第九十九話 稽古をつけられる人物


 そうと決まったからには、俺はすぐに【エルフの涙】へ向けて出発した。

 さて、生成を依頼した魔力ポーションの方はどうなってるかな。

 一応、合計レベルによって生成される詳しい品質については調べたから、基本的には俺の目算通りで間違いはないはずだが、面白い事に、おばあさんの調子が良いと一段階品質が上がる。


 中品質が高品質になると話が大きく変わるため、おばあさんには是非頑張ってほしいところだが……流石にそれは求め過ぎかな。

 ほどほどの期待を持ちつつ、【エルフの涙】に辿り着き、扉を開けた。


 扉を開けると同時に心地良いベルの音が鳴り、心が安らぐ自然のような香りが鼻をつく。

 今日もカウンターにはおばあさんの姿はなく、恐らく奥の部屋で何か作業をしているのだろう。


「おばあさん、ルインです! ポーションを取りに来ました!」

「はいよ! 今行くから待っとくれ」


 お店の入口で大きな声を出すと、奥の部屋からおばあさんの嬉しそうな声が返ってきた。

 その声のすぐ後に、コツンコツンと杖をつく音と共に足音が聞こえ、笑顔のおばあさんが姿を見せた。


「ルイン、よく来たね。頼まれてたポーションはもう出来てるよ」

「いつもありがとうございます! おばあさんのポーションは美味しいし、効能が高いので本当に助かってます」

「くっくっく。ルインは毎回褒めてくれるから気分が良くなるね。あっ、そうそう。今回は調子が良かったせいか、高品質ポーションが二つ出来ているよ。ほら、持っていっとくれ」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 おおっ!

 ここに来ながらおばあさんの調子が良ければいいなぁなんて考えていたが、本当に今回は調子が良かったみたいだ。

 本当に【エルフの涙】は優良店過ぎる。

 

 ポーションの質は高いし味も美味しいし、高品質に限るが植物の買取も高い。

 それだけじゃなくて、おばあさんは優しい上に知識が豊富で、俺になんでも教えてくれるからな。


「ルイン、そんなにニコニコしてどうしたんだい? 何か嬉しいことでもあったのかい?」

「いやぁ、【エルフの涙】は良いお店だなぁって思ってただけです! いつも本当に良くしてくれてありがとうございます!」

「ルインは本当に良い子だねぇ。商売を忘れてつい甘やかしたくなっちゃうよ」

「もう十分に甘やかしてもらってますよ!」


 それから、おばあさんと一通り世間話とポーションについてを話したところで、俺は早速本題を切り出す。

 仕込み杖なんて持っていたし、剣術もおばあさんに教わりたいくらいなんだけど……。


 おばあさんは色々と忙しそうだからな。

 これ以上の迷惑かけたくないし、素直に伝手を聞くべきだろう。


「おばあさん、一つ質問していいですか?」

「質問? もちろんいいけど、なにが聞きたいんだい?」

「実は最近、戦闘能力をつける特訓をしてまして……」

「ああ、知ってるよ。成長期って言うのもあるだろうけど、最近体つきがガッシリしてきたもんね」

「あっ、おばあさんも気づいてくれていたんですね! ……じゃなくて、戦闘能力をつける特訓をしていたんですが、どうも最近伸び悩んでいまして、誰か稽古をつけてくれる人を知っているなら教えて欲しいんですけど……いますかね?」


 俺がそう尋ねると、少し考えこんだ様子を見せたおばあさん。

 この様子を見るに、心当たりはいくつか浮かんでいそうだが……果たしてどうだろうか。


「うーん。今、少し考えてみたんだけど……ワタシの知り合いは一癖あるような連中ばかりだからねぇ。思いついた連中は、みんな指導するって柄じゃない奴ばかりだよ」

「そうですか……。おばあさんなら何か知ってると思ったんですけど」

「素直に冒険者に教わるのがいいんじゃないかい? 冒険者はそう言った依頼も引き受けているだろうしね。あとは……王国兵士とか王国騎士団に頼むとかも良さそうだね。あそこもお金を払えば訓練に混ぜてくれたりもするよ。キチンとした基礎が学びたいなら、訪ねて行ってもいいかもしれないね」


 王国騎士団。

 そう聞いて脳裏を過ぎったのは、毎朝俺を観察してくる王国騎士団のお姉さん。


 佇まいを見るに只者ではないのは分かるし、あの人もお金さえ払えば剣を教えてくれたりするのかな?

 朝の俺を観察している時間を剣の指導に当てて貰えば、向こうも一石二鳥だと思うし、これはもしかしたらいい案かもしれない。


「おっ? その表情は、どうやらなにか心当たりがあるようだね」

「はい! 毎回色々と教えてくださりありがとうございます! 本当にその知識量にはいつも助けられています!」

「くっくっく。ルインはいつも大げさだね。……まあでも、ルインが助かってるって言うならワタシも嬉しいよ」


 そう言って、嬉しそうに笑顔を見せてくれたおばあさん。

 本当にお世辞とか誇張とかなしで、おばあさんがいなければ今の俺はいなかったと思う。

 毎回思うけど、おばあさんには感謝しかないな。


「それじゃ、また来ますね! 情報提供ありがとうございました!」

「はいよ。いつでも待ってるから気軽においで」


 おばあさんの優しい笑顔に見送られ、俺は【エルフの涙】を後にした。

 心当たりが見つかった訳だし、今すぐにでも話しに行きたいところだけど……。

 王国騎士団のお姉さんは、毎朝来る訳だし明日の朝話せばいいだろう。


 今日はこのまま【断鉄】で武器のメンテナンスをしてもらって、クライブさんのところでグルタミン草を売ってお金の工面をしよう。

 指導をしてもらうのにいくらかかるのか見当もつかないし、多めに持っておくに越したことはないからな。


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