第五十八話 グルタミン草の可能性
スープの美味しさに一人興奮していると、隣のライラも興奮した様子で、俺の肩を軽くパシパシと叩いている。
「ルイン、これっ! これ、本当に美味しいよっ! このスープに入れたのって本当に植物だけなんだよね!?」
「う、うん。入れたのは植物ダケ。俺も本当に美味しくてビックリしてる」
「これ、なんて植物なの? まだ余りあったりする?」
「ううん。これしか採取できなかったから、このお湯で茹でたものしか残ってない」
「じゃあさ、じゃあさっ! この残りのスープ貰ってもいいかなっ? ちょっとアレンジ思いついちゃった!」
「大丈夫……だけど、アレンジ?」
「うん! 今日はもう遅いからアレだけど、明日のお楽しみにしてて! 明日の朝、ニーナに手伝ってもらってちょっと作りたいものがあるんだ!」
アレンジか……。
夜ご飯に飲んだスープも美味しかったし、ライラのアレンジは期待できるな。
葉っぱを煮詰めただけの濁り汁でこれだけ美味しいのだから、ライラとニーナの手が加われば更に美味しい料理へと化けるかもしれない。
……と言うか、専属契約を結んだことだし、‟味”に対して効能のある植物もこれから採取して、二人に見て貰おうかな?
その場で料理に使える植物かの判断をして貰えば、無駄に持ち帰るってこともしなくて済むし、これは良い案かもしれない。
「ねぇライラ。コルネロ山で採取できる植物が、料理に使えるかどうかの判別とかってしてくれたりすル? 実は色々と味に関する植物を見つけてはいるんだけど、使えないと思って採取してこなかったんだよね」
「出来ると思うよ! ニーナも料理で使えるかどうかの判断ができると思うから、私とニーナで見てあげる!」
「それは助かる! それじゃ早速明日からそっち系の植物も採取してくるから、よろしく頼むね」
「りょーかい! ……良い感じでタメ口も慣れて来たね!」
こうして、俺はライラにグルタミン草のスープを渡してから、別れてテントへと戻った。
ライラからのタメ口の提案のお陰で、なんだか新鮮な感じで喋ることが出来たな。
四人の中では、積極的に喋りかけてくれるライラが一番話しやすい。
途中の沈黙は、背中に嫌な汗が流れるほど気まずかったけど。
簡易テントで一泊した翌日。
美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐり、起床。
テント内にまで、昨日のスープとはまた別種の良い匂いが漂ってきている。
「おはようございます。……ルインさんもこの匂いで起きましたか?」
「ポルタ、おはよう。う、うん。良い匂いがして目が覚めちゃっタ」
昨日、ライラに言われた通り、ポルタにもタメ口で話してみたのだが、一度目を軽く開かせて驚いた様子を見せたけど、すぐに何事もなかったようにしてくれた。
「ニーナとライラが朝ご飯を作ってくれてるみたいだな。……寝起きだけど、腹が減ってきたな」
「僕たちも外に出ましょうか」
寝起きの三人で、匂いに釣られるように外へと出ると、外は更に良い匂いが漂ってきている。
「三人共、おはよう! 昨日ルインが作ってくれたスープのアレンジ版が出来てるから食べてみてっ!」
「ん? ルインが作った?」
「作った……と言うと少し語弊があるけど、実は昨日採取した植物をお湯で茹でてみたんだ。そしたら予想以上に美味しかったってだけだよ」
「なんだ? 夜に二人でそんな楽しそうなことしてたのかよ。……ってか、植物を茹でたお湯が美味しいのか?」
「バーンもとりあえず飲んでみれば分かるよ! ほらっ、みんなの分よそったから!」
昨日、食事を囲んだ場所で再び五人並び、出されたスープの前に座る。
スープをよく観察するが、昨日と違う点は見た目では余り分からないな。
薄緑色の美味しくなさそうな見た目をしているが、お腹が鳴りそうになるくらい強烈な匂いを発している。
昨日よりも更に匂いが増していて、お肉や別の野菜の匂いもどこか感じるな。
「それじゃいただきます!」
「「「いただきます!」」」
昨日同様、食前の挨拶をしてから、スープを口へと運ぶ。
スープが舌先に触れた瞬間に感じる旨味。
この旨さのベースはグルタミン草だが、匂いで感じたように野菜の甘みとお肉の暴力的な旨さも加わって、スープを掬うスプーンが止まらない。
飲み終えたあとの鼻から抜ける香りも抜群で、あっと言う間にスープを飲み干してしまった。
「うんまぁ……。なんだコレ……? こんな美味しい食べ物?飲物? 俺、初めて飲んだぞ」
「確かにこんな美味しい物、僕も初めて食べましたよ。このスープには何が入っているんですか?」
バーンとポルタが口々に感嘆の声を漏らした。
確かに何が入っているのか気になる。
ベースは間違いなくグルタミン草スープなのだが、それ以外が全く分からない。
「実はね、昨日作ったスープにはぐれ牛鳥の骨を入れて煮込んで、そこにルインのスープを混ぜて出来たスープなんだ! まあ、細かい調整はニーナがやってくれたけど!」
「それじゃあ、昨日の夜に頂いたスープに、俺の作ったスープを混ぜただけってことなの?」
「そうだよ! それだけでこの完成度の料理が出来ちゃったって訳! ……ねぇルイン、このスープに使った植物。多分高値で売れると思う」
ライラが俺に耳打ちしてそう言ってきた。
……確かに、グルタミン草の力でこの旨さを引き出せるのであれば、高値で売れてもおかしくはない。
グルタミン草自体のレベルが高く、繁殖率が低だったことが懸念点だが、これはダンベル草に次いで、積極的に狙って収穫してもいいかもしれない。
このスープは自分の中で、更に収穫に対するモチベーションが上がる品だったな。
他の‟味”に関する食材を探しつつ、今日は少し視野を広げて収穫に向かおうか!
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