第七十四話 カレー!!!
ニーナのその言葉に、俺は一切心当たりがない。
おばあさんが言っていた料理が、かれぇと言う料理なのだろうか。
「ああ、カレーか。確かに条件的には満たしているな。……丁度いいタイミングでクミンとペッパーの実も買い取ったことだし、俺がカレーをご馳走してやろうか?」
怪しい店主さんが腕組みをしながら、そう提案してくれた。
これはかなりありがたい提案。
かれぇがダンベル草攻略の鍵になるのなら、是非お願いしたいところだ。
「店主さんが良いのであれば、是非お願いしたいです!」
「まあ、お得意様になってくれそうだからな。もちろん材料代は徴収するけど、作り方も教えるし損じゃねぇと思うぜ」
「もちろん、材料費は支払わせて頂きます!」
「私とニーナも手伝うよ! ……でも何カレーがいいんだろうね。私はお肉のカレーが好きだけど」
「……私はお野菜の入ったカレーが好きですね」
「シーフードカレーも捨てがたいが……まあ、最初だしシンプルなのでいいだろ。作り方覚えてから、ルインが勝手にアレンジすりゃいいんだしな」
未だにどんな料理なのか想像がつかないのだが、三人の話を聞いているだけでワクワクしてくる。
お肉にも合い、野菜にも合い、魚にも合う料理ってことだよな……?
これはかなり期待が出来そうだぞ!
「それじゃ、ここで材料を揃えたら上の階へと移動しよう。上が俺の家になってるからな」
「へー! クライブさんってここに住んでたんだ!」
それから怪しい店主さんを先頭に、店内を回って香辛料を買っていく。
ここで売られている香辛料は、既に加工済みで粉のようになっているようだ。
そして買った香辛料は全部で三種類。
この間ライラ達がスープに入れていたレッドホット草に、ジンジャーによく似たターメリックの根、それからコリアンダーの種子を買った。
この三種類の香辛料に、俺が先ほど売ったクミンの種子とペッパーの実を使って、ここに売られている二種類の野菜と混ぜ合わせれば、かれぇが完成するそうだ。
買い物をしている最中、俺は新たに買った全ての香辛料を軽く味見させてもらったのだが、やはり香辛料は美味しくない。
美味しくない物を混ぜ合わせた料理が、美味しくなるとは到底考え難いんだけど……果たしてどうなんだろうか。
食材を買い揃えたあとは、怪しい店主さんのお家へと案内してもらう。
階段を登った先には部屋があり、店主さんはここを家として暮らしているようだ。
「まあ、汚いが上がってくれ」
本当にその言葉通りに部屋の中は汚く、色々なものが乱雑に置かれている。
汚い部屋を抜けた先には立派なキッチンがあり……キッチンは先ほどの部屋とは別世界のように綺麗だ。
「部屋は汚いのに、キッチンだけは綺麗なんだね!」
「キッチンにはこだわりがあるからな。そんなことより、早く作っちまうぞ。ルインは作り方をよく覚えておけよ」
「はい。覚えさせて頂きます」
怪しい店主さんはそう言うと腕まくりをして、タオルを取り出して頭に巻いた。
目つきが先ほどまでのだるそうな感じではなく、まるで戦闘中のような真剣な目つきへと変わる。
腕まくりしたから分かったが、やはり腕には様々な傷がついていて、噛まれたような跡から骨まで届いているような傷まで見えた。
「ライラとニーナは言った材料を取ってくれよ」
「分かった! サポートする!」
こうして三人によるかれぇ作りが始まった。
まずはニーナが刻んだ野菜をクミンのパウダーと一緒に炒め始め、それが黒くなるまで炒めていっている。
そしてその黒くなった野菜に、赤い野菜を潰したものを混ぜ始めた怪しい店主さん。
そのまま火にかけていくと、サラサラだった野菜が次第にドロドロの液状へと変化し、ドロドロになるにつれ良い香りが漂ってくる。
怪しい店主さんがドロドロ加減を確認したところで、更に香辛料を加えていくようだ。
まずは黄色いターメリックのパウダー。次にレッドホット草のパウダー。
そして最後にコリアンダーのパウダーを加えて、それをしっかりと混ぜ込んでいく。
—―香辛料を混ぜた瞬間に、鼻をつく絶妙な匂いが漂ってきた。
単品で食べたときに嗅いだ匂いなのだが……混ぜ合わさったこともあるのか、お腹が鳴ってしまいそうになるくらい美味しそうな香り。
生唾を飲み込み、かれぇの完成を今か今かと俺は待つ。
「よしっ。味は完璧だな。ここから水を入れてまたドロドロにしたら完成だ」
水を投入し、煮詰めること30分ほど。
最後にペッパーの実のパウダーを振りかけて、ようやくかれぇが完成したようだ!
「味は……っと。……うしっ、完璧だな! ルイン、これがカレーだ」
お皿に盛られたかれぇを見て、俺のお腹がぐぅーと盛大に鳴った。
まず匂いが至高。中毒になるのではと思うほどのスパイシーな香りに、脳を揺らされている感覚に陥る。
もう駄目だ。すぐにでも食べたいっ!
「店主さん! もう食べていいですか!?」
「ああ、もちろん。パンかなにかにつけて食うと美味いぞ」
「ちょっと……私もお腹空いちゃった! クライブさん、私にもちょーだい!」
「……私も少しだけ食べてもいいですか?」
「そうだな。せっかく作ったんだし、みんなで食うか」
怪しい店主さんはそう言うと、かれぇを四人分の皿に盛りつけ、どこからか取り出してくれたパンと一緒に出してくれた。
先ほどの部屋では四人分の座るスペースがないため、このままキッチンで頂くことに。
「うわー……。本当に良い香りだなぁ。それじゃ早速いただきます!」
「「いただきます!」」
ライラの食前の挨拶とほぼ同時に、俺はパンを手に取りカレーをパンで掬ってから口へと運ぶ。
—―カレーを口に入れた瞬間に感じたのは、舌を強く刺激するような強烈な辛味。
確かに舌が痛くなるほどに辛いのだが、それ以上に感じたのは素材から滲み出ている旨味。そして香辛料の芳醇な香りが鼻から抜けていく。
ドロッとしたかれぇが良くパンに絡み、濃厚で暴力的な旨さを舌で感じ取っている。
辛い。でも美味い。辛い。でも美味い。
だらだらと汗が額から流れ出るのだが、それでも食べ進める手が止まらない。
これは……本当に美味しい。美味しすぎる。
辛さに関してはかなりの辛さだったのだが、それでもあっという間に俺はかれぇをぺろりと平らげてしまった。
「店主さん! このかれぇ、かなり辛いですが、本当に美味しかったです!」
「はっはっは! そんなに美味そうに食べてくれたのは初めてかもな。喜んでくれてよかったぜ。……それとかれぇじゃなくてカレーな!」
「カレー!!!」
俺は残ったパンでお皿のカレーが綺麗になくなるように掬い取り、少し物足りなさを感じながらも、初めてのカレーを完食したのだった。
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