第九十五話 ライバル宣言


 日の昇り始めと同時に下山をしたお陰で、俺達はお昼前の時点でグレゼスタへと到着した。

 最終日に俺には三回目となるアングリーウルフ襲撃はあったものの、植物もかなりの量を採取出来たし、狩ったアングリーウルフの素材も手に入れることが出来た。

 結果だけ見れば、大成功と言える採取依頼だったと俺は思う。


「無事に帰ってこれたね! 最後にまたアクシデントがあったけど、今回も負傷者なしで本当に良かった!」

「無事なのは確かに良かったですね……。ただ、二連続で襲われていることを考えると、しばらくの間はコルネロ山での採取はできそうにないですかね」

「……いや。俺達が強くなれさえすれば何も問題ないだろ? Eランクに上がって浮かれてたけど、俺はこのアングリーウルフの襲撃で、自分達の不甲斐なさを強く感じた。本来は護衛しなきゃいけない依頼人に、守ってもらった形になってしまったんだからな」

「そうだね。私も後ろから何も出来ずに見ているだけなのは……もう味わいたくない。アングリーウルフの群れ相手だろうが、正面切って守れるくらいにみんなで強くなろう!」


 ライラのその声に、【鉄の歯車】の面々は力強く頷いた。

 四人の覚悟と絆が深まったのを見て、俺はちょっとだけ疎外感を感じてしまい、少し寂しくなる。

 俺を守れるようにと奮起してくれている訳だし、別に蔑ろにされている訳ではないんだけどね。


「……ルインさん。私達は絶対に強くなっていきますので、よろしければまた依頼してくださると嬉しいです」


 ニーナが俺の方を向き直し、深々と頭を下げてそう言ってきた。

 そんなニーナに続くように、三人も俺に頭を下げてくる。


「もちろん依頼は出すよ! だから頭は上げてほしい! ほらっ、門兵も変な目でこっちを見てるから!」

「ルイン、本当にありがとね! 見てて。私達、ルインに負けないように絶対に強くなるからさ!」

「そうだな。失敗ばかりの俺達に懇意にしてくれたことを、いつか絶対に報いてみせる」


 頭を上げた四人の目は、覚悟の決まったような熱を帯びていた。

 そんな四人の瞳に俺は、【鉄の歯車】さん達はここから更に強くなっていくのだろうと、確信を持ってそう思った。


「まあでも、僕たちよりも速い速度でルインさんのが成長してるので、追い抜かれてしまう可能性のが高いですけどね」

「ポルタ!それは口に出さなくていいの! ルインに負けないように、ここからは更に気合いを入れて鍛えていくんだから! ……でも、既にアングリーウルフを一振りで倒してるからなぁ」

「……確かにそうですね。アングリーウルフを一振りで倒せるなんて、Aクラス冒険者レベルだと私も思います」


 ポルタの言葉にライラとニーナが続き、ジト目で俺の方を見てくる。


「何度も言うけど、あれは完全にマグレだったから! 同じことをもう一度やれと言われても、今の状態じゃ絶対に出来ないよ」

「マグレでアングリーウルフを一撃で屠れる奴なんて、俺は聞いたことがねぇけどな。肉体の変化も凄いし、この成長速度のルインに負けずに強くなるってなったら、確かに相当キツイのかもな」

「いいのっ! それでもルインよりも更に強くなるように頑張るんだよ! ルイン!私達は友達であり、ライバルだからね! どっちが強くなれるかの競争だ!」

「――うん! 【鉄の歯車】さん達に負けないように、俺も全力で鍛え上げるから。絶対に負けないよ」


 ライラのその一言は嬉しかった。

 友達でありライバル。そう言ってくれたお陰で、先ほどまでの疎外感は消え去り、心の奥からワクワクする気持ちが芽生えてくる。


 俺もここまで言って貰ったら絶対に負けたくないし、全力でトレーニングに励もう。

 ……心からそう思えた。

 


 その後ライラと笑顔で握手を交わし、俺はグレゼスタの入口で【鉄の歯車】と別れた。

 心が湧き立つ今の感覚のまま、トレーニングに明け暮れたいところだが……今日は流石に、このまま宿に戻って寝よう。


 夜に襲撃があり、そのまま寝ずに帰還してきたため、疲労と眠気が酷く、この状態で特訓を行ってもあまり効果が望めないと思う。

 冒険者ギルドで報告とかもしないといけないのだが、全て明日にさせてもらおうか。

 そんな考えから、俺は宿に戻ってそのまま眠りについたのだった。



★   ★   ★



 コルネロ山での襲撃から約一週間が経過した。

 襲撃があった翌日はギルドに報告に行ったり、『エルフの涙』で植物を売ってポーションを生成依頼をしたのだが、それ以外の日は一時的にトレーニングを止め、現状の自分の力を確かめることに当てていた。


 俺はあのアングリーウルフを一撃で屠ることができた訳だし、自分の今の実力に気づいていないだけで、かなり強くなっている可能性も高いと思ったのだが……結果はちゃんと弱いままだった。


 いや、弱いと言うと語弊があり、コボルト相手なら多対一でも余裕で倒せるぐらいには強くなっていたのだが、アングリーウルフを屠ったときのような一撃は、一週間経過した今でも一度も繰り出せていない。


 あの時のあの一撃は、恐らく火事場の馬鹿力のようなものだったのだと、この一週間の結果から分かった。

 ……もし、あのアングリーウルフ二匹が怯んでいなかったら、あっさりと殺されていた可能性もあったと考えると、本当に背筋がゾッとする。


 ただ、前回の経験のお陰で目指すビジョンははっきりと見えた。

 あの一撃を自分の意思で放てるように、トレーニングに励んでいこう。

 実際に今の俺の体から放てた一撃な訳だし、決して不可能ではないと思う。


 俺は【鉄の歯車】さん達に負けないように。

 そして、【青の同盟】さん達に追いつけるように、日々のトレーニングを全力でこなしていこうと、心に誓ったのだった。



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