第百二十四話 心の読み合い
「バーンはポルタに負けて、放心状態みたいだから私が審判やるね! ……っと、その前にじゃんけんで組み合わせ決めよっか。いつも通り、ジャンケンに勝った人が決勝進出ね!」
ライラ主導の下、三人でジャンケンを行った結果、ポルタが勝って決勝進出を決めた。
ポルタとの約束を果たすには、俺がニーナを負かさないといけなくなったな。
正直【鉄の歯車】の面々の中で、俺が一番戦いづらいと思うのはニーナのため、少し自信がないのだが約束を果たすだけでなく、模擬戦大会優勝を決めるためにもここで負ける訳にはいかない。
「……ルインさん。よろしくお願いしますね」
「ニーナ、こちらこそよろしくね。全力で勝ちに行かせてもらうから」
ニーナと試合前の握手をしたところで、俺は木剣を握って定位置へと着く。
対するニーナも、落ち着き払った様子で木剣を構えたのが見えた。
そんな俺とニーナの間に立った笑顔のライラが、元気よく試合開始の合図を宣告する。
「それじゃ第二回戦始めるよっ! 試合開始っ!」
元気を爆発させるようなライラの試合開始の合図とは裏腹に、お互いに一歩も動かず様子を伺い合う。
ニーナは基本的に出方を待ってから、相手の攻撃に合わせるカウンタースタイル。
基本にも忠実で隙もないから、崩すのにはかなり手こずるんだよな。
お互いに一歩も動かない状態でしばらくの時が流れ、痺れを切らした俺から距離を詰めに動く。
本来はニーナから攻撃を仕掛けてくるのを待ちたかったのだが、動く気配が一切ないのを見て流石に諦めた。
俺の方から距離を詰めに動き、お互いの剣先が触れる位置まで近づいたのだが、それでもまだニーナは動かない。
この距離間で暴れ回っていたライラとは正反対の戦闘スタイルのため、そのギャップもあって非常にやりにくいな。
「二人共、試合が固まっちゃってるよ!」
剣先を触れ合わせた状態で、固まっている俺とニーナに痺れを切らしたのか、審判であるライラから野次が飛んできた。
カウンターを警戒したいからもう少し様子見をしたいのだけど、これは俺から動かないと試合が動きそうにない。
ニーナはこう見えて負けず嫌いで頑固のため、余程のことがないとニーナからは動かないだろうしな。
そう決めてから、俺は一つ浅く息を吐くと同時に攻撃を開始する。
受け身の相手の時に意識するのは、如何にタイミングを外すかどうか。
ニーナが苦手としているライラのような、予測のできない無茶苦茶な動きを俺も出来ればいいんだが、そこまでのセンスや運動能力は持ち合わせていない。
カウンターを楽に行わせないようにだけ気をつけ、鋭く小さな振りを意識しながら、緩急をつけての攻撃を行っていく。
俺が最遅の攻撃から最速の攻撃を行ったその時、緩急で対応が遅れニーナがバランスを崩したのが目の端で見えた。
隙を逃すまいと追撃に動いたその瞬間。
体勢を崩したはずのニーナから強烈な一撃が飛んできた。
俺は攻撃へと移りかけていた動きを急停止させ、木剣を持つ手首をギリギリで返したことでニーナの一撃をなんとか受け流せたが……今のは危なかった。怖すぎる。
一撃を防がれたニーナは悔しさ半分、楽しさ半分のような良い表情をしているが、この表情から察するにバランスを崩したように見えたのは、俺を釣ろうとした動きだったのが分かるな。
……これだから、ニーナとは戦いづらい。
今のわざとタイミングを外された動きを見せたりするのもそうだけど、駆け引きが非常に上手いため俺が攻撃しているのに、いつの間にか攻守が逆転しているなんてケースがかなり多いのだ。
あとは単純に修正能力も高いから、揺さぶりも効いているのか効いていないのかの判断も難しい。
ニーナとは戦闘と言うよりは心の読み合いが主になっている部分がある。
普通の戦いとは違って面白いんだけど、戦いづらいと思う部分はこういったところなんだよな。
「……あの完璧な一撃を防ぎますか。ルインさんは本当に強くなりましたね」
「たまたま防げただけだよ。……ニーナにはいつも不意を突かれている気がするし」
「……ふふっ、そうですね。小狡い戦術で申し訳ないです」
「いやいや、ズルいなんて思ってない。戦闘での駆け引きは面白いし、こうして剣で打ち合いしているときは言葉を交わすよりも……。何ていうか会話できてる気がするんだよね」
「……あっ、それは私も感じてました。心の内を読み合うからですかね? 私が言葉を交わすのが苦手というのもありますけど、ルインさんと試合するときはスラスラと会話しているみたいで心地が良いんです」
ギリギリの攻防を終えたあと、そうお互いに言葉を交わしてから笑い合う。
やっぱりニーナも俺と同じような感覚を覚えていたのか。
俺だけの一方的な感覚じゃなかったと分かって少し嬉しい。
変にニマニマとしてしまうが、一つ深呼吸をし気持ちを切り替える。
ニーナ相手に少しでも気を緩ませたら、一気に負けまで追い込まれるからな。
もう一度気を引き締め直してから俺は、ニーナと試合という名の心の読み合いに興じるのだった。
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