第百十六話 ポーション生成
模擬戦大会を行った採取の日から一週間が経ち……俺は今、【エルフの涙】にいる。
「ルイン、少し混ぜるのが速くなってるよ。もっとゆっくりとかき混ぜるんだ」
「はい。……こうですかね?」
「うんうん。そんな速度で大丈夫だよ」
【エルフの涙】でなにをしているかと言うと、前々から教わりたいと思っていたポーションの生成方法を習っている。
ついこの間までは、朝にキルティさんと特訓。
それから夜までは筋トレと素振りを行い、夜はランニングと言う一日中体を動かす生活を行っていたのだが……先日、キルティさんからオーバートレーニングと注意を受けてしまった。
そのため、身体を使う特訓は朝と夜だけにすることに決め、空いたお昼の時間に【エルフの涙】でポーション生成の教えを乞うことに決めたのだ。
そのことをおばあさんに伝えてお願いしてみたところ、二つ返事で了承してくれた。
ポーションの材料はこちら持ちで、【エルフの涙】の雑用を手伝うと言う約束で、今はお昼の間だけポーション生成を習っている。
「そこでキラービーの蜜を入れてから、すぐに素早くかき混ぜるんだ。そこに抽出した薬草を入れて……」
「えーっと、こ、こうですか!?」
「……あちゃあ、タイミングが遅かったねぇ。これも失敗だ」
あー、また失敗してしまった。
昨日から習い初めて、もう20回以上回復ポーションの生成を行っているのだが、未だに一度も成功していない。
おばあさんが一番簡単だと言っていた通常の回復ポーションですら、かなり繊細な作業が必要で、おばあさんがつきっきりでタイミング等の指導をしてくれているんだけど、成功する気配が一切見えない。
「いやぁ……こんなにも難しいんですね。料理のように隣でレシピとかを教えて貰えれば作れると思っていたんですが」
「まあ、ワタシのポーションの製法が少し特殊だからね。ただの回復ポーションだったら、簡単に作れるとは思うよ」
「やっぱり、おばあさんのポーションが特別に難しいんですね」
あの美味しさにあの効能。
なにか秘密はあるのではと思っていたけど、生成するのがこんなにも難しいとは思わなかったな。
「そうさねぇ。普通のポーションも教えられるから、ルインがそっちのがいいと言うならそっちを教えるよ? 普通のポーションの方が簡単に覚えられるからね」
「いえ! おばあさん特製のポーションを教わりたいので! 不器用なので教えるのが大変だと思いますが、教えて頂けたら幸いです」
「ルインがそう言うならワタシは一向に構わないけどね。それじゃ、もう一回やってみようか」
その後、おばあさんの下で更に三回ポーションの生成を行ったのだが、結局全て失敗に終わってしまった。
一本でも成功さえしてくれれば、成功したポーションの買取は行ってくれると言ってくれたから、材料費の補填にもなるんだけどな。
やはりそう簡単にはポーション生成なんか出来ないか。
ポーション生成にもある程度の費用と時間がかかることを頭に入れながら、俺は【エルフの涙】を後にし、ボロ宿へと戻ったのだった。
ボロ宿前に着くと、腕を組んで仁王立ちしているキルティさんの姿が見える。
そう。この一週間でポーション生成の他に、もう一つ変わったことがあり、なんと夜もキルティさんが指導をしてくれるようになったのだ。
理由はよく分からないのだが、植物採取から帰ってきた翌日から、夜もキルティさんが顔を見せるようになり、そのままの流れで夜からの指導も始まった。
俺としてはかなりありがたいことなのだけど、キルティさんが大丈夫なのかが単純に心配だ。
早朝から指導し、朝から夜まで仕事。
仕事を終えてから更にまた俺への指導、また翌日の早朝から俺の指導をしなくてはいけない。
俺以上にハードなスケジュールをこなしているキルティさんには、本当に頭が上がらないな。
何故ここまで俺に尽くしてくれるのかは分からないが、おばあさんに並び、いつか絶対に恩を返さないといけない人が出来てしまった。
「ルイン、戻って来たか。――よし、ちゃんとトレーニングは控えているみたいだな。偉いぞ」
「逆効果とまで言われたら流石に出来ませんからね。……キルティさんこそ、身体は大丈夫ですか? 俺への指導のせいで、かなりハードな生活をしていると思うので」
「私は大丈夫だよ。指導と言ってもルインが剣を振っているのを見ているだけだしな。……それに単純にルインが成長している姿を毎日見るのが楽しいんだよ」
「そうならいいんですけど……。毎日、朝早くから夜遅くまで本当にありがとうございます。いつか絶対にこの恩は返させて頂きますので!」
「そう言うことならば、強くなって私に勝てるように頑張ってくれ。……私の願いはルインに負けること。その一つだけだからな」
「はいっ! キルティさんにも勝てるように強くなります!」
笑顔でそう告げてきたキルティさんに元気よく返事をし、キルティさんの下、夜の特訓が始まった。
期待してくれているキルティさんに答えるためにも、俺は一振り一振り丁寧に剣を振っていくのだった。
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