ルインも見たと思うが、私達が到着する前にかなりの被害を受けてしまっていた。ただ、街の中まで侵入を許していたことを考えれば、考えうる最小限の被害だったと言えるよ」
キルティさんのその言葉を聞いて、少しだけ胸のつっかえが取れた。
目の前で被害に遭っているところに遭遇したのは、俺にとっては初めての経験だったからな。
もう少し早く辿り着けたら、少しでも多くの人を助けることが出来たのではないかと、ずっと脳裏にこびりついて離れないでいた。
そんな自責の念が、キルティさんの言葉で軽くなった気がする。
ただ俺は今回の一件で……一人でも多くの人を救える力が欲しい。
アーメッドさんに追いつくというためだけに漠然と鍛えていた俺に、そんな一つの目標が出来たのだった。
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