第百三十二話 防戦一方
俺は後衛に待機しているポルタとニーナの位置まで戻り、救出した少女を預けてから、即座にライラとバーンが請け負ってくれた前衛へと引き返す。
二人は二対一の数的有利の状況と息の合った連携で、紫トロールの攻撃をなんとか防いでいるようだが、少女が飛び出してきた道からオーガ二匹が向かってきているのが見えた。
数的不利となったら一気に崩れるのが目に見えているため、俺のこれから取る動きは向かってきている二匹のオーガを瞬殺し、ライラとバーンの助太刀に入ること。
二人は紫トロールの攻撃をなんとか防げてはいるが、動きを見る限りギリギリな上に紫トロールは余裕の笑みを浮かべている。
人並みならぬ力に加えて知能が高い上に、技術を使ってきている紫トロール。
早く助太刀に入らないと、殺されてしまう可能性が高い。
「ニーナッ!! ライラとバーンの援護をしてあげてほしい!」
「分かっています! ただ、【アンチヒール】を撃っているんですが……!!」
俺はオーガに向かって走りながら、ニーナに援護のお願いを出したのだが……。
ニーナが悲観の声を漏らす通り、【アンチヒール】が紫トロールに当たっているのに、効いている様子がまるでない。
その事実に理解が追いついていないが、俺は一先ずオーガを仕留めることだけに集中し、紫トロールに合流しようとしているオーガの間へと割り込んだ。
時間はないため、勝負は一撃で決める。
俺は鋼の剣を上段で構え、走ってきているオーガの動きに合わせ——剣を振り下ろした。
俺が意識するのは瞬間の爆発力。
俺の全ての力が無駄なく剣に伝わるように、全力で剣を振り下ろす。
正面にいたオーガは上段斬りによって両断され、俺は即座に二匹目のオーガにも手をかける。
二匹目のオーガは水平斬りで腹部を斬り裂き、予定通り一撃一殺。
ここで一息入れて、呼吸を整えたいところだが……そんな時間は一切ない。
俺はすぐに後ろを振り返り、即座にライラとバーンの助太刀に向かう。
ライラとバーンは変わらず紫トロールに翻弄されており、攻撃を捌くだけでアップアップなのが見て分かる。
少女を守る際にガードしたあの一撃も、上からの斬り下ろしでなかったら、吹っ飛ばされていたほどに重い一撃だったからな。
このスピードもパワーもテクニックすらも、俺達を上回っている紫トロールをどう倒すか、助太刀に向かいながら必死に考えるが……何も思い浮かばないまま、俺はライラとバーンの助太刀へと入ることとなってしまった。
「ライラ、バーン。カバーしてくれて助かった!」
「礼はいらない! それよりも——こいつを早くなんとかしなくちゃ駄目だ!」
「グッヘッヘ! お前ら中々戦えるみたいじゃねぇか! この街の連中は手応えのねぇ連中ばっかりだったからなぁ!? くれぐれもすぐには死なずに俺を楽しませてくれや!」
紫トロールの動きや表情からも分かったように、やはり手加減をしているみたいだ。
俺が加わって三人となってからは、更に攻撃速度を上げてきたのがその証拠。
無茶苦茶な速度で、無茶苦茶な威力の攻撃を加えてくる紫トロールに、俺達は三人でカバーし合い、なんとか攻撃をしのいでいく。
軽く振っているようなのに一発、一発が、毎回吹っ飛ばされるほどに重い。
その上、ガードしているだけの俺達は息も絶え絶えなのに対し、紫トロールは未だに笑顔で楽しそうに剣を振っている。
考えたくはないが……この紫トロール。キルティさん並みの戦闘能力を持っている。
とにかく誰かが助けに来てくれるまで、死なないことだけを考えて立ち回るしかない。
★ ★ ★
紫トロールとの戦闘が始まってから、既に数十分が経過しようとしていた。
その間、俺達は一度も攻撃に転じられないまま、ガードだけをし続けている。
連続で繰り出される重い一撃を受け続け、川に飛び込んだかのように全身から汗が吹き出ている俺達三人。
更には筋肉も痙攣し始め、後ろから飛んでくるニーナの【ヒール】がなければ、もう全滅していたと断言できるほど、三人ともに体は限界を迎えていた。
「ヒャッヒャッヒャ! 楽しいなぁ?……楽しいなぁ!?」
意識を朦朧とさせながら、死に物狂いで攻撃を躱して受け続ける俺達とは対照的に、時間が経過するごとに狂ったように喜悦している紫トロール。
ニーナの【アンチヒール】も効いている様子を見せていなかったし、生物とは思えないその無尽蔵な紫トロールの体力に……俺の脳裏に敗北がチラつき始めた。
誰かが助けにくる気配も見えないため、なんとか逃げる隙を見つけたいのだが……背後を見せたら、即座に切り捨てられるのが目に見えている。
これは……。もう一発逆転を狙いに行くしかなくなったのかもしれないな。
正攻法ではこの紫トロールには敵わないことが、この数十分の攻防で痛感させられた。
ならば、コルネロ山で一人襲われた時のアングリーウルフに取ったように、この不利な状況を打破するべくアイテムを駆使するしかない。
幸いにも、おばあさんからポーション生成を習ったことで、使えそうなアイテムはいくつか所持している。
ぶっつけ本番だし、【アンチヒール】が効かなかった紫トロール相手に有効かどうかは分からないが、試さなければあと数分もしない内に負けるのは自明の理。
「バーン、ライラ。ほんの少しだけ二人で持ち堪えてくれ!」
俺と同様に、当に限界を迎えているであろう二人にかなり無茶なお願いをしてから、俺は一度下がって腰のホルダーを漁って一つのポーションを取り出す。
これは、エンジェル草とリンリン草を大量に混ぜて作った劇薬ポーション。
俺は所持しているポーションの中で、一番効果の高そうなポーションを選び、ライラとバーンに入れ替わるように前に出てから、紫トロールに劇薬ポーションを投げつけたのだった。
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