第百十五話 模擬戦の最終結果
決勝戦で行われたライラ対ニーナの試合は、バーン対ニーナ以上の接戦になることを予想していたのだが、俺の予想に反してライラの圧勝で試合は終わった。
ニーナがバーンとの試合でかなり疲弊していたのもあるのだろうが、単純にライラを苦手としているように試合運びを見て俺はそう見えた。
ライラの動きは言うならば、アーメッドさん程ではないが直感で動く野性的な動き。
戦って分かったけど、型にはめた動きではなく、有効だと思ったら咄嗟に考えて行動を選択するといった戦闘スタイルのため、ニーナはかなりやりづらそうにしていた。
単純な剣術で言えばニーナの方が上なのだろうが、相性的に言うとライラに軍配が上がると言ったところだろうか。
「初日はライラさんの優勝ですね。三人共流石の動きでした」
「わーいっ! 身内の大会だけど、やっぱ勝つのは嬉しいね!」
「……そうですね。予想以上に悔しくて驚いています」
「俺も悔しくて寝れそうにないな。明日、必ずリベンジさせてもらうからな」
俺の無理やりの提案だったが、【鉄の歯車】さん達も楽しそうにしているみたいで良かった。
俺自身も試合を見ているだけでも気づくことが色々とあったから、本当に収穫の多い模擬戦大会だった。
「それじゃ暗くなってきたし、お開きにするか」
「そうだね! 見張りを決めてから、もう休もうか!」
こうして模擬戦大会はお開きとなり、俺は素振りをしてから眠ることにした。
★ ★ ★
それから採取の四日間を終え、俺達はグレゼスタの街へと無事に帰ってきた。
ちなみに夕食後に毎日行っていた、模擬戦大会の最終結果は……。
一位がライラで二位はニーナ、三位がバーンで、同率四位が俺とポルタと言う結果だった。
ライラ、ニーナ、バーンの上位は本当に僅差で、相性的にライラがニーナに強く、ニーナがバーンに強く、そしてバーンがライラに強いという、面白い相性バランスをしていたのだが、その相性バランスの運を上手く掻い潜ったライラが、結果的に一位だった感じだな。
ちなみに俺とポルタに至っては、初戦で三人の誰かにボコられ、最終4ポイントで終わってしまった。
俺も初日は良かったんだけど、二日目以降は完全に上段斬りを警戒され、思うように上段斬りまで持って行けず、結果的に何も出来ず敗戦すると言うものばかりで、早急に違う振り方も覚えなければいけないと言うのを身に染みて感じた大会だった。
「いやぁ、今回はいつにも増して充実した四日間だったよ! 身内だけだったけど模擬戦大会は面白いね! みんなの成長ぶりも感じれたし、久しぶりに熱くなったよ」
「ルインの提案からなんとなく始めた模擬戦だったが、俺達が一番楽しんでしまったかもな。……次は絶対俺が一位を取るからよ」
「いーや、次も私が優勝するから!」
「……いえ、次は私が優勝します」
グレゼスタの門の前でバッチバチに火花を散らしている三人を余所に、4ポイントの俺とポルタは肩身が狭く、心なしか体も縮こませていた。
だから模擬戦なんかしない方がいいって言ったんですよ……とでも言いたげな目で俺を見てきているが、俺は模擬戦をして良かったと思ってるし、次もやりたいと思っているからなぁ。
あそこのライバル関係に混ざれないのは疎外感を感じるが、次はあの三人に一勝だけでもしたいな。
ポルタも実力を上げて、五人が同じくらいの強さになれば、この模擬戦大会は更に有意義になると今回の結果から心から思った。
「ポルタも頑張って三人といい勝負できるように頑張ろう。もしかしたら、後衛のポルタに取っては無駄な努力になっちゃうかもしれないけどさ」
「…………確かに、少しは本気で近接戦を鍛えるべきなのかもしれませんね。今までは避けてきたのですが、ルインさんが本気で取り組んでるのと今回の結果を受けて、流石に僕も火が点きましたよ」
「うん! お互いに結果が残念だったからね……。あの三人に割って入るとまではいかずとも、あの三人の優勝結果に少しは左右できるように頑張ろう!」
弱い者同士である、俺とポルタで絆を少し深めたところで、俺は【鉄の歯車】さん達に別れを告げて、グレゼスタの街へ一人入って行った。
今回の植物採取も大量に採取出来たし、自然に囲まれて日々の特訓のリフレッシュもでき、更には模擬戦も行えた。
いつも以上の成果を得られ、大満足でボロ宿へと俺は戻ったのだった。
ボロ宿へと着いたのだが、宿の前でウロウロしている人影が見えた。
動きが挙動不審でかなり怪しかったため、ゆっくりと近づいたのだが……。
「…………キルティさん?」
「お、おお! ルインじゃないか! こんなところで会うなんて奇遇だな」
ボロ宿前でウロウロしていたのは、なんとキルティさんだった。
奇遇と言っているけど……。場所的には全然奇遇じゃない気がする。
「奇遇……なんですかね?」
「そこは……まあ、ほら! ……いいんじゃないか? ……それよりもちゃんと無事に帰ってきたようだな」
そう笑顔で言ってくれたキルティさん。
もしかしたらだけど、俺の無事を心配して様子を見に来てくれたのかもしれないな。
「はい! 冒険者パーティの方にしっかりと護衛してもらっていましたので、何の危険もなかったです!」
「そうか……。それなら安心したよ。それじゃあ明日から、いつも通りに特訓を始められるんだな?」
「もちろんです! キルティさん、よろしくお願いします」
俺も笑顔でキルティさんに言葉を伝える。
お互いに笑い合ってから、明日の特訓の予定を確認をしたところで、キルティさんはもう帰ってしまうようだ。
……本当になにか用事があった訳ではないようだな。
「本当にたまたま通りかかったのだが、ルインの無事を確認出来て良かったよ。採取に行ってからの詳しい話とかは、明日聞かせてもらおう。それじゃ、明日の朝にまた来るからな」
そう言って帰って行ったキルティさんを、俺は頭を下げて見送った。
理由はともあれ、俺も帰って早々にキルティさんの顔を見れて良かったな。
明日からはまた厳しい特訓が始まる。
模擬戦大会での不甲斐なさもあったし、実力をつけるためにも全力で取り組んでいこう。
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