第五十五話 植物の更なる可能性


「ルインって‟レア”持ちだったんだ! ……道理で植物採取なのに護衛をつけれる訳だね! もしかして治療師ギルドで働いていたのも、その‟レア”で?」

「そうですね。生まれはドノの村って言う辺境の村だったんですけど、‟レア”だと発覚してから、国からこのグレゼスタの治療師ギルドで働くようにお達しが来たんですよ」

「へー、そうだったんだ! 大出世だね! ……でも、なんで治療師ギルドを辞めちゃったの? 植物を鑑定できるなら天職な気がするけど……」


 そこまで話が盛り上がったところで、バーンがストップをかけた。

 

「ライラ、話はご飯食べてからにしようぜ。今日はゆっくり話そう。こっちから一つ伝えたいこともあるしな」

「僕も賛成ですね。とにかく匂いだけ嗅いでご飯を食べれないのは、生殺しです」

「そうだね! とりあえずご飯にしようか! えーっと……ルインの分もよそうけどお椀はこれで大丈夫?」

「いえ。俺は自分の食料があるので、気にせず四人で食べてください」


 俺が遠慮してライラにそう告げると、ライラの表情は酷く悲しそうな表情へと変わった。

 

「えっ……。食べてくれないの? 折角、ルインの分も作ったんだけどな……」


 先ほどまで元気いっぱいだったのに、途端に悲しい顔でそう言われたら、なんだか凄く悪いことをした気分に陥る。

 食費だって馬鹿にならないだろうし、遠慮したいのだが……流石にこの表情でそう言われてしまったら、断ることが出来ない。


「あの……じゃあ、少しだけ頂いてもいいですか?」

「うんっ! 食べて食べて! 私とニーナの自信作だから」


 ライラはコロッと表情を変えて、笑顔でそう言ってきた。

 俺は笑顔を見て、ホッと一安心する。

 全員分のスープがよそわれ、みんなの前へと置かれた。


「それじゃ、食べようか。いただきます」

「「「いただきます!」」」


 声を揃えて食前の挨拶をし、がっつくように一斉にみんなで食べ始める。


 俺もまずは目の前のスープの匂いを嗅ぎ、そして見た目でまずは楽しむ。

 この拠点に戻ってきたときに嗅いだ、芳醇な匂い。

 そしてスープにはお肉と野菜が入っていて、スープ自体は琥珀色に澄み切っているように見える。


 嗅覚、視覚で楽しんだ後は味覚で楽しむ。

 木のスプーンでスープを掬い、口の中へと入れる。

 

 スープを口の中に入れた瞬間に、野菜の甘み、そしてお肉の旨味が感じられ、バランスの良い深みとコクの旨味成分が口の中を駆け巡る。

 後味は少しピリリとした辛さで締まり、良い香りが鼻から抜けていく。

 

 これは美味しいな。本当に美味しい!

 こうなったら止まらず、次から次へとスープを口へと運んでいく。

 野菜やお肉もしっかりと染み込んでおり、体の芯からあったまる。

 満点の星空も綺麗だし、最高の食事だな。


「ふふふ。にへへへ」

「ライラ、どうした? 顔が気持ち悪いぞ」

「いやぁ、ルインが美味しそうに食べてくれてるなぁって!」


 味の感想が気になったのか、どうやらライラが俺を観察していたようでニヤついている。

 スープと大自然の景色に意識が向いてしまっていて、見られていることに気づかなかった。

 このライラの表情から察するに、俺はまた変なリアクションを取ってしまっていたのだろう。


「あの、本当に美味しかったです! 今までで飲んだスープの中で一番の美味しさだったかもしれません」

「えっ、本当に!? そこまで言ってくれるとこっちも作った甲斐があるよ! ね?ニーナ」

「…………………ええ、そうですね。……美味しそうに飲んでくれるだけで、作った側としては嬉しいです」

「一つ質問なんですけど、このいい感じにピリッとして、風味いい香りが鼻に抜けるのってなんの食材でしょうか? 他の食材の味は分かったのですが、この味だけちょっと分からなくて」


 俺はスープを飲んでから気になったことを思い切って聞いてみた。

 ‟辛味”がアクセントになることがあっても、‟辛味”を美味しいと感じたのは初めてだったからな。

 なにを使ったのか、単純に気になり質問した。


「辛味はレッドホット草だよ! ニーナが考えて使うようになったんだけど、美味しさと風味が増すよね!」

「レッドホット草ですか……。聞いたことがない植物ですね」

「他の国から輸入されてる植物みたいで、私達はいつも市場で買ってるんだよ」


 他の国から持ち込まれた植物なのか。

 やっぱり、国によっても採取できる植物が違うんだな。

 新種の植物が他国にはある。そう考えただけでもワクワクしてくる。


「…………レッドホット草じゃなくても、この山で採れるスパイシーボムの実とかでも代用できたりします」

「スパイシーボムの実ですか? ……あのもしかして、辛味のある植物って料理に使えたりするんでしょうか?」

「うん! まとめて香辛料って呼ばれてるんだけど、かなり重宝されてるね! 臭い消しとかにも使われるんだよ!」


 そうだったのか……。これは、完全に盲点だった。

 辛味なんて食べても美味しくないわ、魔物に使うにはパンチが弱すぎるわで採取をスルーしていたが、他の食材の補助として使えるのか。

 もしかしたら、今日鑑定したペッパーの実も料理では重宝される植物なのかもしれない。

 

 今回の食事で、なにか自分の中で植物の可能性が一気に広がった気がする。

 ……と言うか、料理にも使え、自身の成長にも使え、対魔物の武器にもなる植物。

 俺の知識がなかっただけで、実は【プラントマスター】って最強のスキルなんじゃないか?

 ふとそう感じた、出来事だった。

 

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