第五十六話 過去の話と契約の報告


 美味しい食事を頂き、山での夜ご飯を終えた。

 植物の可能性に目が向いたことで、あのスープにグルタミン草を入れたくなってしまったのだが、流石にその提案は出来なかったな。

 暗に美味しくないと言ってるように思われるだろうし。


 後でこっそりと、お湯にグルタミン草を入れて飲んでみようと考えていると、後伸ばしにしていた話し合いがとうとう始まった。

 

「それじゃ早速だけど、ルインがなんで治療師ギルドを辞めちゃったのか聞いても大丈夫? 嫌なことだったら言わなくても大丈夫だけど!」

「面白い話では決してないですけど、全然話せますよ。……理由があって辞めたとかではなくて、単純に治療師ギルド側からクビにされてしまったんです。先ほども言った通り、‟レア”持ちってだけで俺は治療師ギルドで働けていたんで、ギルド内での評価が最底辺だったんです」

「えー……。そんなに凄いスキルを持ってるのに評価が最底辺だったの?」

「凄い特技と言っても、鑑定することしか出来ませんでしたからね。治療師ギルドで働いている五年間、ずっと運ばれてくる植物の鑑定を延々とやっていただけでしたから。……今思えばクビも妥当だったのかなって」

「……………ルインさんに、そんな過去があったんですね……。良ければ、働いていたときの話を詳しく聞かせては貰えませんか?」


 そう言ってきたのはニーナ。

 初めてニーナから俺に声を掛けてきてくれたため、一瞬戸惑ってしまったがすぐに了承する。


「――ええ、大丈夫ですよ。本当に鑑定していたこと以外、無に近い五年間だったので、多分聞いても面白くはないと思いますけど。それじゃ俺が治療師ギルドで初めて働きだしたところから、軽く話させてもらいます」


 ニーナの要望に応え、俺は治療師ギルドで働いていたときのことを、【鉄の歯車】さんたちに掻い摘んで話した。

 何度も言うが働いていた時の話は決して面白い話ではないし、怒られてばかりだったと言う単調な内容の話になってしまっていたのだが、【鉄の歯車】さんの四人は退屈そうにせず、真剣に聞いてくれていた。


「……とまぁ、俺がクビにされた経緯はこんな感じですね」


 話を終えると、真剣な表情をしたポルタが立ち上がり、俺の許へと寄ってくる。

 そしてそのまま俺の近くまで来たと思ったら、深々と頭を下げ出した。

 

「先ほどはすいませんでした。ルインさんにそんな過去があるとは知らずに、失礼な勧誘をしてしまいました」


 俺の過去に対し、何故パーティ勧誘が駄目だったのかが結びつかず、俺は茫然としてしまう。

 謝罪の意味は理解は出来ないが、謝られることは確実にされていないと言い切れるため、とりあえずポルタに頭を上げるように俺は伝える。


「ポルタは謝ることはしていないですよ! パーティに誘ってもらったのは素直に嬉しかったですから」

「えっ、ルインをパーティに誘ったの?」


 俺をパーティに勧誘したと言う事実を知らないライラが声を上げたが、一先ずここはスルーして、ポルタの反応を待つ。


「勧誘したことと言うよりは、‟レア”持ちだからと言う理由で誘ったことについての謝罪です。今思えば、あの対応はルインさんに失礼でしたし、そんな過去があったなら尚更です」

「いやいや、本当に全く気にしてないので大丈夫ですよ! 俺自身も、俺には‟レア”しかないと思っていますし、それと同時に‟レア”も俺の一部であるとも思っているので。そこを評価してもらって、即勧誘してもらったのは嬉しかったです。ありがとうございます」


 俺がそうお礼を伝えると、何処かホッとした様子を見せたポルタ。

 実際に、俺に【プラントマスター】が無ければ、本当になにもないからな。

 そんな当たり前のことを気にしないし……アーメッドさんとの約束で、俺は強くなると決めているため、過去のことを気にしている余裕すらない。


「……ありがとうございます! まだ早いかもしれませんが、ルインさんと契約を結んで良かったと心から思ってます」

「それは俺の方もですよ。まだ出会ったばかりですが、【鉄の歯車】さんたちの人の良さを身に染みて感じてますので」


 お互いに褒め合い、俺とポルタが見合って笑っていると、無視されていたライラがこっちへとにじり寄ってきた。

 

「ねぇねぇ、私を無視しないでよ! 勧誘ってなに? 契約ってなに? 私にも教えてっ!」

「ライラさん、報告が遅れてすいません。実は僕たち【鉄の歯車】とルインさんで、定期的にクエストを依頼、受注する専属契約を先ほど結んだんです」

「ライラ、凄い契約だぞ。ルインが良い提案を持ち掛けてくれて、即座に契約を結んだんだよ」

「えっ、専属契約? なにそれっ!……よく分からないけど、面白そうっ!」


 そこからはライラとニーナに専属契約の詳しい話を伝え、契約内容がどんな内容なのかを教えた。

 二人が了承してくれるかが正直不安だったのだが、俺の不安に反して二つ返事で了承してくれた。

 

「本当に良い契約じゃん! 私達のが有利な契約に思えちゃうけど……ルイン、いいんだよね?」

「はい。俺から提示した内容ですので大丈夫ですよ」

「そっか。なら良かったよ! 私達も精一杯サポートさせてもらうからっ! さっきの話聞いて、かなりルインが良い人だって確信持てたし、治療師ギルドみたいな関係じゃなくて、お互い支え合って行こうね!」

「はい。よろしくお願いします!」


 俺はライラと握手をして、円満に話がついた。

 【鉄の歯車】さん達が良い人達でよかった。

 【白のフェイラー】のこともあったし、契約を結ぶのは少し時期尚早かなとも思ったのだが……契約を持ち掛けて正解だったな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る