第三章~グレゼスタ旅立ち~編

第九十八話 感じる視線


 アングリーウルフとの戦闘から約三カ月が経過した。

 あれから俺は、ダンベル草カレーを食べながらのトレーニングを三カ月間続け、一ヵ月ごとに特訓のリフレッシュも兼ねて【鉄の歯車】さん達と、コルネロ山での植物採取を行っていた。


 俺がアングリーウルフを一撃で屠ったあの依頼以降、コルネロ山でアングリーウルフには襲われていない。

 やはりこの間まで不運が続いていただけなのか、それともこの間の一件のお陰で狙われなくなったのか。

 どちらにせよ、また襲われたとしても今度は問題なく返り討ちに出来ると思う。


 俺はあれから魔物相手にも実戦を積んだお陰で、まだあの時の完璧な一撃にまでは至ってはいないものの、アングリーウルフと一対一ならばいい勝負が出来る自信があるほどには、この三カ月間で自分を鍛え上げた。


 そして……この三カ月で一番の変化と言えば、【鉄の歯車】さん達の成長。

 なにやら【鉄の歯車】さん達もこの三カ月間は、不必要な依頼は受けずに、俺に負けじと特訓に明け暮れていたようだ。

 それに、ただ無暗に特訓に明け暮れていた訳でないようで、以前冒険者ギルドで優良冒険者パーティと紹介された【タマゴ倶楽部】。

 そのパーティのリーダーであるエドワードさんに師事をお願いして特訓をしているのだと前回の護衛の時に教えてもらった。


 その指導のお陰もあるのか、連携の安定感もさることながら個々の力の成長具合に、毎月会う度驚いている。

 特に前衛であるライラとバーンの動きは、アングリーウルフにも勝るとも劣らない機敏な動きを見せており、実際に【鉄の歯車】は二週間前の依頼で、Cランクのブラッドホーンと言う魔物の討伐にも成功しているみたいだ。


 そんな凄まじい成長速度に、俺は正直かなり焦っている。

 努力の量では負けていないと思うし、俺にはダンベル草もあるのにも関わらず、この三カ月の成長度は【鉄の歯車】さん達の方が確実に上だった。


やはり指導の差が出ているのかなと思いつつも、アーメッドさん……【青の同盟】さん達は、あれ以来一度もグレゼスタには訪れていない。

 久しぶりに会って話したいし、特訓した今だからこそ、色々と聞きたいことがあるんだけどな。


 そんなことを考えながら、俺はいつものように朝のトレーニングへと向かう。

 この早朝のトレーニングも、だいぶ様になってきたのではないかと自分で感じる。


 俺がボロ宿前で、テンポ良く素振りをしていると…………今日も来た。

 宿屋の真向かいにある建物の物陰から、こちらをジーッと見ている王国騎士団のお姉さん。

 

 始めのころは何事もないかのように素通りしていて、俺が視線を向ける側だったのに、いつしかランニングしながら俺の方を見てくるようになった。

 それが段々とエスカレートしていき、今では向かいの建物の物陰から俺を観察してくるまでになっている。


 なんで王国騎士団のお姉さんに見られているのか、俺には思い当たる理由が殆どない。

 毎日見られているとなると、流石に気になってしまうから話しかけたいのだけど……もし、俺が始めの頃に目で追っていたことに気づかれていて、警戒の意味も込めての観察の可能性もあると思うと喋りかけるのが怖い。

 実際に俺が王国騎士団のお姉さんに見られていることに対し、思い当たる理由がそれだけだからな。


 ……あと、単純に鋭い眼光で見られているため、話しかけ辛いのもある。

 目がパッチリとしているだけに目力が強く、俺は視線を合わせることすら出来ていないからな。


 アーメッドさんが荒々しく野性味を醸し出しているとしたら、王国騎士団のお姉さんは凛としていて品行方正って感じなのだが——どことなくアーメッドさんと同じ匂いを感じている。


 —―駄目だ駄目だ。

 余計なことを考えすぎて剣の振りもおかしくなっているし、集中力も乱れている。

 お姉さんはいないものと思って、意識をせずに剣を振っていこう。



 それから意識をしないように努めながら、俺は朝のトレーニングを終え、いつものようにダンベル草カレーを食べる。

 このダンベル草カレーにも飽きが訪れた時期があったのだが、香辛料を変えたり、グルタミン草の出汁と一緒に作ることで、カレーの味変を成功させた。


 特にグルタミン草を入れることで、苦みが旨味に変わる不思議感覚を味わえている。

 単品ではダンベル草に負けてしまったが、他の食材と組み合わせることでグルタミン草のポテンシャルがダンベル草を凌いだのだ。

 それにクライブさんもかなり気合いを入れて、グルタミン草の研究を行っているようで、あと少しでどんな食材にも合うであろう調味料が作れると、会うたびに説明される。


 俺も早くその調味料を食べてみたいなと思いながらカレーを食べた。

 さて、この後はどう動こうか。

 まずは先週の植物採取で採取した魔力草を、ポーションにしてもらうようにおばあさんに頼んであるから、そのポーションを【エルフの涙】から取ってくるのが先かな。

 

 ダンベル草カレーにもグルタミン草を使うようになったため、早めに魔力を上げておきたい。

 ……それとついでに、誰か剣の指導してくれる人がいないか、おばあさんに聞いてみようか。


 おばあさんは本当に物知りだから、恐らく誰かしらを紹介してくれると思う。


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