第百十八話 ナバの森の目的地


 それで俺は一体なにをすればいいのだろうか。

 魔物と戦うと言っても、まだ森の入り口付近と言うこともあると思うが、単純にコルネロ山よりも魔物の数が多くない。

 【鉄の歯車】さん達が言っていた通り、ブルータルコングと遭遇することを考えると危険度は高いが、通常の魔物の出現頻度や強さはコルネロ山より危険度が低いと言っていた通りの感じだ。


「それで俺はどうしたらいいのでしょうか?」

「ここから更に森を進んで行き、とある場所に向かう予定なんだ。とりあえずはその道中の魔物はルインが狩って、私を守ってくれ」

「……とある場所ですか。とりあえずその道中までの魔物を倒せばいいんですね。分かりました!」


 こうしてキルティさんと二人、ナバの森の中へと進んで行く

 森の中は薄暗く、とても朝とは思えない視界の悪さで、更には木々が風によって擦れ合う音のせいで、音もかなり聞こえづらい。


 目も耳も悪い状態だからこそ、俺はいつ襲われてもいいように体をガッチガチにさせながら鋼の剣を構えて歩いているのだが、キルティさんはこんな状況でも軽い足取りで、楽しんでいるかのように先へと進んで行っている。

 ……キルティさんくらいの強さがあれば、この辺りの魔物では死の危険すら感じないのだろうな。


「おっ、ルイン。早速魔物が来たようだぞ」


 キルティさんが俺にそう告げてきたが、俺はまだ魔物の存在に気づけていない。

 立ち止まって周りをキョロキョロとしていると、キルティさんの言葉からしばらくして、木の陰からコボルトが飛び出てきた。

 

 おっ、良かった。コボルトか。

 合計4匹のコボルトの群れだが、不意さえ衝かれていなければ、コボルトぐらいなら楽々処理できる。

 

 一番最初に突っ込んできたコボルトを冷静に袈裟斬りで対応し、続いて俺に突っ込んできた二匹目のコボルトも逆袈裟からの薙ぎ払いで斬り裂き、勢いよく襲ってきた三匹目のコボルトをそれぞれ一撃で仕留めた。

 残った最後の一匹は瞬殺された仲間のコボルトを見て、即座にUターンし逃げ帰ろうとした背後を追い、上段からの斬り下ろしで屠る。

 

「…………ふぅー」


 最弱と有名なコボルトとは言え、こうもあっさりと倒せたことになんと言うか……成長出来ていると言う実感が湧く。

 キルティさんに剣術を習う前からもコボルトの群れは倒せてはいたが、複数匹相手を倒すのにかなりの時間を要していた。


 それが今では動きを見つつ、流れを読んで一振りすれば勝負を決めることが出来ている。

 普段、キルティさん相手に戦っているため、動きが遅い上に無駄があるコボルトには負けるビジョンが一切見えなかったな。


「ふふっ。……いい動きだったぞ、ルイン。しっかりと教えた動きが体に染みついているようだな」

「はい! 自分でもしっかりと意のままに体を動かせたと思います」

「この調子でドンドン行こうか。今の戦闘を見る限り、念のために持ってきたこの細剣はいらなかったかもな」


 褒められたことに気分が高揚する。

 ……それにしても、どうやってキルティさんはコボルトの存在を察知出来たのだろうか。

 先ほども感じた通り、森の中は視界も悪い上に、木々の擦れる音で音も聞こえづらいからな。

 そこら辺のことも後で聞いてみよう。



 それから例の目的地に着くまでに、コボルトやゴブリン、それからキラービーやパラライズフライ。

 魔物の強さはそれ程でもないということもあり、一切の危なげもなく、俺一人でしっかりと対処することが出来た。

 

 この魔物の連戦で、自分が成長出来ていると言うことがしっかりと認識できたのは大きい。

 ……と言うか、模擬戦を行っている【鉄の歯車】さん達や、毎朝戦闘を行っているキルティさんが強すぎて弱く感じるって言うのもある気がする。

 キルティさんに至っては、次に攻撃する場所と振り方を声で教えてくれているのに、対処できるギリギリの速度で攻撃をしてくるからな。


「よし。ようやく目的地についたぞ。ルイン、ここまでの護衛ありがとう」

「いえ。キルティさんが事前に魔物が来ることを教えてくださったので、難なく対処することが出来ました。……それで、ここは一体なんなんでしょうか?」


 目的地についたと言われたところに見えるのは、小さな洞窟のような場所。

 ここが何の洞窟なのか、俺には見当もつかない。


「ここは所謂、廃ダンジョンと呼ばれるところだよ」

「廃ダンジョンですか……?」


 ダンジョン。

 一度だけおばあさんから聞いたことのある名前だ。

 確か、ダンジョンにしか生息しない特別な植物があって、その植物から生成することができるのが最上級品質のポーションって教えて貰ったのを覚えている。


「そうだ。ルインはダンジョンがどういったものかは知っているか?」

「いえ。名前だけは聞いたことがありますが、どういったものかは知らないです」

「そうか。……軽く説明すると、ダンジョンと言うのは最奥地に‟魔力塊”と言うものがある洞窟で、その魔力塊から大量に魔物が生み出され続けるんだ」

「魔物が生み出され続ける……ですか。なんか危険な臭いがしますね」

「実際にダンジョンは危険な場所だよ。まあ、魔物だけでなく魔力塊の付近には希少な鉱石や植物。更には宝箱なんて言うのも生成されるから、一概に害しかないとは言えないんだけどね」

「宝箱ですか? 宝箱が生成されるんですか?」

「ああ、そうだ。そこら辺はどういった理屈なのか私にも分からないのだが、ダンジョンからは宝箱が見つかるんだよ。……そして話が戻るが、ここは魔力塊が朽ちてしまったダンジョン。通称廃ダンジョンと呼ばれている場所なんだ」


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