第五十三話 効能 旨味


 植物採取を再開してから約2時間が経過。

 雑草地帯の鑑定を全て終え、この辺り一帯の植物を全て採取することが出来た。

 今回採取出来た植物は、薬草109本、魔力草34本、リンリン草2本、エンジェル草2本。

 それから上薬草3本に、未鑑定植物2種類。

 そして更には……ダンベル草も無事1本採取することが出来た。

 

 やっぱりダンベル草を見つけられた時が一番興奮するな。

 見た目がほぼ雑草なため、鑑定しないと判別出来ないドキドキ感が、より嬉しさを増長させている気がする。

 

 とりあえず、これで俺の手持ちのダンベル草は計2本となった。

 ちなみに前回の採取したダンベル草の残り一本は乾燥させていて、それを粉末状にして飲む計画をしているため、グレゼスタに帰ったら早速飲もうと思っている。


 工夫を凝らさないと流石にあの苦さのものは飲めないからなぁ。

 力はつくのかもしれないだろうが、それよりも先に体に異常をきたしてしまうレベルの苦みだった。


 よし。最後に、未鑑定植物の鑑定に入ろうか。

 俺は先ほど採取した未鑑定植物である、緑色の小さな実をつけた植物を口の中へと放り込む。

 いつものようにそのまま噛まずに飲み込むと、鑑定結果が出た。


【名 前】 ペッパーの実

【レベル】 5

【効 能】 辛味(中)

【繁殖力】 中

【自生地】 コルネロ山


 うーん。また辛味か……。

 辛味のある植物は前回もいくつか鑑定されていたんだけど、使いどころがないんだよな。

 一度、食したこともあるけど、汗が滲むくらいに辛いぐらいで、対魔物にはなんの効果も得られないと思う。


 これならまだ麻痺(極小)の効果を持つ、クレイム草の方が使いどころがありそうだな。

 そういう考えから今回も辛味が効能であるペッパーの実は、採取しないことに決めた。


 さて、気を取り直して、二種類目の植物の鑑定を行おうか。

 俺は表面がツルツルの長い葉っぱを、先ほどと同じ様に口の中へと放り込んで飲み込む。


【名 前】 グルタミン草

【レベル】 32

【効 能】 旨味(大)

【繁殖力】 低

【自生地】コルネロ山


 おおっ! 妙にレベルが高いな。

 それに……旨味? 初めて目にする効能だ。

 旨味ってことは……美味いのか?


 少し気になり、採取した近くにもう一本生えていたため、それを食べてみることに決めた。

 全部を食べるのは流石に怖いから、適当なサイズに手でちぎって口の中へと放り込む。

 今度はしっかりと咀嚼し、味わうように食べると……確かに徐々に旨味のようなものが口に広がっていく。

 

 葉っぱ部分は噛み切れず口の中に残り、飲み込めないのだが、噛んでるとドンドンと葉っぱから旨味成分のようなものが漏れ出てきて、なんとも言えない幸せな気分になる。

 うん! これは、辛味とは違ってかなり使えるかもしれない。

 すぐにもう一本ないか周辺を探すが……見つからない。


 繁殖力は低と鑑定されていたもんな。

 ちぎった残りを大切に保管しておき、今日の夜にお湯にでも入れて飲んでみようか。

 グルタミン草と言う戦闘とは別で使えそうな植物も採取でき、俺はほくほく顔でバーンとポルタのいる場所へと戻った。



「ルイン。採取は終わったのか?」


 俺が戻るなり、何処かそわそわとしてニヤけた表情のバーンが俺に声を掛けてきた。

 そんな表情を不思議に思いながらも、俺は返事をする。


「はい。この辺り一帯の植物は採取出来ましたよ」

「そうか。無事に採取できたなら良かったぜ! ……で! 話は変わって先ほどの契約の話についてなんだが、是非俺達【鉄の歯車】と専属で契約を結んでくれないか?」


 ニコニコ笑顔でそう言ってきたバーン。

 この様子だと、どうやらポルタから契約の話を詳しく聞いたようだな。

 俺の提案を理解してのこの表情って訳か。


「俺から提案したので、もちろん契約してくれるのはありがたいんですけど、ライラやニーナには話さなくていいんですか?」

「ああ、大丈夫だ。二人は俺からも説得するから、すぐにでも契約の方を約束してくれると嬉しい!」


 先ほどとは打って変わって、完全に乗り気となっているバーン。

 調子が良いと言うか、なんと言うか……。

 思わず笑ってしまうけど、しっかりとポルタがバーンにも説明してくれたようで良かった。


「あの、僕の方からも改めてお願いします。出来ればルインさんとは長い付き合いにしていきたいですからね」

「……それじゃ、先ほど言った契約を結ぶと言うことでお願いします。書面とかには残さないですが、定期的にこちらから連絡するので、その時に引き受けてくれれば助かります」

「ポルタ、やったな! 専属契約……。なんか初めて冒険者っぽい気がするぜ」

「確かに言われてみればそうですね。冒険者になって初めて分かりましたけど、冒険者とは名ばかりの、雑用みたいなことしかしてませんでしたからね」


 確かに‟冒険者”と言う名前だけど、掲示板とかで他の依頼を見ると、基本的に雑用みたいなものしかない。

 高ランク冒険者になれば話は変わってくるのだろうけど、低ランク冒険者たちは生きていくためにも、雑用のようなクエストをこなさないといけないんだもんな。


 そう考えると、俺がこの契約により【鉄の歯車】さん達の金銭問題を緩和させて上げられれば、【鉄の歯車】さん達は自由に使える時間が増えたり、クエストを選ぶことも出来るようになるのか。 

 俺は安定して良い冒険者に護衛してもらえるし、これは本当に両方が得をする契約が出来たかもしれないな。


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