第七十六話 ダンベル草の攻略法


 買い物を終えた後、俺はニーナとライラを『ビーハウス』まで送り届けた。

 三人での料理トークは『ビーハウス』につくまで盛り上がり、大分仲が縮まった気がする。


「今日のお礼が香辛料だけで本当にいいの?」

「もちろん! 本当は香辛料もいらなかったんだけど……これはありがたく使わせてもらうね!」

「……そうですね。私達は依頼失敗もしていますし、本来ならば私達がなにか渡すべきなんでしょうけど……ルインさん、香辛料ありがとうございます」


 二人はそう丁寧に俺にお礼を言ってきた。

 アングリーウルフを退けたのに、随分と謙虚だよな。

 本来ならば、追加報酬を渡して然るべき働きをしてくれたと俺は思うけど。

 

「護衛は失敗どころか、アングリーウルフから守ってくれたし、それに今日あれだけいいお店を紹介してもらったからね。本当に追加報酬も渡したいところなんだけど……」

「いや!本当にいらないからっ! それよりも、また私達に依頼してくれると嬉しい!」

「それはもちろん! いつになるかは分からないけど、必ずまた採取しに行くから、その時は絶対に【鉄の歯車】さん達を指名させてもらう」


 二人と次の依頼をするときに、また【鉄の歯車】を指名することを約束し、俺は二人と『ビーハウス』前で別れた。

 それじゃ夜も更けてきたことだし、俺もボロ宿へと帰ろうか。

 

 ……それにしても今日は実りのある一日だったな。

 冒険者ギルドで補填をもらい、『エルフの涙』ではいつもの高額買取に加えて、魔力ポーションを買わせてもらってから、治療師ギルドの近況についても教えてもらった。

 

 最後はライラとニーナに香辛料を取り扱っているお店を紹介してもらい、そこの店主のクライブさんにカレーの作り方を伝授してもらった。

 香辛料の有用性に加え、グルタミン草が高値で売れることも分かり、恐らくあのお店は『エルフの涙』に次いで、俺が常連となるお店になると密かに思っている。

 

 俺は軽く今日の総括をしながら、夜のグレゼスタの街を歩き、ボロ宿へと帰ってきた。

 ……とまぁ、総括はしたのだが、まだ宿ではやるべきことが残っているんだよな。

 

 ダンベル草カレーと、魔力ポーションで魔力が増量するかどうかの実験。

 先ほど食べたばかりだしお腹は空いていないが、カレーならばもう少し食べられる気がする。

 

 と言うことで、俺は先ほど習った通りにカレー作りを始めることを決めた。

 さっき見て、教えてもらった通りに食材を調理していき、アレンジなどは加えずに教わった通りのスパイスを混ぜ込んでいく。

 俺でも作れるのか心配だったのだが……うん、スパイシーなめちゃくちゃいい匂いが部屋の中を満たしている。


 ドロドロになってきたし、少しだけ掬って味を見て見ようか。

 ……うん、やっぱりカレーは美味い!

 流石にクライブさんが作ってくれたカレーと比べたら、まだまだって感じだが、初めて作ったにしては十分すぎるほど美味しい。

 

 さて、この作ったカレーにどうダンベル草を混ぜるかなのだが、とりあえず乾燥させたダンベル草の粉末を混ぜ込んでみるか。

 グルタミン草スープと一緒に飲んで失敗した、ダンベル草の粉末を俺は入念にカレーへと混ぜ込んでいく。

 脳内ではダンベル草の苦みと、カレーの辛味そして旨味が鮮明に思い起こされているのだが、この二つが混じり合った味は全く想像がつかない。


 カレーでダンベル草に勝てるのではないかと言う期待半分、カレーでも駄目だったらどうしようと言う不安半分。

 期待と不安の感情が入り混じりながら、俺は完成したダンベル草カレーをお皿へと移す。


 匂いはカレーのままで、変わらずスパイシーな良い匂いを放っているな。

 ……もしかしたらこれは期待してもいいのかもしれない。


 さっそくスプーンで少量だけ掬って、口の中へ。

 味わうようにゆっくりと咀嚼し、俺はダンベル草カレーを食べたのだが……これは美味しいのか……?


 ダンベル草の苦みを強く感じるが、いつものように吐き気を催す程の苦みでは決してない。

 それどころか、辛さに対しての苦みがアクセントにすらなっている感じがする。

 美味しいかどうかを聞かれれば、美味しいとは即答出来ないのだが、カレーのお陰で苦もなく食べられる料理へと変貌を遂げた。


 これならダンベル草を毎日食べることが出来るぞ!

 一癖はあるが、このカレーを食べるだけで強くなる事実が本当に嬉しい。

 

 本日二食目だと言うこともあり、完食までは時間が掛かってしまったものの、最後まで吐き気を催すことなく食べきることが出来た。

 と言うか、吐き気どころか最後の方は、苦みと辛さのバランスが良く癖になっていたくらいだった。

 

「これは本当にダンベル草を食べる方法を見つけられたぞ!」


 一人言を呟き、喜びを噛み締める。


 ……ダンベル草を食す方法を見つけたのなら、あとはダンベル草の生成だけなのだが、果たして今の総魔力で生成することが出来るかが問題だな。

 とりあえず今日は魔力ポーションを飲み、総魔力が上がったのかの確認をしてから、明日は現在の総魔力でダンベル草が作れるのかどうかを試してみようか。

 

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