第九十六話 ルインの成長度合い

※【鉄の歯車】バーン視点です。



「またルインに助けられちゃったね」


 グレゼスタの街へと歩いて行くルインの背中を見て、ライラがぽつりとそう呟いた。

 前回も魔力草を燻すと言う機転を利かせて、アングリーウルフを退けたルインだったが、今回に関してはあのアングリーウルフを一撃で屠った。

 対する俺達はと言うと……物陰に隠れ、遠目からその姿を見ていることしか出来なかったのだ。

 

「前回までだったら、まだ許されたが……今回も失敗となったら、流石に許されないよな」


 俺はライラの言葉に同意し、自分たちを戒める。

 ルインの前では前向きなことを言っていたが、今回の一件は重く受け取らなければならない。

 ルインが提案していたナバの森ではなく、コルネロ山に変更したのだって、俺達だったんだからな。


「そうだよね。ルインがアングリーウルフに追いつかれた時は、本気で終わったと思ったよ。色々なことや後悔が頭を過ぎってさ……。もう二度とあんな思いはしたくない。強くなりたいよ私は」


 これに関しては、俺も同じような現象が起こった。

 俺の脳内でのルインは、前回アングリーウルフ相手に腰を抜かしたルインのままだったからな。

 そんなルインがアングリーウルフに追いつかれたと認識した瞬間に、全てがスローに見えたかのように後悔や自責の念が押し寄せてきた。


「ルインさんの作戦に乗ったのが駄目でしたね。ルインさんから囮役を買って出てくれたとは言え、僕たちは絶対に止めるべきでした」

「……でも、仮に正面切ってアングリーウルフ3匹相手に戦っていたとしたら、私達は全滅していたと思います」


 そうなんだよな。

 ポルタの言う通りでもあり、ニーナの言う通りでもある。

 今回の一件については、完全に俺達【鉄の歯車】の実力不足が招いた事態だ。


 アングリーウルフに襲われたのがアクシデントだったとしても、‟護衛”ならば依頼人を守れる強さを持っていないといけない。

 それが知人となれば、尚更だと今回の一件で本気で痛感した。

 ライラではないが俺も……二度とあんな思いはしたくない。

 

「今回の件は重く受け止めよう。ルインが生きていてくれたお陰で、俺達にはこの失敗を挽回するチャンスが生まれた訳だから」

「そうですね。先ほどルインさんにも宣言した通り、僕たちも負けないように全力で訓練しましょう」

「うん! 私さ、今までにないぐらい燃えてるよ!」

「……私もです。冒険者には成り行きで仕方なくなったと言う感じでしたが……本気で上を目指したいと今日初めて思えました」


 三人からは、俺と同じくらい強い決意を感じた。

 ニーナを守るために学校を辞めて、俺達がお金を稼ぐために仕方なく冒険者となってから半年程。

 

 冒険者になった理由が理由故に、まだ学生気分が抜けていなかったのだが、今回の一件で火がついた。

 ルインに限らず、全ての人を守れるように。——俺は全力を尽くすと心に誓う。


「……それにしても、あのルインの成長度合いは一体なんなんでしょうか。僕とバーンさんはトレーニング内容を詳細に聞きましたが、あれだけ成長するものなんですかね?」

「確かにそうだな。めちゃくちゃハードなトレーニングを行っていたみたいだから、あの体になったのは納得できたが……だからと言って一ヵ月のトレーニングでアングリーウルフを一撃で屠れる力をつけれるとは思えないな」

「私にはよく分からないけど、ルインには剣の才能があったってことじゃないの? あの振り向きざまの一撃……カッコ良かったしなぁ」

「……私も戦いの才能があったのだと思いますよ。前回のまだ力が弱いときでも、機転の利かせ方が普通ではありませんでしたから」


 ライラのその一言に、ニーナも同意する。

 確かに、ルインの思考や行動、動きは常人とは違う何かを感じたのは事実だ。


 ただ……冒険者ギルドのギルド長から、俺達との交流のちょっと前にルインが一人でアングリーウルフ一匹を倒したと前回の依頼報告の際に聞いた。

 その時はアイテムを駆使してなんとか倒したと聞かされたのだが、本当は強いことを隠しているのではないかと言う疑念が、今回の一件で俺の中で生まれた。


「なあ、もしかして本当はルインは強くて、俺達に力を隠してるんじゃ——」

「ないない。前回の時の動きで分かるじゃん! 動きも一般の人って動きだったし、ルインは努力して強くなったんだよ!」

「だから、それは力を隠してたから——」

「……バーンさん。私もライラさんの言う通り、ルインさんは努力したのだと思いますよ。前回までは綺麗だった手のひらが、今回見たときは皮が厚くなり、酷い剣たこまで出来ていましたので」


 俺が、ルインが実は力を隠してるのではないかと言う疑惑を提唱しようとしたのだが、ライラとニーナに即座に否定された。

 確かに言われてみれば、力を隠しているなんてあり得ないのだが……それにしてもこの二人、ルインのことをよく見ているな。


「まあ、確かにそうだな。誰かれ構わず疑うのは直さなきゃいけない。……成長度合いが凄すぎて、変な疑念を持っちまった」

「そんな変な疑いをしちゃうほど、ルインの成長が早いってことだからね。並大抵の努力じゃすぐに置いていかれちゃう」

「しっかりとしたトレーニングメニューとかも考えるか。丁度、【タマゴ倶楽部】のエドワードさんと話す機会があるし、その時に相談をしてみようぜ」

「賛成ですね! エドワードさんなら、きっと良い特訓方法を教えてくれますよ!」


 そんな話をしながら俺達は、手続きを終えてグレゼスタの街へと入り、今回の依頼の報告のため、冒険者ギルドへと向かったのだった。

 

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