第五十九話 香辛料


 昨日同様、バーンとポルタに護衛されながら、俺は二日目の採取を無事終えることが出来た。

 採取する植物の種類も増やしたことで採取量も増え、今日だけで鞄の7割が埋まるほどの量。


 狙っていたグルタミン草を4本と、‟味”についての効能があったペッパーの実、ローレルの葉、クミンの種子、ジンジャーの根を新たに採取した。

 グルタミン草以外も、実際に口にして食べてみたのだが、どれも到底美味しいとは思えなかった……。果たしてこんなのが料理に使えるのだろうか。


 とりあえず、ちゃんとした判断はニーナとライラの二人にしてもらうとして、今回は持ち帰ろう。

 ダンベル草も昨日に続き、1本収穫出来たし大満足だな。

 行きよりもかなり重い鞄に、俺はほくほく顔で拠点へと戻った。


「三人共、おかえり!どうだった? 色々と収穫できた?」

「遠巻きに見ていただけだが、昨日以上の収穫だったぞ。既にこんな大きな鞄にかなりの量の植物が入っているからな」

「もしかしたら、もう既に今回僕らを雇った額の金貨1枚と銀貨5枚分は、優に超えているのではないでしょうか?」


 ライラの言葉に返答するバーンとポルタ。

 ポルタはそう言ったが、昨日の時点で金貨1枚と銀貨5枚分ぐらいは採取できている。

 正確に数えていないため恐らくだが、今日だけで金貨6枚分くらいは採取出来たのではないかと思う。

 

 依頼料が金貨4枚だったとしても、もう既に黒字になっている計算だ。

 まあ、自分用に使おうと思っている魔力草を抜いたら、まだまだ採取しないといけないんだけどな。


「そうだね! 今回【鉄の歯車】さん達を雇っている分くらいの額は、もう余裕で稼げていると思うよ。……それとライラ。昨日言った通り、‟味”が効能の植物を採取してきたから、良かったら見てくれないかな?」

「おっ、採取出来たんだね! もちろんいいよ。味見して見るから出してみて!」


 ライラに許可を貰ったし、早速取り出してテーブルの上へと出す。

 どれもこれも単品での味が酷かったからなぁ……。

 正直、あまり期待していないが、一つでも料理に使える食材があれば恩の字だな。


「これ全部、‟味”に関わりがある植物だった。昨日のスープにしたグルタミン草と違って味見した感じ、美味しくなかったから期待は出来ないけど、一応見てみてほしい」

「こんなにいっぱい!? ニーナも手伝って! ……あとさ、香辛料って香り付けや風味付けだから単品で食べても美味しくないと思うよ?」

「うーん? そう言うものなのか? 料理ってよく分からないな」


 ライラが言っている意味をイマイチ理解出来ていないが、何かと組み合わせることで力を発揮するってことか?

 俺はバーンとポルタと一緒に、俺が採取してきた植物を味見している二人を見守る。


「僕も全く分からないので、分からないのが普通だと思いますよ。料理は奥深いみたいですからね」

「そうそう。二人が凄いってだけだな。俺も美味いか美味くないかの判断しか出来ない」

「俺が変なのかと思っちゃってたから、そう言ってくれて良かったよ。……でも、なんであの二人はあれだけ料理出来るんだ?」

「ニーナさんはお父さんが料理人らしいです。ライラさんは料理が趣味って言ってましたね」

「そうそう。料理好きが二人もいるから、遠出したときでも食にはあまり困ったことないんだよ。あの二人、食べれる物かの判断もつけれるみたいだからな」


 男三人で話しながら二人の反応を待っていると、どうやら判定がついたようだ。

 一種類は使えて欲しいなぁと言う願望だが、はたしてどうだろうか。


「ルインッ! 味を見てみてみたけど、これ全部使えるよ!」

「…………ええ。どれも香辛料として、料理に使うには抜群ですね」

「全部? 全部使えるのかっ!?」


 驚きのあまり、食い気味で被せるように声を荒げてしまった。

 全部使えるとは到底思えなかったが、どれも料理に使えるのか……。

 あの植物たちをどう生かしたら美味しくなるのか、俺には想像もつかない。


「うん!全部使えるよ! 多分、市場に持って行ったら売れると思うから、グレゼスタの街に戻ったら良いお店を紹介してあげるね!」

「ありがとう!それは本当に助かる! ……あと少し意地汚い話だけど、どれくらいで売れるとかって分かったりする?」

「うーん……。私は値段とかには疎いからなぁ。ニーナは分かる?」

「…………おおよそでいいのであれば、分かりますよ」

「じゃあ、教えて欲しい! 採取する基準みたいなのも決めたいから」

「…………分かりました。それではこちらの実から……」 


 それから俺は、ニーナにおおよその植物たちの値段を教えて貰った。

 正直、どれも驚くほどに値段が高く、ペッパーの実に関しては銀貨1枚で取引されるほどには万能な香辛料らしい。

 その他も平均銅貨3枚前後で取引されているようで、今まで見逃していたことを軽く後悔している。


 ただ今日、売れると言う事実が分かっただけで収穫だ。

 恐らくだけど、この‟味”に関しての植物だけで、買い取金額が1.5倍増しくらいにはなると俺は推測している。


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