第六十七話 アングリーウルフ襲撃の理由


 受付へと近づくと、受付嬢さんからいつもの言葉が飛んできた。


「いらっしゃいませ。クエスト達成報告でよろしかったでしょうか?」

「いえ。実は護衛依頼を頼んだのですが……アクシデントにより途中帰還と言う形になってしまいまして、その報告に来ました」

「途中……帰還ですか? それは大変申し訳ございませんでした!」


 俺がそう返事をすると、受付嬢は前回と同じような反応を見せたあと、すぐに頭を下げてきた。

 何度も思うが、何一つ悪くない受付嬢さんに謝られると、こっちが悪いことをした気分になるんだよな。

 ……と言うか今回に関しては誰も悪くない。


 【鉄の歯車】さん達は最善の行動を取ってくれた訳だし、冒険者ギルドは良い冒険者パーティを斡旋してくれた。

 俺は鞄と二日分の補填だけ貰いに来ただけで、今回については謝罪なんて一切求めていない。


「受付嬢さん、頭を上げてください。今回はしっかりと護衛して頂いたので感謝しているぐらいですから!」


 俺がそう告げるとゆっくりと頭を上げ、恐る恐る俺の表情を確認してきた受付嬢さん。

 そんな受付嬢さんに、俺はニッコリとほほ笑みかける。


「クレームを言いに来たとかではなく、忘れた物の回収と、護衛途中となった残り二日分の補填を頂くために訪れただけですので。よろしければギルド長さんをお呼び頂いてもよろしいでしょうか?」

「……お気遣いありがとうございます。はい! すぐにギルド長を呼んでまいりますので、少々お待ちください!」


 そう言うと、すぐに後ろの部屋へと駆けて行った受付嬢さん。

 よしっ、無事にギルド長さんとお話することが出来そうだな。

 【鉄の歯車】さん達が良い仕事をしてくれたことを報告しつつ、優良冒険者パーティを紹介してくれたお礼もしようか。


 奥から部屋へと戻って行った受付嬢さんと、入れ違うかのような速度ですぐに部屋から出てきたスキンヘッドのギルド長。

 その表情はなんとも言えない顔をしている。


「ルイン、わざわざ報告に来てくれてすまないな。昨日、【鉄の歯車】から事情は聞いている」

「事情が伝わっているなら、話が早そうで良かったです。鞄とかってまだ届いていたりしませんよね?」

「いや、もう届いているぞ。昨日、すぐに【蒼の宝玉】と言うAランク冒険者パーティに依頼して、コルネロ山で起こっている原因の調査と荷物の回収を完了してもらってある。…………前回、放置すると言う失態があったのに、また依頼の失敗となってしまって本当に申し訳ない!」


 机に頭をぶつけながら、凄い勢いで謝ってきたギルド長。

 ゴンッと凄い音がしたけど大丈夫か……?

 

「今回も確かに依頼途中での帰還となりましたが、今回に関しましては依頼失敗ではないと思っていますので、謝罪はいらないですよ! 【鉄の歯車】さん達はアクシデントにもしっかりと対応してくださいましたし、護衛と言う完璧な仕事をこなして頂きましたから」


 俺が頭を下げて謝罪しているギルド長にそう告げると、頭は下げたまま、ちらりと俺を覗き見るように視線だけを向けてきた。

 

「……そう言って貰えると本当に助かる。ルインには二度も温情をかけてもらったな。しばらくは頭が上がりそうにない」

「いや、今回は本当に温情とかじゃなく……むしろ感謝しているぐらいですから。次回以降も【鉄の歯車】さんには依頼を頼もうと思っていますし」

「本心からそう言ってくれているなら、冒険者ギルドからしたら嬉しい限りだが……」

「本心ですよ。ですから、今回は慰謝料もいらないですし、今回の一件につきまして【鉄の歯車】さん達を評価して上げてほしいと本気で思っています」


 俺が視線を合わせてそう告げると、ギルド長は先ほど机にぶつけて真っ赤になっている箇所を、ぺちぺちと叩きながらはにかむように笑った。

 その笑顔がどこかぎこちなく、つられて俺も笑ってしまう。


「ルインは本当に良い奴だな! それなら希望通り、【鉄の歯車】に対しての今回の手当ては多く出しておく。それと……ルインに対しての補填はもちろんのこと、慰謝料についてもキッチリと払わせてもらう。前回ぐらいの金額は渡せないが、金貨5枚は支払わせてもらう!」

「い、いや! 本当に大丈夫なんで——」

「これは冒険者ギルドの沽券に関わる問題だから、受け取ってもらわにゃ困る。あと……これが【蒼の宝玉】から預かっている鞄だ。ルインので合っているか?」

「え、ええ。鞄は合っていますが、慰謝料については—―」

「慰謝料は貰ってくれないと本当に困るんだ。それで、慰謝料以外でなにか聞いておきたいことはあるか?」


 何回も説明したが、クエスト自体は成功だと思っているんだけどな。

 ……ただ、ここまで言ってくれたのなら、素直に受け取るべきか。


「すいません。それじゃありがたく慰謝料を受け取らせて頂きます」


 俺がそう申し訳なさそうに告げると、ギルド長さんは気持ちの良い笑顔を見せてくれた。

 

「当たり前の対応だから礼なんていらないぞ。それでルイン。何か質問はあるか?」

「あっ、はい。コルネロ山がどうなっているのかを聞きたいです。何故、アングリーウルフの群れが襲ってきたのか。それと今後、コルネロ山に採取へ行けるのかを教えて頂ければ幸いです」


 俺は聞きたかった二つを尋ねる。

 この二つの情報は、俺の今後の動きに大きく係わるからな。


「了解した。説明させてもらおう。まず何故アングリーウルフの群れに襲われたのか――についてだが、アングリーウルフと縄張り争いをしているアンクルベアのボスが、何者かに殺られたことが原因で、現在二つの勢力の均衡が崩れてしまっているらしい。そのせいでアングリーウルフの動きが活発になっているのが、今回とそして前回のアングリーウルフが襲撃してきた原因の最有力候補のようだ」


 ……やはり、最初の採取に行ったときに食べたアンクルベアは、アンクルベアのボスだったのではと思ってしまう。

 だって、アーメッドさんが討伐したあのアンクルベア。本当に大きかったもんなぁ。


「無論、たまたま襲われた……と言う可能性もあるのだが、こうも立て続けにアングリーウルフから襲撃を受けたとなると、【蒼の宝玉】からの報告通り、この可能性が一番高いと冒険者ギルドも考えている」


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