第五十七話 ライラと夜の談笑


「それにしても、治療師ギルドでは酷い扱いを受けていたんですね」

「俺自身が使えなかったから、仕方ない部分でもありますけど」

「俺はルインと関わったばかりだが、使えないなんてことは絶対に思わないぞ。ニーナのこともあるからか感情移入し過ぎて、正直ブランドンが憎くてたまらなくなってる」

「それは私もだよ! ……ねぇ、契約してくれたお礼に、私達でブランドンを少し懲らしめちゃう?」


 なにやら怖い相談を初めたバーンとライラ。

 俺よりも怒ってくれていることに対して嬉しさもあるが……流石に止めないとな。


 俺はもう本当に、ブランドンや治療師ギルドについては何も思っていない。

 何回も思うがこうして色々な経験が出来ているのは、ブランドンがクビにしてくれたからだし、むしろ感謝をしているくらいだからな。


「バーンもライラも、俺のために怒ってくれてるのは本当にありがたいですけど、俺はもう過去の事と割り切れていますから。治療師ギルドを辞められたからこそ、こうして自由にやれてる今があるので」

「確かにそっか……。ずっと治療師ギルドで働かされてた方が、ルイン的には駄目な未来だったんだもんね!」

「うーん、理屈的にはそうかもしれないですけど……。僕はバーンさんやライラさんと同じく、やっぱり引っかかってしまいますね」

「実際大変でしたけど、身寄りのない俺を面倒みてくれた治療師ギルドには、助けられていた部分もありますので」


 俺はそう結論付けて話を締めた。

 もう二度と関わりたくないとは思っているけど、本当に復讐してやろうって気持ちが俺には一切ないからな。

 


 それから色々な話へと移り変わっていき、夜も更けていったところで今日はお開きとなった。

 寝床に関してもテントを使っていいと言われたため、俺は遠慮はせずにテントの中で眠らせてもらうことにした。

 ……ただ、寝る前にグルタミン草のお湯だけは飲みたいため、一人テントを抜け出し、渓流付近で火を焚べてグルタミン草を茹でる。


 パチパチと良い音を鳴らす、焚き火を見ながらグルタミン草が茹で終わるのを待っていると、後ろから誰かがやってきた。


「おーっす。一人抜け出してたから様子見に来たよ!」


 振り返るとライラが一人で歩いてきていて、そのまま俺の横へと座った。


「すいません。心配かけてしまいましたか?」

「うん。さっきのことで昔を思い出させちゃったかなぁって思ったんだけど……なにやら違うみたいだね」

「ええ。さっき採取した植物を茹でてみてるんです。鑑定結果で効能が旨味と出たのがどうしても気になってしまって」

「へー! 旨味が効能の植物? 初めて聞いたなぁ。確かに気になるね! 私も一緒に居てもいい?」

「ええ。面白い物じゃないですけど、構いませんよ」


 それから無言のまま、ライラと一緒に焚き火を見ながら、グルタミン草が茹で上がるのをひたすらに待つ。

 会話が一切なく単純に気まずくなっているが、俺が許可した訳だからなぁ。

 沈黙にそわそわとしながら茹で上がりを待っていると、長い沈黙を破ってライラが俺に話かけてきた。


「ねぇ、ルインはなんで敬語使ってるの?」

 

 あまりにも脈絡のない話でビックリする。

 話しかけられるとしたら、先ほどの治療師ギルドの話か、植物についての話だと思っていたから想定外の切り込みだった。


「依頼人と請負人の関係だからですかね? ……あとは敬語の方が、失礼がないのかなって思いますし」

「もしかして、私がタメ口で話してるの嫌だったりする?」

「いえ、全くそんなことはないですよ。話し方に嫌とかは感じないので」

「それじゃルインもタメ口で話さない? 私も……って言うか、私達も話し方で嫌に感じることないからさ。それに……名前は呼び捨てなのに敬語だと、なんか違和感あるんだよね!」


 確かに言われてみれば、名前は呼び捨ての癖に敬語で喋っている。

 相手からすれば、違和感を覚えるのか。


 でも、俺は生まれてこの方、家族くらいにしか敬語を使わずに喋ったことがない。

 治療師ギルドで徹底的に敬語を叩き込まれたって言うのもあるけど、逆にタメ口で話すのも違和感があるんだよな。


「言われてみれば、確かにそうですね。でも、急にタメ口で喋ったらおかしくないですかね?」

「全くおかしくないよ! それよりも距離が近くなったなぁって感じて嬉しくなるかな!」


 …………そう言うことなら、使ってみた方がいいのか。

 一応、専属契約を結んだんだし、距離は近くなった方がいいもんな。


「そ、それじゃ、これからはタメ口でい……クヨ!」

「あははっ!なんでカタコトなの! ルインってさ、大人しそうに見えて面白いよねっ! ……でも、いい感じかな。みんなにもタメ口で話してあげてよ!」

「わ、分かっタ。なるべく、敬語は使わないようにガンバル」

「ぷっ、あははっ! だから固いって! あーおかしい……。――あっ、ルイン見て! 良い感じに茹で上がったんじゃない?」


 俺が慣れないタメ口に頭がパンクしていると、ライラが茹でたグルタミン草を指さしてそう言ってきた。

 俺も覗き込んで見て見ると、確かにお湯に色味もついていて良い感じだ。


「本当だっ! 良い感じ……だネ! ライラも……ノム?」

「うんっ! ノムッ!」


 俺の言い方を真似して満面の笑みでそう言ってきたライラ。

 真似されたことに若干恥ずかしさを感じつつも、茹でたお湯をカップに入れてライラにも手渡す。

 

「ありがとう。ふぃー、とりあえず良い匂いはするね。これってさ、その植物しか入れてないの?」

「う、うん。お湯に植物を入れたダケ」

「へー。それにしては匂いがいいなぁ。それじゃ、いただきます」


 挨拶をしてからお湯を飲んだライラ。

 それを見て、俺もグルタミン草のお湯を飲んでいく。

 

 ……ンンッ!? う、うまいっ! 美味すぎる!!

 さっき噛んだ時の倍くらいの旨味成分がお湯に染み込んでいて、これだけでスープとして完成しているほどの美味しさだ。

 こ、これはダンベル草に次ぐ、新植物の発見が出来たかもしれない!


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