第百二十三話 泥臭い初勝利
先ほどの強烈な斬り下ろしを警戒しているのか、最初と比べて動きが随分と慎重になっているライラ。
正直な話、直感と本能で動くのがライラの強みなのであって、動きを止めたのならそこまで怖くないんだよな。
こういった流れが止まった状態での戦闘は、俺はキルティさん相手に嫌と言うほど行ってきた。
キルティさんよりもライラの方が強いというのであれば、話は別なのだが……それはあり得ないと断言できる。
お互いにゆっくりと距離を詰めていき、剣先が触れようとしたその瞬間。
先に動いたライラが攻撃を仕掛けてきた。
ライラの近距離での戦い方は、フェイントでとにかく相手を翻弄し、タイミングを外しにかかってくる。
少しでもフェイントにかかってしまうと、単純な運動能力ではライラのが高いため、攻撃への対応が追いつかなくなってしまう。
そのため重要なのは、ライラのフェイントに一つも乗らないこと。
ライラは、何度も剣を振りかぶっては攻撃しようとする姿を見せてくるが、俺は中段で構えた状態でとにかく我慢。
俺がフェイントに乗ってこないことを逆手に取り、ライラが本気で攻撃したとしても中段の構えからなら、反応が一歩遅れてもガードは十分に間に合う。
とにかく揺さぶられず、自分のペースへと持っていくことがライラ攻略の鍵だ。
ライラは左右上下に体を動かせながらフェイントをかけまくっているため、傍から見たら攻めているのはライラのように見えるが、実際には俺が一歩、そしてまた一歩とライラを追い詰めている。
俺の前で右往左往しているライラの笑顔が、次第に苦悶の表情へと変わっていった。
俺をなんとか揺さぶろうと派手に動き回っているため、息が上がって頬も上気し始めてきている。
誘いにノッてくる相手には滅法強いライラだが、今の俺のように出方を伺われると自分もリズムに乗れなくなり、極端にテンポアップしたりテンポダウンし出すのだ。
そして、今回は極端にテンポアップしている状態。
俺のタイミングを外そうと意識しすぎたが故に、より速く動こうとして、無駄な動きが多くなり体力調整をミスしている。
更には動きに緩急が一切なくなっており、常に速い動きのため俺からしたら対応が楽にできる。
……俺も焦りでこの状態に陥る度に、何度もキルティさんに叱られたな。
速い動きが有効なのは間違いではないが、相手には絶対に慣れさせてはいけない。
相手に対応させないように緩急をつけて揺さぶり、ここぞと言うところでトップスピードを出す。
俺が特訓の際に常々言われてきた、キルティさんからの至言。
過去の俺と同じ状況に陥っているライラを反面教師にすると同時に、俺は一気に勝負を仕掛けに動く。
素早い動きで揺さぶりをかけてきているライラの動きを冷静に見切り、俺は鋭い突きを放つ。
この動きを見切っての突きがライラの左肩に完璧に決まり、俺の強烈な突きが当たったと同時にライラがバランスを崩した。
そこに畳み掛けるように袈裟斬りを仕掛け、突きから流れるように振った俺の木剣が、体勢を崩したライラの右肩に完璧に決まった。
「……有効打3発。勝負あり。ルインさんの勝利です」
淡々と勝利を告げてきたニーナの言葉を聞いたところで、ようやく肩の力が抜ける。
まずはライラ相手に完封での一勝。
これは今までにないほど、完璧な試合運びが出来た。
「…………うぅ、悔しい。ぐうの音も出ないほどの完敗だぁ……」
「試合運びが上手く行き過ぎた感はあったけど、ライラに勝てて良かった」
「ルイン、本当に強くなったね。……去年までのルインなら初撃で勝負が決まってただろうし、ついこの間までフェイントに釣られまくってたのになぁ」
「そこは剣の師匠に指導してもらいまくったからさ」
「本当にルインの師匠さんが気になる。確実にAランク以上の冒険者だと思うんだけど……。まあ、とりあえずいい試合だったね! 負けたけど楽しかったよ!」
「俺も楽しかった! ライラありがとう」
膝から倒れ込んでいるライラと握手を行い、一回戦は俺の勝利で幕を閉じた。
そして、もう一方の一回戦であるバーンとポルタの一戦は……。
なんと、意外も意外でポルタの勝利で終わった。
負けたバーンも腰を地面について、かなり驚いている様子。
試合内容はひたすらにバーンの攻撃をガードし、安全に攻撃ができる瞬間にポルタが適当に剣を振るといった内容で、はっきりいって面白味は一切なかったのだが……。
あのポルタがバーンに勝ったという事実だけで、俺は涙が出そうな程感動している。
この五人の中で俺とポルタだけが弱いということもあって、互いに肩身が狭い中で試合をしてきたし、そんな中でポルタの頑張りを俺が一番見てきたと感じていた。
ただ、勝負の世界と言うのは無情なもので、いくら頑張ろうが絶対に強くなる訳ではないし、強くならなければ勝負には勝つことができない。
俺はキルティさんと言う素晴らしい指導者のお陰で順調に強くなり、割と早い段階で三人にも勝利をあげられるようになったが、ポルタは今日までライラ、ニーナ、バーンの三人どころか、俺からすらも一度も勝利をあげたことはなかった。
それがようやく今日……泥臭い勝利ではあったが、初勝利をあげたのだ。
俺は衝動的にポルタのところに向かいかけたのだが、こちらを向いたポルタの目は喜びではなく、真剣な眼差しそのもので俺を捉えていた。
その瞳から、ポルタは一勝することを目標に努力していた訳ではないことを、俺は瞬時に悟った。
「ポルタ、初勝利おめでとう」
「ルインさん、ありがとうございます。ルインさんが初戦を勝っていたので、僕も今日勝てて良かったです。いつもの底辺の戦いを決勝でやりましょうね」
「そうだね。決勝で……底辺の戦いをしよう」
ポルタと拳を合わせて、俺は決勝戦で戦う約束をする。
まあ、組み合わせはじゃんけん次第だから、このまま二回戦で戦うことになる可能性もあるんだけど……なんとなくポルタとは決勝で戦う予感めいたものが俺にはあった。
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