第百二十二話 優勝宣言


「いやぁ、先月は4位だったけど私達3人から1勝ずつ取ってたからね! 今月の模擬戦大会は、もしかしたら3位以上もあるかもしれないよ」

「確かに、ルインの成長度合いは狂っているからな。下手すれば今回で初優勝達成も十分ありえると思う」

「今回は本気で優勝を狙いにはいくつもりだよ。三人には負けてばかりだけど、ようやく追いついてきたなって自分でも感じてるからさ」


 廃ダンジョンで魔物の群れを殲滅してから、約半年の歳月が流れた。

 キルティさんからの毎日の指導。

 更にあの廃ダンジョンの一件から、魔物と戦闘を行う比重も増やしたこともあり、キルティさんから指導を受ける前の一年前の自分と比べて、別人のような成長を遂げることが出来たと思う。


 それでも、キルティさんにはまだ一度も勝てていないどころか、勝てるビジョンすら見えていないけど、【鉄の歯車】の面々には勝利する割合も増え、全ての試合で接戦を演じることが出来るようにはなった。

 そして今回の採取依頼での模擬戦大会では、今みんなに宣言したように本気で優勝を狙いに行くつもりだ。


「あんなにおどおどしていたルインが優勝宣言なんてね……。この一年間、一緒にいたからこそ本当に成長を感じるよ!」

「俺達もFランクからCランクまで上げているし、順調に成長しているんだけどな。この一年の成長度合いでは明確にルインに負けたと感じるわ」

「……ですね。ただ成長度合いでは負けたとしても、実力ではまだ負けていないと言うことを今回の模擬戦大会でも、分からせてあげます」


 俺の優勝宣言に感化されたライラ、バーン、ニーナのそれぞれの目に火が灯ったように見えた。

 ……キルティさんはもちろんだけど、【鉄の歯車】さん達がいなかったら、俺はここまで成長することは出来なかった。


 【鉄の歯車】さん達がランクの高い依頼を成功させた話や、パーティランクが上がったと言う話を聞く度に、負けてたまるかって思いが強くなって、特訓にも身が入ったからな。

 一年前にライバルと宣言された通り、この一年間はお互いに成長を作用し合えたんじゃないかなと、一方的かもしれないけど俺はそう思っている。

 

「それじゃ、早速だけど組み合わせを決めようか。いくよっ!グーチョキパーで別れましょう」


 ライラの掛け声と共に俺はパーを出し……同じくパーだったのはライラ。

 俺と同じだったことを確認したライラは、嬉しそうに両手を握りしめてガッツポーズをした。


「やった!初戦からルインだ! ……ふっふっふ、私が冒険者の実力ってものをまた分からせちゃうからね!」

「いいや。今回こそは俺がしっかりと勝たせてもらうよ」


 お互いにニヤリと笑い、拳を合わせる。

 初戦からライラは大変だが、優勝を狙うなら初日から一回戦で負けられない。

 ライラを勢いに乗せないためにも、全力で叩きに行こう。


「もう一組は俺とポルタで、ニーナがシード枠だな。さて、どっちから試合する?」

「はいはいっ! 私達からやりたい! ルインも先でいいよね?」

「俺はどっちでも大丈夫だよ!」

「んじゃ、ライラ対ルインからやるか。ニーナ、審判を頼む」


 こうして初戦は俺達に決まった。

 俺は鞄から木剣を取り出してから、握りを確かめる。

 握りを確かめている真向かいで、しゃかしゃかと剣を振っているライラは、太陽のような笑みを見せていた。


 そんなライラを見ながら、頭で事前情報の確認を行う。

 ライラは野性的で魔物に近い動きを取ってくる。


 今回の試合で要求される能力は、相手の攻撃を読み取るものではなく、瞬発的な対応能力。

 奇抜な動きにも焦らず柔軟に対応していけば、自ずと勝ちは見えてくる。

 魔物を相手取ったときに、キルティさんから教えて貰った言葉を頭の中で復唱しながら、ゆっくりと剣を構えた。


「……それでは始めます。一回戦、試合開始」


 ニーナの掛け声が言い終わると同時に、上体を低くさせて笑顔のまま突っ込んできたライラ。

 いきなり動いてきたことで試合のテンポはかなり速くなるが、焦る必要は一切ない。

 

 下から潜り込むように攻めてくるライラに、俺は冷静に上段からの斬り下ろしで対応する。

 斬り下ろしを木剣で捌こうという動きを見せたライラだったが、俺の斬り下ろしの威力に見誤ったのか、威力を殺しきれずバランスを崩した。


 突っ込んできた中でバランスを崩したため、勢い余って転倒しかけたライラの隙を見逃さず、俺はしっかりと逆袈裟で一撃を入れる。

 先手を打ち、意表を衝くつもりだったのだろうが、俺が上手く逆手に取ることが出来た。


 ただ、流石はライラ。

 俺は肩に逆袈裟を入れてから、更に追撃をかけようとしたのだが、持ち前の運動神経で無理やりバランスを持ち直してから、飛ぶように俺から距離を取った。


「……初っ端に一発決める予定が、逆に一発貰っちゃった」

「ライラも流石の逃げ足だね。二発目も打ち込めると思ったんだけど」


 距離を取ったことで、お互いに一言ずつ言葉を交わしてから笑い合う。

 このヒリヒリとする感じが本当に面白い。

 自分が成長するごとに戦闘の面白さが分かり、どんどんとのめり込んでいっているのが分かる。

 

 アーメッドさんやディオンさん、スマッシュさんとも模擬戦がしたいな。

 唐突に【青の同盟】の面々の顔が頭に浮かぶが、頭を振って切り替える。

 今は戦闘以外のことを考えたら駄目だ。


 先ほどとは打って変わって、にじり寄るようにゆっくりと距離を詰めてくるライラに俺は意識を向けた。

 

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