第百十九話 魔物の巣


キルティさんの説明でダンジョンについてはよく分かったけど、説明を聞く限り、廃ダンジョンはただの洞窟ってことだよな?

 ダンジョンにある魔力塊が魔物や特殊な植物や鉱物、そして宝箱を生み出すのであって、その魔力塊が朽ちてしまった廃ダンジョンには、俺は何もないように感じてしまっている。


「それでなんですが、廃ダンジョンには何かあるのでしょうか。わざわざやってきたと言うことは、例えばダンジョンだったときに生成された宝箱が残っていたり……とかするんですかね?」

「いいや。基本的にダンジョンが廃ダンジョンと化すのは、そのダンジョンが攻略された時なんだ。だから基本的にはダンジョンを攻略した冒険者やらが、全て回収してしまうから、宝箱が残っていることは本当に稀だな」


 ……だったら、尚の事分からないな。

 廃ダンジョンに訪れるメリットが、何一つとして思いつかない。


「キルティさん。それなら何故、廃ダンジョンに来たのでしょうか。わざわざ来た理由が思いつかないのですが」

「そうだな。……強いて言うなら、来る理由がないからだな」


 その言葉に思わず首を傾げてしまう。

 なぞかけかとも捉えてしまうようなキルティさんの言葉に、俺は頭を悩ますがさっぱり分からない。


「誰しもがルインと同じように、来る理由がないと考え廃ダンジョンには来なくなるんだよ。すると、その廃ダンジョンをねぐらにする魔物が増えるんだ」

「……なるほど。つまり、この廃ダンジョンをねぐらにしている大量の魔物が目的で来たってことなんですね」

「そういうことだ。このまま森を歩き回って、遭遇した魔物と戦闘を行うでもいいとは思うが、それだとかなり効率が悪いからな」

 

 俺の戦闘経験を積ませるために来たってことなのか。

 ようやく廃ダンジョンに訪れた理由が理解出来た。


「それじゃ早速、中へと入るか。中の魔物は基本的に先ほど遭遇した魔物で、コボルトやゴブリン、ホーンラビットだと思うが、ダンジョン内は狭い上にこの森以上に暗いから気をつけるんだぞ」

「はい、分かりました。……でも、魔物のねぐらに入り込むってなんか気が引けますね」

「ん? ……なるほどなぁ。ふふっ、ルインは人と違う感性を持っているようだな。魔物は人間に問答無用で襲ってくるから、私はそんなことを考えたこともなかったよ」


 変わっているのかな……?

 確かに魔物は問答無用で襲い掛かってくるから、こっちも問答無用で襲い掛かってもいいとは思うけどさ。


「でも、ここで巣の処理をしておかないと、いずれこの巣からナバの森へ。そしてナバの森から公道へと出て、人間を襲うのは確実だからな。こちらから襲うのは卑怯と感じるのかもしれないが、やらなければやられてしまうのもまた事実だ」

「……確かにそうですね。魔物達には少し申し訳ないですが、自分の経験を積む相手になってもらいます」


 俺のその言葉に、笑顔で頷いたキルティさんを見てから、俺はキルティさんの前に立って廃ダンジョンの中へと入って行く。

 廃ダンジョンの中は先ほどまでの、薄暗い森とは比べ物にならないくらいに真っ暗で、一寸先すらも見えないほど暗い。

 その暗さ故に、俺が一歩すらも踏み出せずにいると、背後からキルティさんがなにやら魔法を使用した。


「【ライト】。これでどうだ? 少しは視界が良くなっただろう」

「えっ? キルティさんって、魔法も使うことが出来るんですか!?」

「簡単な魔法だけだがな。それよりも前を見て集中しろ。この明かりに魔物が集まってくるぞ」


 そう忠告してきたキルティさんの言葉通り、ダンジョンの至るところからこちらに向かってくる足音のようなものが無数に聞こえてきた。

 その足音が段々と、そして数も増えて聞こえてくる。


 ……これ、割と本気でかなりまずいのではないだろうか。

 聞こえてくる足音の数が多すぎて正確な魔物の数が分からないくらいに、大量の足音がこっちへと向かってきているのが分かる。

 流石の数の多さに尻込みし、まだ出口もすぐ近くと言うこともあって、俺は引き返そうと後ろを振り返ったのだが、笑顔のキルティさんがゆっくりと首を横に振った。


 いつもは綺麗だと思うキルティさんの笑顔も、今回だけは恐怖でしかない。

 ……ただこの表情を見るに、絶対に逃がしてはもらえなさそうだし、俺が覚悟を決めるしかない。

 

 鋼の剣を抜き、まだ目では見えない魔物に備えて俺は剣を構える。

 ゆっくりとこちらへと近づいてくる無数の音を警戒しながら、その場に留まってまっていると、キルティさんの【ライト】に当てられた、無数のゴブリンやコボルト。

 それからホーンラビットの姿を目で捉えることが出来た。

 今見えている数だけで、軽く30匹は見えている。


 更に奥にも気配は感じるし、初っ端からピンチでしかない。

 ただ、入口が小さな洞窟故に狭い通路のため、立ち回りさえしっかりと考えれば、十分になんとかなるはず。

 仮に背後に回られたとしても、キルティさんがいるしな。

 

「ルイン。この廃ダンジョン内での戦闘では、私は一切戦わないことにしたから」


 俺の心の声が聞こえているのではと言うタイミングで、そう告げてきたキルティさん。


「……え? ちょっと意味が分からないです! 後ろに回られたら——」

「私は一度、守られる側の気持ちを味わってみたかったんだ。ほらっ、前の魔物に集中しろ。一気に来るぞ」


 唐突なキルティさんの言葉に俺は動揺を隠せないが、こうなったらキルティさんの下に魔物を行かせないように立ち回るしかない。

 難易度が格段に跳ね上がったが、キルティさんは俺になら出来ると思って言ってきたに違いない。

 一度大きく深呼吸をし、気持ちを軽く落ち着かせたところで、正面からやってくる大量の魔物達に全集中したのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る