第百三十六話 街からの脱出
「まあ、使い捨てのコマといっても……この魔物の死体を見る限り、上位種の魔物ではありそうだけどな。――っと、話はまた後でしよう。私は街を見回って、セイコルの街の住民の救出に向かうよ。ルイン、本当にご苦労様だったな」
寝転んでいる俺の頭をポンポンとやさしく叩いたあと、キルティさんは少女と母親を連れ、何処かへ行ってしまった。
俺はというと紫トロールが使い捨てのコマという事実が頭にこびりつき、思考が停止したまま。
もし紫トロールではなく、魔王軍の幹部だったら俺達は全滅していたのではないかという想像を、脳内でぐるぐると考えてしまっている。
「……ねえ、ルインっ! 今のって、王国騎士団の隊長さん!? 何を話していたの!?」
俺が思考をフリーズさせていると、後ろから俺とキルティさんがやり取りしている姿を見て、ライラがすっ飛んできていた。
使い捨てのコマについては一度忘れて、ライラの質問にどう答えるか考える。
……と言うか、ライラはよくあれがキルティさんだと気づいたな。
「え、あーとっ。さっきの少女を救ったときのことを軽く聞かれただけだよ。……それにしてもライラはよく王国騎士団の隊長さんだって気づいたね」
「だって、隊長の証である腕章を巻いていたし、王国騎士団で女性は隊長一人だけだからね! ――って、そんなことはどうでもよくって! なんか親しげじゃなかった!? 頭もその……撫でられてたように見えたし!」
「少女を助けたことと、あの紫トロールを倒したことを褒められただけだよ?」
「えー……。なんか親しい感じがしたと思ったんだけどなぁ」
かなり疑った様子で、ジト目で俺を見つめてくるライラ。
嘘を吐くのは心苦しいが、バレたくないっていうのがキルティさんの希望だからな。
例え俺が信頼しているライラであろうと、キルティさんからしてみれば他人。
許可なくおいそれと教える訳にはいかない。
「……ライラさん。そこまでにしてあげてください。ルインさんに怪我はないといっても、動けないほどの損傷は負っていますから。とりあえず私達はここから撤退しましょう」
「そうですね。残りの魔物は王国騎士団さん達に任せて、僕たちは撤退しましょう。動けない負傷者二名を抱えての戦闘継続は困難ですからね」
「むぅー。分かったよ! それじゃ撤退しようか! ニーナはルインを、ポルタはバーンを運んであげてほしい。周囲の警戒と道中で遭遇した魔物の処理は私にまかせて!」
こうして役割配置を決めてから、即座に撤退の準備を始めた三人。
俺は三度目となる女性に運ばれる形になったのだが、これまでの慣れもあって、そこまでドキドキせずに平静を保てている。
それからセイコルの街を出る間に、二匹のオーガと遭遇したもののライラの連撃攻撃によって危なげなく突破し、俺達は全員無事の状態で街から脱出することに成功したのだった。
そしてセイコルの街を脱出したあと、街外で戦闘を行っていた【タマゴ倶楽部】さん達と偶然遭遇。
【鉄の歯車】さん達が、【タマゴ倶楽部】のエドワードさんに師事していたということもあって、【タマゴ倶楽部】さん達と一時パーティを組んでグレゼスタへと帰還したのだった。
……俺は今、何故かエドワードさんにおぶわれている。
途中までは、セイコルの街と同じようにニーナにおぶわれていたのだが、何故かエドワードさんが俺をおんぶすることを志願し、エドワードさんにおぶわれることとなったのだ。
エドワードさんはどこにでもいそうな優しそうなお爺ちゃんなのだが、おぶわれたことでその肉体の凄さが分かる。
同じ体格くらいである俺をおぶっても軸は一切ブレず、引き締まった体は磨き上げられた鋼を彷彿とさせた。
初対面の人におぶわれていることに、俺が少し緊張していると、チラッと横目で俺を確認してから、エドワードさんが優しく話しかけてきてくれた。
「ふぉっふぉっふぉ。お主がルインじゃな? 【鉄の歯車】の面々から噂は聞いておるよ」
「は、はい。私がルインと申します。エドワードさんの噂も冒険者ギルドのギルド長さんや、【鉄の歯車】さん達から聞いています!」
「ほほう、儂の噂とはなぁ。変な噂じゃなければいいんじゃがのう」
「変な噂だなんて。真逆ですよ。若い世代の育成に力を入れている功労者だってギルド長さんは絶賛していました! 【鉄の歯車】さん達も、エドワードさんの指導のお陰で実力をつけることが出来たと言っていましたし」
俺がそう伝えると、嬉しそうに笑ったエドワードさん。
見た目から優しそうなオーラは出ていたが、こうして話してみると人柄の良さが滲み出ているな。
「ふぉっふっふぉ。嬉しいがそれは褒め過ぎじゃな。【鉄の歯車】の面々に至っては儂が指導しなくとも勝手に育っておったじゃろうし。すこーしばかり手解きしてやっただけじゃよ」
……【エルフの涙】のおばあさんと同じ雰囲気な感じで、穏やかな気分になる話し方をしている。
まだ軽く話しただけだけど、俺もエドワードさんから機会があれば、手解きを受けてみたい。
エドワードさんにおぶわれながら、俺はそう思った。
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