第六十九話 エルフのおばあさん
「おや、ルインじゃないか。また植物を売りに来てくれたのかい?」
優しげな笑顔を見せて、そう言ってきたおばあさん。
こうして笑顔で歓迎してくれるのは、俺としてはかなり嬉しいな。
「はい。量は多くないのですが、植物を採取してきました。よろしければこの間のように買取をお願いしたくて、また来させてもらいました」
「そうかい、そうかい。勿論、買取させてもらうよ。どれ、採取した植物を見せてくれるかい?」
おばあさんにそう言われたため、俺は鞄から先ほど仕分けた植物を取り出し、カウンターの上へと乗せる。
置かれた植物の袋に少し驚いた様子を見せたおばあさんだったが、すぐに慣れた手つきで中身の植物を取り出すと、軽く流し見るように確認を行っていった。
「これで量が多くないってのはちょっと無理があるんじゃないか……? 十分に多いとワタシはおもうよ」
「一応、この間よりかは少ないってことだったんですが、もしかして買取できなかったりしますか? 一応、今回は自分の中で中品質だと思う物も、持ってきてしまったんですが……」
「うんにゃ。この間、ルインが売ってくれた植物はすぐに売れちゃったからね。今回も売ってくれる分はしっかりと買い取らせてもらうよ」
少し悪い笑みをしてそう呟いたおばあさん。
……おばあさんのこの悪い笑顔は頼もしさを感じるから、俺はかなりお気に入りの表情。
もちろん普段の優しい笑顔も好きだけどね。
—―と言うか……。この間俺が売った植物、もう全て売れたのか!
あれだけ高額で買い取ってもらったから、破産していないか少し心配だったのだけど、全て売れたのだったら良かった。
まあ、『エルフの涙』は良いお店だもんな。
もしかしたら、このお店には太客がついているのかもしれない。
「良かったです。全て売れたんですね! もしかしたら売れ残るのではとも思っていましたので一安心です」
「くっくっく。ルインは本気で売れるのかを、心配をしていたようだったからねぇ。この間も言ったけど、こう見えてこのお店は知る人ぞ知る人気店なんだよ。……とまぁ、無駄話は後にして、ワタシは持ってきてくれた植物の査定をしてくるよ。ルインはどうする? この間よりも早く終わると思うけど、またお店で待ってるかい?」
「そうですね! またここで待たせてもらいます」
「そうかい、そうかい。それじゃ少しだけ待ってておくれ。とっとと査定してくるからね」
「あっ、おばあさん。俺が奥まで運びますよ。杖ついてますし……足が悪いんですよね?」
この間、おばあさんに運ばせてしまったことを後悔したため、今回は持って行くことを提案する。
ただ、当のおばあさんはと言うと、片手を突きだして俺の提案を断ってきた。
「心配いらないよ。ワタシの体はどこも悪くないし……それにこの杖は歩行補助の目的じゃないからね」
そう言うと、杖を勢いよく地面に一突きしたおばあさん。
すると……杖はいつの間にか剣へと変わっていた。
何が起こったのか分からず、目を見開いて驚いていると、そんな俺を見て楽しそうにくつくつと笑っているおばあさん。
「この杖は護身用の仕込み杖なんだよ。でも……心配してくれてありがとうね」
「そうだったんですか。それじゃ特に体が悪いとかじゃないんですね!」
「ああ、もちろんだよ。ほら、この通りピンピン動く」
体をぐるんぐるんと回しながら、明るい表情で笑っているおばあさん。
ずっと杖をついていたし、足か腰が悪いのかと思っていたが、健康なら良かったな。
うーん。……でも、なんで杖に剣なんか仕込んでいるんだろう。
心配ごとが一つ解消されたが、元々多かったおばあさんの謎が、また一つ増えてしまったな。
「それじゃワタシは査定してくるからね。なにかあったら呼んどくれ」
「分かりました。査定の方よろしくお願いします!」
奥の部屋へと向かうおばあさんを見送ってから、俺は暇つぶしに店内の物色を始める。
なにか珍しい物が新しく入荷されていないか見て回ると、この間はなかった青色に輝いているポーションが目に入った。
商品名は最上級魔力ポーション。値段は驚きの金貨9枚だ。
ポーションと言えば、基本的には戦闘中に使用する消耗品なのだけど、金貨9枚って凄いな……。
こんな高価なポーション。
俺のだったら買ったはいいものの、結局最後まで勿体なさが上回って一生使わなさそうだな。
最上級魔力ポーションをなにかの間違いで鑑定できないかと、手をかざしてみたのだが……やはりポーションは鑑定できないか。
うーん。物凄く効能が気になるなぁ。
魔力ポーションの原料は魔力草の類であると思うし、これを魔力満タン時に飲んでも魔力が上がるのかの実験をしてみたい。
ん?……いや、アリだな。
流石にこの最上級魔力ポーションは買えないが、低級魔力ポーションを買って、魔力が上がるのかどうか試してみるのはやってみる価値がある。
ポーションでも魔力が上がり、魔力草を直接摂取するよりも魔力上昇量が多いのなら、ポーションの方でも摂取していきたい。
『エルフの涙』はポーションも普通のお店と比べるとかなり割高なのだが、やっぱり買うとしたら『エルフの涙』だよな。
よしっ! そうと決まれば、売却が済んだら魔力ポーションを売ってもらおうか。
そう決めてから俺は査定が終わるまでの間、イミュニティ草を羨まし気に見ていると、査定を終えたおばあさんが奥の部屋から戻ってきた。
査定に行ってから15分くらいだろうか。
前回より数が少なかったからか、査定が予想以上に早かったな。
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