第七十五話 苦味に対抗しうる料理

 

 これはカレーと一緒ならば、ダンベル草も食べられるようになるかもしれない。

 辛さと苦さでどうなるのか分からないけど、それほどの可能性をカレーには感じた。


「ご馳走さまでした! 本当に美味しかったです!」

「そう言ってくれるなら作った甲斐があるってもんだな」


 店主さんにお礼を言い、俺は完食したお皿を片付ける。

 今日、改めて食の奥深さに気がつけたな。

 グルタミン草の旨味も衝撃だったが、今回の方が衝撃度で言えば勝っているかもしれない。

 

 美味しくない香辛料が混ざり合うことによって旨味となる凄さ。

 これは香辛料が高値で買取されているのも、納得出来た。


「……どうでしたか? ルインさんが探していた料理はカレーで合ってましたでしょうか?」


 俺が食べた食器を洗っていると、後ろからニーナに話しかけられた。

 おばあさんの言っていた料理はカレーだったのかな?

 衝撃度で言えば、カレーのような気もするけど。


「実は分からないんだよね。複数の香辛料を使う料理があるって言うことを聞いただけで、俺はそれがどんな料理かも知らないからさ。……でも、カレーが凄い料理ってことは分かったよ。ニーナ、カレーを提案してくれてありがとう!」

「……い、いえ。私は思いついた料理を言っただけで、実際に作ったのはクライブさんですので。私はなにも……」

「じゃあ、今度はニーナのカレーも食べてみたいな。このカレー以外にも色々と種類があるんでしょ?」


 俺がニーナにそう問うと、遠くからライラも話に加わってきた。


「そうそう! カレーは色々と種類があるんだよ! 更に香辛料を加えても美味しいし、お肉や野菜、魚介類なんかを入れても美味しいんだよね!」

「……そうですね。私はお野菜がたくさん入ったカレーが好きです。よろしければ、ルインさんにも今度ご馳走致しますよ?」

「本当に? それじゃ野菜カレーも食べてみたいな」

「じゃあ、私も今度お肉のカレーを作ってあげるよ!」

「お肉のカレーも美味しそうだな! これは楽しみが増えたよ」


 こうしてニーナとライラとカレーをご馳走してもらう約束をしつつ、片付けを終えた俺たちは店主さんのところへと戻る。


「カレーに満足してくれたみたいで良かった。それで、他には香辛料について特に聞きたいことはないのか?」

「はい! もう聞きたいことはない……」


 そこまで言いかけて、俺は一つ聞きたいことを思い出す。

 香辛料とは関係ないが、グルタミン草について聞くのを忘れていた。


「すいません。もう一つだけいいですか? この植物についてお聞きしたくて……」


 俺は鞄から一本グルタミン草を取り出すと、それを店主さんへと手渡す。

 俺からグルタミン草を受け取った店主さんは、それをまじまじと見ながら首を傾げている。


「ん? なんだこの植物。香辛料ではないよな?」

「あっ! グルタミン草だっけ? クライブさん、その植物凄いですよ!」


 俺が渡した植物にいち早く気づいたライラが、店主さんにグルタミン草の説明を始めた。

 俺が喋ろうと思っていたことを、ライラが分かりやすく且つ、専門的な話も交えて説明してくれている。


「……へー。面白そうな植物じゃねぇか。ルイン、手持ちにあるのはこの一本だけか?」

「あ、いえ! あと5本あります」

「それじゃ5本売ってくれ。とりあえず……1本銀貨5枚ってところでいいか?」

「1本で銀貨5枚ですか!? グルタミン草ってそんなに高いんですか?」


 衝撃の買取金額に声が大きくなってしまった。

 1本銀貨5枚ってことは、俺は1日に2本のグルタミン草を生成することが出来る訳だから金貨1枚分、グルタミン草を【プラントマスター】で生成していけば余裕で暮らしていける計算になる。


「俺はグルタミン草って植物を聞いたことがないからな。とりあえずの値段ってだけだが、銀貨5枚で買わせてもらう。まあ、これは仮の買取金額だし、有能な植物だと分かれば、こぞって採取しに行く奴も出てくるだろうよ。買取最高値が銀貨5枚ってだけで値段は落ちると思ってくれ。俺が使えないと判断すれば、次の買取の時には銅貨1枚の買取になっている可能性だってあるしな」

「なるほど……。今回だけでも銀貨5枚で買い取って頂けるなら十分です! 是非、銀貨5枚で買い取ってください!」

「それじゃ交渉成立だな!」


 こうして二度目の交渉を成立させ、俺は先ほどの香辛料の買取額である金貨5枚に加え、更に金貨2枚と銀貨5枚を手にしたのだった。

 カレーにしてもそうだけど、俺は完全に‟食”について軽視していたな。

 金銭面にしてもそうだけど、俺の食生活も大きく変わる出会いとなった気がする。



「店主さん! 今日はどうもありがとうございました。絶対にこのお店を贔屓にさせてもらいますので!」

「おう。香辛料を採取したらまた売りにこいよ。さっき買い取ったグルタミン草にもなにか分かったら教えるわ。……それと今更だが、俺はクライブって名前だ。気軽にクライブって呼んでくれ」

「分かりました! クライブさんこれからもよろしくお願いします!」


 俺達はクライブさんとは部屋の前で別れ、三人で下のお店エリアへと戻る。

 それから、俺は先ほど教えてもらったカレーを自分でも試すために香辛料を買い、お店を後にしたのだった。

 ライラとニーナには、本当に良いお店を紹介してもらったな。


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