第百二十七話 異変


 

「…………ルインの勝ちでいいのかな? って、そんなことより、ポルタ大丈夫っ!?」 


 勝利を宣言してから、すぐにポルタの下へと駆け寄って行ったライラ。

 俺もライラの後を追って、倒れたポルタの下へと急いで駆け寄る。


「ポルタ、大丈夫? 怪我とかした訳じゃないよね?」

「……はい。怪我ではなく、単純に体が限界を迎えたのと、魔力切れの症状で全身の力が入らないんです。……ルインさん、すいません。一番良いところでしたのに」

「いやいや、謝ることはないって。ニーナにも言ったけど、採取依頼はあと三日もあるんだし、また別の日にキッチリ決着をつけよう!」

「……そうですね! 次はしっかりと僕が勝ちますので」


 地面に寝そべっているポルタとそんな約束をし、初日の模擬戦大会は俺の優勝で幕を下ろした。

 決勝戦はなんとも言いづらい結果での優勝だったが、今日3ポイント取れたのは総合優勝に大きく近づけたと思う。


 ただ、どの試合も接戦だったのが引っかかる部分。

 今日戦ったライラ、ニーナ、ポルタ。

 全ての試合で俺が負けていてもおかしくなかったからな。


 今日、優勝できたからと言って、明日以降も気を引き締めて取り組まないと簡単に優勝を逃すことになってしまう。

 体調を万全にするためにも、今日は回復ポーションを使ってから寝ようか。



★   ★   ★



 コルネロ山での生活も三日が経過し、あっという間に下山し、グレゼスタへと帰る日を迎えた。

 ちなみに今回の模擬戦大会の結果は……初日の優勝の勢いのまま、俺の総合優勝で幕を閉じた。

 全ての試合が接戦ではあったものの、俺は三日間全てで優勝を果たし、一年前から始まったこの模擬戦大会で、初めての全勝優勝を果たした。

 

「はぁーあ……。ルインに護衛してもらおうかな……」

「……そうだな。俺達が束になっても勝てないんだもんな……」


 これから下山だと言うのに、露骨にテンションの低いライラとバーンがそんなことを言っている。

 全勝での総合優勝を決めた昨日の夜は、宴のように一緒になってはしゃいでくれていたのだが、一夜明けたらこんな風になってしまっていた。

 ニーナも昨日は饒舌に俺と会話をしてくれていたのに、今日はいつも以上に口数が少ない。


 俺とまともに会話してくれるのは、負け慣れしているポルタだけだ。

 ちなみにポルタは、初日の俺との決勝戦での激闘がたたって全身筋肉痛となり、二日目以降はボロボロな結果だったのだが、ケロリとしている。


「結局、筋肉痛は最終日まで治らなかったですね……。ルインさんから回復薬まで頂いたのになんかすいません」

「初日の時もそうだったけど、謝罪はよく分からないって。……でも、もう普通に動けはするみたいで良かったよ」

「所々でビキッとはなりますけど、おかげさまで剣をしっかりと振れるくらいには動けるようにはなりました」


 ポルタとそんな会話をしながら、二人で片付けを進めていく。

 テンションの低い三人を余所にポルタと一緒に片付けを終え、早速下山を提案する。

 いち早くグレゼスタに戻って、模擬戦大会の結果を早くキルティさんに報告したいからな。

 

 俺を鍛えてくれたお礼を改めてしたいし、キルティさんから褒めても貰いたい。

 最近はあまり褒めてくれることがなくなったので、褒められたい欲が上がっている。

 そんなこんなキルティさんのことを考えながら、テンションの低い三人と共に下山を開始した。


 どんなにテンションが低く、どんなにネガティブな発言をしていようが、【鉄の歯車】さん達はやはりプロの冒険者。

 護衛の仕事は完璧に果たしてくれ、なんの問題もなく下山し、グレゼスタへと戻ってこれた。

 ……俺としてはそろそろリベンジも果たしたいし、アングリーウルフが現れてくれてもいいんだけどね。

 

 グレゼスタの門前に付き、いつものように手続きをしようとしたのだが、なにやら門前は騒がしく、いつもと違った様子が伺える。

 人もいつも以上に溢れていて、なにが起こっているのか把握するため周囲を確認しようとしたその瞬間、グレゼスタの街から大量の兵士が馬に乗って出てきた。


 その兵士達の先頭にいるのは……キルティさん?

 いつもは着けていないヘルムも着けていたため分かりづらかったが、鎧は王国騎士団のもので俺の横を抜ける際に、キルティさんと思わしき人物になにやら目配せされたような気がした。


「珍しい。あれ王国騎士団だよね? なにかあったのかな……?」

「なにやら騒がしいし、何かあったのかもしれないな。とりあえず手続きを終わらせて、グレゼスタの中で聞き込みしよう」


 いつもはこのグレゼスタの門前で解散するのだが、俺も何が起こっているのか気になったため、【鉄の歯車】さん達と一緒にグレゼスタの街へと入る。

 そのままの足で冒険者ギルドへと向かっていく四人についていき、冒険者ギルドの中へと向かった。


 グレゼスタ内も何やら騒がしかったのだが、冒険者ギルド内はもっと騒がしい。

 常に騒がしい冒険者ギルドが、いつもの倍ほどの人が入り乱れていた。


「これは何かあったみたいだな……。初めて経験するレベルの騒々しさだから、もしかしたらかなり不味い事態が起こってるのかもしれない」

「……受付で聞いてみましょうか。Cランクの私達なら、すぐに情報開示してくれると思います」


 騒がしい冒険者ギルド内を見て、そう話したバーンとニーナについていき、俺も受付へと向かったのだった。


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