第五十二話 契約の提案


 ポルタの口から発せられた一言は、意外なことにパーティ勧誘だった。

 【鉄の歯車】に勧誘されるとは思わなかったし、それをまさか一番言わなそうなポルタの口から出るとも思わなかった。


「お、おいっ! ポルタ! なに勝手にパーティ勧誘してるんだ!」

「だってルインさん良い人ですし。おまけに同年代。更には有用な‟レア”持ちですよ? 元治療師とも聞いていますし、今はフリーなはずですから。これを誘わない手はないですって」

「た、確かにポルタの言いたいことは分かるが……。ニーナやライラとも、話をしないと駄目だろ」

「大丈夫ですって。それよりルインさん、どうですか? 良ければ入って欲しいんですけど」


 バーンも困惑している様子だし、これは返答に困るな。

 ただ、とりあえず決まっていることとしては、俺はパーティに入るつもりはない。

 それは、【青の同盟】に加入したいと思っているからだ。


 それまでの間だけ、パーティに入れてもらうって言うのもアリと言えばアリだけど……そんな中途半端な気持ちで、パーティに加入したとしても迷惑になるだけだし、なにより自分の気持ちがぶれるのが嫌だ。

 自分のことは自分だから分かるけど、【鉄の歯車】さん達が良い人達だから、絶対に辞めたくなくなるのが目に見えているもんな。


「ポルタ、非常にありがたいお話ありがとうございます」

「えっ……と言うことは加入してくれるんですか?」

「いや……言いにくいのですが、俺もう入ると決めている冒険者パーティがありまして、今回のお誘いは断らせてもらいます」


 俺がポルタにそう伝えると、かなりガッカリした様子を見せた。

 そこで、そんなポルタに俺は一つ提案をする。


「そこで一つ提案なのですが、契約を結びませんか?」


 俺がそう伝えると、ポルタもバーンも首を傾げて理解出来ていない表情をした。

 俺が提案しようと思っているのは、定期的な植物採取の護衛依頼。

 一見、俺にしかメリットがないようにも思えるが、金銭的に困っていると言っていた【鉄の歯車】さんにもメリットのある提案だと思う。


「契約……? 一体何の契約を結ぼうと言うんだ?」

「今回行っているこの植物採取のクエストを、俺が【鉄の歯車】さんに定期的に指名依頼を出す。そして【鉄の歯車】さんはそれを受ける——と言う簡単な契約です」


 俺がそう伝えると、俺の言いたいことの意図が分かったのか表情を明るくさせたポルタ。

 そんなポルタとは対照的に、未だにぽかーんと口を開けているバーン。


「いいですね! 是非結びましょう! 確かにパーティと言った形じゃなくても、こう言った専属契約をすれば、お互いにいい関係を築けますもんね」

「ええ。実は護衛内容次第では、今回も追加報酬を考えていたんですが、契約を結んでくださったなら、護衛費用は金貨4枚で固定させてもらいます」


 俺がそう伝えると、ポルタは飛び上がって喜んだ。

 今までザ・無表情と言った感じだったのだが、意外とこう言った一面もあるんだな。


「金貨4枚!? それってDランク級の報酬じゃないですか! ルインさん、いいんですか?」

「ええ。しっかり護衛さえついて頂ければ、俺の方は金貨4枚でも大幅な黒字に出来るので」

「いやぁ……これはいいですね! 本当にありがたいですよ!」


 お互い満面の笑みで契約成立の握手をしようとしたところ、口をぽかーんと開けていたバーンがようやく動き出し、俺とポルタの前に割って入ってきた。


「おいっ! 俺にも分かるように説明しろ! それとポルタ、理解出来てないのに勝手に契約を結ぶな!」

「僕は理解できてますので。ルインさんは非常にいい話を持ち掛けてくれたんです。【鉄の歯車】のためにも邪魔をしないでください」

「邪魔とはなんだ! いつもは大人しいのに、金絡みになると元気になりやがって」

「それは皆さんがお金に疎すぎて、いつも金銭的にギリギリだからですよ。……そういうこと言うんでしたら、バーンさんが金勘定をしてくれてもいいんですけど?」


 ちょっとトーンを落として、バーンを脅すようにそう言ったポルタ。

 最初は全然分からなかったがこうやって見ると、意外と【鉄の歯車】はポルタがリーダーのパーティなのかもしれないと、ふと思った。


「……悪かったって。俺に金勘定なんかやらせたら、一日でパーティ崩壊する。……ただ、俺にも分かる説明をしてくれ」

「バーン、大丈夫です。後でニーナやライラがいる前で、もう一度分かりやすく説明するので、とりあえず今は薬草採取の続きをやってもいいですか?」

「ああ、すまないな。そう言えば俺が水を差してしまった。とりあえず続きをやってくれて構わないぞ」

「バーンさんには僕からも分かりやすく説明しておきますので、ルインさんは引き続き採取に当たって貰って大丈夫です。それと素敵な提案ありがとうございました」


 そう言ってポルタは爽やかに笑った。

 よしっ、それじゃ俺は植物採取に戻ろうか。


 ……それにしてもポルタからの勧誘は流石に驚いたなぁ。

 専属契約に関しても、三人が納得してくれればいいなと思いつつ、俺は大量の雑草の鑑定、採取にのめり込むのだった。


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