第百二八話 大量の魔物の噂


 五人でクエスト依頼受付へ着くや否や、受付嬢さんに話を伺う。

 

「Cランクパーティの【鉄の歯車】です。今、クエストから戻ってきたんですが、何かあったんですか? 今までに見たことがないくらい騒がしいですが」

「Cランクパーティの【鉄の歯車】様ですね。――あっ、はい。確認取れました。……実は今日の早朝に、大量の魔物が隣街であるセイコルの街を襲いまして、それが原因でかなり荒れているんです。グレゼスタからは既に王国騎士に王国兵士を援軍に出していまして、先ほど冒険者ギルドにも国から要請が来たため、援軍のために高額で依頼を出し、大量の冒険者パーティを送っているところなんです」


 大量の魔物が隣街を襲った……。

 セイコルの街には行ったことはないから曖昧なんだが、確かセイコルはナバの森の近くに位置していた街だったと思う。


 大量の魔物が襲ったとするならば、ナバの森くらいしか魔物の出所はないはずなんだけど……。

 俺はナバの森には魔物を倒しに何度も行っているから分かるが、街を襲えるほどの大量の魔物はいない。

 仮に異常事態が起こって大量の魔物が湧いたのだとしても、ナバの森にはブルータルコングを除いて、最低級の魔物しかいないはずだからな。

 そのことを加味すると、ここまで大騒ぎになっていることに俺は違和感しか覚えない。


「大量の魔物と言うのは魔物が、突然大量発生して襲ってきたって感じなんですか?」

「今日の未明の出来事なので、正確な情報はまだ入ってきていないのですが、噂によりますと……魔王軍が仕掛けた魔物達だと言う話が、最有力情報として流れています」

「ま、魔王軍……。これ、幹部クラスが指揮していたら、かなり不味くないですかね?」

「そうですね。魔王軍の幹部が指揮していたとしましたら確実に、セイコルの街を襲った後このグレゼスタにも攻めて来ると思いますので、私たち冒険者ギルドも冒険者パーティの派遣に最大限の協力をしているんです。……なのでクエスト終わりで非常に頼みづらいのですが、【鉄の歯車】さんも出来ればご参加頂けたら幸いです」


 そう言って、【鉄の歯車】さん達に深々と頭を下げた受付嬢さん。

 よく分からない単語が連発していたが、今の状況がかなり危険な状況だということは、今の話からなんとなく分かった。

 

 とりあえずナバの森やセイコル近辺で、魔物がたまたま大量発生した訳ではなく、作為的に大量の魔物を引き連れた‟魔王軍”なるものが、セイコルの街を襲撃しているってことだよな。

 魔物を使って街を襲う集団……か。

 そこの一文を聞くだけで危ない集団だというのが分かる。


「受付嬢さん、情報ありがとうございました。依頼を引き受けるかどうかはこちらで話し合って決めさせて頂きます」

「分かりました。いいお返事を頂けることを願っております」


 バーンが受付嬢さんにそう伝え、一度受付を離れた俺と【鉄の歯車】。

 【鉄の歯車】さん達なら、即決で依頼を引き受けるのかと思ったが、一度保留したことに俺は結構驚いている。

 魔王軍という言葉を聞き、バーンが表情をあからさまに歪めていたから、それが原因なのだとは思うけど。


「……さて、どうするか」

「僕は行くべきじゃないと思いますね。僕たちは依頼から帰ってきたばかりですし、万全の状態とは言い難いですから。それに相手が魔王軍ということなら……やはり無茶はするべきではないと思います」

「私もポルタの意見が正しいとは分かってはいるんだけど……。私は行きたい! 誰かが助けるから、私達はいいやって考えはしたくないから!」

「……そうですね。ライラさんと同じく、私も援軍に行きたいと思ってます。昔の私のように、困ってる人を少しでも助けたいってことで冒険者になったのですから」


 【鉄の歯車】内で、意見が真っ向で対立したようだ。

 女性組が引き受ける側で、男性組が断りたい側って感じかな。

 バーンは中立って立ち位置にいると思うけど、表情から察するに行きたくないのが滲み出ている。

 

「……ポルタは、今のライラとニーナの意見を聞いてどう思った?」

「特に変わりませんよ。冷静に考えて、行くべきではないと思っていますので。……ただ、みなさんが行くというのであれば、もちろんついていきますけど」

「………………そうか。…………ふぅー、仕方ない引き受けるか。仮に魔王軍だったとしたら、人も助けられて名も上げることができるチャンスとも言えるもんな」


 バーンが俯きながらそう呟いた。

 どうやら【鉄の歯車】さん達は、セイコルの街への援軍を決めたようだ。

 

「……ということだから、ルイン。俺達は今からセイコルの街へ行ってくるわ。ルインとはここで解散だな」

「ルイン、今回の採取依頼も楽しかったよ! また依頼してね!」

「ルインさん。次は途中で倒れないように更に鍛えてきますので、再戦しましょうね!」

「……初日の試合は、人生で一番楽しい試合でした。また駆け引きの痺れる試合をしましょうね」


 冒険者ギルド内で【鉄の歯車】の面々が、俺に対しての別れの言葉を告げてきた。

 俺は冒険者ではないから【鉄の歯車】さんと一緒にこの依頼は受けられないし、ここで帰るのが正解なのだが……。

 なんか嫌な胸騒ぎがするんだよな。


 グレゼスタに流れる異様な空気感に、先頭を走っていたキルティさんの表情。

 それから‟魔王軍”と言う言葉や、この【鉄の歯車】さん達の変な雰囲気。

 口からは別れの言葉が出かかっていたのだが、その言葉が俺の口から発せられることがなく、しばらく沈黙の時が流れる。

 

「……ん? ルイン、黙りこくってどうした? 体調でも悪く」

「――あのっ! 俺もセイコルの街までついて行ってもいいですか?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る