第百二十一話 疲労の溜まった身体
それから、俺の一撃を見て固まったゴブリン4匹をコボルト同様に屠る。
その後、足を斬り払って動きを止めた2匹のゴブリンも処理したところで、ようやく廃ダンジョン内に平静が訪れた。
大きく息を吐き、長かった戦闘が終わったことを実感する。
相手は全て最下級に位置する魔物だけだったのだが、連戦と言う条件が付くだけでこんなに大変になるとは思ってもいなかった。
無事に乗り切れた安心感と全身が痙攣を起こしている程の疲労に耐え切れず、俺はぺったりと腰を地面に下ろすと、後ろで様子を伺っていたキルティさんが俺の下まで歩いてきた。
「ルイン、お疲れ様。後半は色々と判断ミスや動きに無駄が生まれていたが、しっかりと全ての魔物を倒しきれたな。……最後の一戦では、なにかを掴んだ様だったし、かなりいい経験だったんじゃないか?」
「……ええ、そうですね。連戦で脳が回らなくなって、所々ミスが出てしまいました。それと、疲労で動きに無駄が多くなってしまったのも駄目でしたね。……ただ、キルティさんの言う通り、最後の一戦で剣の振り方のコツのようなものを掴めた気がします」
「自分でも反省点が分かっているなら、何の心配もなさそうだな。私も守られる側の気持ちが少し分かって楽しかったよ」
そう笑顔で言うキルティさんに、俺は苦笑いで反応する。
俺はギリギリで余裕が一切なかったが、キルティさんは本当に楽しかったのだろう。
声が心無しか嬉々としているように聞こえる。
「それじゃ少し名残惜しいが、グレゼスタへと戻ろうか。……ルイン、歩けるか?」
「ええ。歩けま——っと」
立ち上がろうとした瞬間、足に上手く力が入らず転倒しかけたところを、キルティさんに支えられた。
……自分が思っている以上に疲労が体にきているようだ。
「全身が疲労で震えているな。これは歩けないだろ。ナバの森の出口までは、私がおぶってやろう。助けてもらったお礼だ」
「い、いえ! 本当に大丈夫ですので!」
腰を屈めて背中を見せてきたキルティさんに断りを入れ、俺はもう一度自力で歩こうとしたのだが、動揺もあって再びバランスを崩してしまった。
「ほら、言わんこっちゃない。いいから背中に乗れ。そんなにふらふらじゃ歩けたとしても時間がかかる。時間は有限だからな」
そう言われたら、何も返す言葉がない。
俺が恥ずかしいって言う理由だけで断って、キルティさんに迷惑かけるのが一番嫌だからな。
「…………それじゃ、すいませんがおぶって貰ってもいいでしょうか?」
「ああ。私から提案しているのだから、もちろんだよ。ほら、早く背中に乗るといい」
俺はこうして再び、女性におんぶをしてもらうことになってしまった。
あの時は本当に何も考えられないほどに憔悴していたから、あまり恥ずかしさとかもなかったのだが、今は体は疲弊しきっているが意識はしっかりとしているため、かなり恥ずかしさがある。
一度、大きく深呼吸をし気持ちを落ち着かせたところで、俺はキルティさんの背中へと乗った。
「んしょっ、と。……やはりルインは随分と軽いな。ちゃんとご飯は食べているのか?」
「あ、はいっ! 毎日、ご飯食べてますっ!」
「おいっ、耳元で大きな声を出すな。この距離なんだから普通の声量でも大きいぐらいなんだぞ」
「あっ……気づきませんでしたっ! すいませんっ!」
「……だから、声を抑えろっての」
「あっ……す、すいません」
今日キルティさんは鎧を着ておらず、私服のせいもあって体温がダイレクトで伝わってくる。
アーメッドさんはふんわり良い香りがするな……程度だったのだが、キルティさんからはしっかりとした良い香りが香ってきている。
女性におぶってもらうってだけで恥ずかしいのに、更に上乗せで温もりにいい匂いが俺の思考を狂わせ、半分パニック状態になってしまっている。
おぶわれながらナバの森を進んでいるときも、キルティさんが色々と話を振ってくれていたのだが、話が全く頭に入ってこなく、俺は全て空返事で返してしまった。
そんな状態のまま、俺はキルティさんの背中であわあわし続け、ようやくナバの森を抜けることが出来た。
ちなみに道中で現れた魔物は、キルティさんが俺をおんぶしながら戦い、全ての魔物をキルティさん一人で退けた。
戦闘中にキルティさんがどんな視点で戦っているのかを、おぶわれた状態だったから同じ視線で見ることができ、俺にとっては非常にタメになる経験だった。
「よし。ナバの森を抜けれたな。……悪いがここからは歩いてもらえるか? 言い訳はつけれるだろうが、なるべく王国騎士団の連中に見られたくないからな」
「もちろんです! ここまでおぶってもらいありがとうございました! 良い経験をさせてもらいました!」
「良い経験? 私におぶわれたのが良い経験……だったのか? ……ルイン、まさか私の背で不純なことを考えていたんじゃないだろうな?」
「違いますよ!! キルティさん目線で戦闘の景色を見れたことを言ったんです!」
「ふふっ、冗談だよ。……それにしても、おぶわれながらそんなことを考えていたのか。やはりルインは人とは違う目線を持っているみたいだな。吸収する力があると言うか……。ドンドンと力が伸びていく理由が分かるよ」
キルティさんは、そう笑顔で俺を褒めてくれた。
褒められたのは嬉しいけど、いまいちピンとは来ていない。
吸収する力と言われても、俺からしたらキルティさんの教え方が上手いとしか思えていないからな。
それから、ナバの森の入口から公道を歩き、グレゼスタの街へと戻ってきた俺は、街の入口でキルティさんにお礼を告げてから別れ、そのままボロ宿へと戻った。
ポーション生成に顔を出せなかったことをおばあさんに伝えるため、『エルフの涙』に寄ろうとも考えていたのだが、予想以上に疲労が溜まっていたためか、お店に寄る気力が残っていなかった。
無断で休んでしまったことは明日謝罪することにし、今日は少しでも体力を回復させるために、薬草入りスライム瓶を使ってから眠りにつくとしようか。
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