第六十八話 暖かい懐
なるほど。
アンクルベアとアングリーウルフの力関係が崩れたことで、アングリーウルフが活動拠点を広げたって感じなのか。
人間だけでなく魔物にも、こう言った争いがあるんだな。
「ありがとうございます。アングリーウルフが襲撃してきた理由については分かりました。それで、これからコルネロ山での採取は可能なのかも教えて貰えますか?」
「ああ。採取自体は問題なく行えると思うぞ。【蒼の宝玉】から、バランスが拮抗するように、アングリーウルフを間引いてきたとの報告も受けているからな。ただ、それでも落ち着くまでの数週間は様子を見た方がいいかもしれない。もちろん、高ランクパーティを雇って行くなら、なにも心配いらないと思うけどな」
数週間……か。
魔力草は心許ないのだが、一先ずここ数週間はグレゼスタに留まって自分を鍛えることを優先してもいいかもしれない。
まあ、コルネロ山の次に植物の採取地として多かった、ナバの森に赴いても良いけど……。
グルタミン草や香辛料の新たな植物も発見出来たし、色々と出来そうだからグレゼスタに籠ること優先で、数週間経つ前に何か植物が必要と感じたら、ナバの森に行ってみるでいいな。
「様子見した方が良いとのことで、理解致しました。私からの質問は以上ですね。ギルド長さん、今回も色々と対応頂きありがとうございました」
「こちらこそ、今回も色々と手間暇かけてすまなかったな。今後も冒険者ギルドを利用してくれると助かる。それじゃ俺は裏へと戻るから、補填金と慰謝料は受付嬢から貰ってくれ」
色々としてくれたギルド長にお礼を言い、俺は後ろの部屋へと戻っていくのを見送った。
それから受付嬢さんと事務的な取引をし、冒険者ギルドを後にする。
……それにしても、仕事が早かった。
鞄の回収は期待していなかったのだが、昨日の今日で、アングリーウルフの調査と荷物の回収を終わらせているんだもんな。
流石はAランクパーティなだけある。
【蒼の宝玉】。
アーメッドさんが脱退したパーティと言うところだけが、若干引っかかるが今回の件に関しては感謝しかない。
とりあえず鞄が返ってきたことだし、一度ボロ宿に戻って仕分けしてから、『エルフの涙』で高品質の植物を売りに行こう。
『エルフの涙』のおばあさんにも香辛料やグルタミン草についてと、苦い植物を打ち消す物がないか、少し聞いてみようか。
ボロ宿に着き、早速仕分けを行った。
二日間しか採取していないのにも関わらず、鞄の7割が埋まっているだけあって、かなりの量の植物を採取できていた。
やっぱり今まで見逃していた香辛料の存在が大きいな。
一体いくらで売れるのかワクワクさせながら、俺は1時間ほどで全ての仕分けを終わらせた。
仕分けた結果は、薬草が低品質123本、中品質168本、高品質43本。
魔力草が低品質28本、中品質33本、高品質9本。
上薬草が低品質5本、中品質5本、高品質2本。
オール草が低品質3本、中品質4本。
ボム草が低品質8本、中品質9本、高品質4本。
エンジェル草が低品質5本、中品質8本、高品質3本。
リンリン草が低品質9本、中品質12本、高品質5本と言う結果だった。
使用する魔力草と高品質のエンジェル草とリンリン草を抜き、前回の買取金額から逆算してみると、約金貨3枚と銀貨9枚で売れる計算。
補填分で銀貨7枚の返却がされており、そして慰謝料で金貨5枚貰ってしまったから、今回も金貨10枚近いプラスになる。
売る気はないが、魔力草も売れば更に儲けを出せる訳だし、更にここから今回新たに採取した香辛料の売却分も加算される。
……思わず、頬が緩んでしまうほど、お金稼ぎに関しては順調に行き過ぎているな。
今日の夜、ライラとニーナに案内してもらうときに、今回の追加報酬を渡してもいいかもしれない。
昨日のグレゼスタまでの道中では、依頼は途中で失敗だしアングリーウルフの素材も貰ったから絶対にいらない! と言われてしまったのだが、これだけお財布がほくほくなら命を懸けて助けてくれた【鉄の歯車】さんに追加報酬を渡したい。
今回も断られるかもしれないけど、一応提案だけはしてみようと俺は思った。
それじゃ仕分けも終わったところだし、『エルフの涙』へ行こうか。
おばあさんに会えるの楽しみだな。
博識だし優しいし、あのおばあさんと話すのは楽しい。
自分で逆算した合計採取金額のお陰で、昨日のアングリーウルフの襲撃のことも大分気持ちが紛れ、俺はルンルン気分で『エルフの涙』へと向かったのだった。
グレゼスタの街のはずれへと着き、『エルフの涙』へと着いた。
この間と同じ様に、お店から漂ってくる心落ち着くような自然の良い香りを目一杯嗅ぎながら、『エルフの涙』の扉を開ける。
扉が開くと同時に、カランコロンと心地の良いベルが音を響かせ、更に俺の心が安らいでいくのが分かった。
本当にここのお店は居心地がいいよなぁ。
どういった原理で鼻を衝く薬草のキツイ臭いが、心地いい匂いに変わっているのか気になりながらも、俺はお店のカウンターへと向かう。
「すいません。植物の売却に来ました。おばあさんいますか?」
例の如く、カウンターには誰もいなかったため、お店の奥にも聞こえるように大きな声を出すと、奥から杖の音と共に、優しい笑顔のおばあさんがゆっくりと出てきたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます